第34話 後編 禁断の恋 ③
立ち去ろうとしたとき、桐乃と会った。
僕の惨めな状態を見て、抵抗しても無理やり保健室まで引っ張られてしまった。
しかし、保健医さんがいなかった。
どうしてラブコメでは保健医さんはいつもいないだろう!?
まあ、いたとしても、やっぱりデカイおっぱいのお姉さんに決まってる。
「そこに座って〜!」
桐乃はベッドのひとつを指さして命じた。
「なんで?」
「す・わ・っ・て・!」
「りょ〜かいっ!!」
議論しても無駄だと分かっていたので、素直に従った。
ちょうど今気づいたけど、周りの女の子たちは完全に僕を手のひらで転がしてるんだよな。
桐乃はため息をつきながら棚をガサゴソ漁り、箱や瓶をガチャガチャ動かしていた。
やがて目的の物を見つけたらしく、満足そうな顔でこちらへ戻ってくる。
小さなプラスチックの箱から、綿と消毒液を取り出した。
「消毒なんて必要ないって。帰ったら顔を水で洗えば大丈夫だから。」
「チョイスさせてあげる。おとなしく消毒するか、それともあたしがボコボコにして、あんたが自分から消毒したくなるか。どっち〜?」
「二択しかないから選択肢ではなく、ジレンマだ。」
「そんなこと言えるなら、そんなにボコられてないっしょ?」
「だから、消毒いらないって言ってるんだよ。」
「真一くん…」
「お嬢様のおおせのままに〜」
彼女は綿に消毒液をつけて、まず優しく唇に押し当てた。
激しい痛みが走って、まるで焼かれたかのようだった。
「痛い!!しみる!!」
「当たり前でしょ〜、唇裂けてるんだから。」
ああ、またバカ扱いされた…
しばらくしたら痛みも和らいで、消毒液が染みた綿のしっとりした感触だけが残った。
「マジ殴られるの好き? ドMじゃないの?」
「安心して、あんたに比べたらくすぐったいだけだった。」
「じゃあ、ボコボコにしてあげよっか?」
「いらない。」
終わったあと、彼女は傷に絆創膏を貼った。
正直、自分でやればいいんだけど。
そうだったらあまりラブコメの展開らしくない。
それに、女の子に消毒されるのってちょっと恥ずかしい。
顔がほんの数センチしか離れてなかったけど、終わったときにようやく気づいたみたいで、目が合った瞬間に急に離れた。
「ねぇ、質問あるんだけど。あんたをこんな状態にしたやつって誰?」
「えっと…桐乃…本当に怖いんだけど。」
背中がぞくっとした。
「教えたら、明日には新聞に載ってしまう気がするけど…」
「心配すんなって!殺すとかしないよ〜。ただ死にたくなるくらいボコボコにしてやるだけっしょ〜」
「ちょっとやりすぎ。それって結局同じことだろう!!」
「そう思う?」
「もちろん!!そんなことしたいって思ってくれるの嬉しいけど。」
「そりゃ当然でしょ。で、誰がやったの?」
「ありがとう。でも気にしないで、別にやる必要はない。もう十分痛い目にあったと思うし。」
「そんなに彼を殴ったの!?」
「ノーコメント…」




