第29話 中編 男たちの地獄 ①
「これで何軒目だった?」
「もうとっくに数えるのをやめた。」
「ここに来てから何時間経った?」
「それは考えてはいけないことだ。」
「じゃ、いつまで続けるんだ?」
「それは…神様のみ知るもの。」
僕が今いる場所は、まさに戦場としか言いようがなかった。
塹壕のように並んだ売り場の棚を進んでいくが、どれも同じに見えて仕方がなかった。
敵地とも言えるこの場所は、僕の目には完全な迷路のようだった。
塹壕の両側に積まれた布の山はかつて弾を防ぐために使われた砂袋を思い出させた。
その砂袋は特有の匂いを放ち、かつてここで倒れた仲間たちの血や死を想起させた。
これは布の匂いと新品の香りだった。
絶え間ない換気扇の音はまるで頭上を旋回するスピットファイアのようだった。
敵はその制服と名前と階級が書かれたバッジで簡単に見分けることができた。
たとえその階級が最も低くとも彼らは鋭い目で獲物を見つける猛禽類のようだった。
僕と戦友は簡単に狙われる標的だった。
僕たちの階級も最低だったが、我々の任務は最重要であった。
上官たちの装備を運ぶことだった。
彼女たちは慣れ親しんだ環境の中を軽やかに動きながら、楽しげに会話していた。
これは数々の戦闘を経て得た経験の証だった。
僕はまだ、彼女たちの実力には遠く及ばなかった。
戦友である兵士・京介の体調は僕のほうより調子が悪かった。
彼はまるでゾンビのように、ゆっくりと機械的に動いていた。
彼の一歩一歩は途方もない努力を要するかのようで、まるで足を引きずるかのようだった。
両腕は体の横に突っ張ったままで、僕と同じく無数の荷物の重さで硬直していた。
これらの袋のベルトは肌に食い込み、はっきりと跡を残していた。
これは戦いの傷跡だった。
バスケ部員である彼は、もともと体力があって、まるで命を奪われたかのように虚ろな目をして、限界まで追い詰められているように見えた。
「向日葵と付き合っているから、慣れるしかない。」
彼は極端なほどゆっくりと顔を僕のほうへに向けて、絶望で歪んだ表情を浮かべた。
「解決策は......ない?」
「まあ、一つがあるだけ。」
「本当に!?」
一瞬前までの絶望が嘘のように、顔に新たな活力が蘇って、目は希望に輝いていた。
「彼女と別れる。」
彼の表情は一瞬で崩れ落ちた。
僕は先ほど与えた希望を打ち砕いて、彼を絶望させたのだ。
こんなことをするなんて僕は悪魔と呼べられるけど、本物の悪魔は僕たちの数メートル前に歩いてにこやかに微笑んでいる小さな生き物だった。
愛子との絆を深めると街を案内させられるためだったと言われてその生き物に無理やりここまで連れてこられて、袋を運ばされた。
僕にとっては街というより、まさに「男たちの地獄」、すなわち愛子が訪れているショッピングモールだけだった。
僕たちはヘトヘトだった。
何時間も休むことなくさまよい続けた。
口の中はカラカラに乾いて、脱水寸前だった。
僕が望むのはただ一つ。
オアシスだけだ。
「将軍!兵士たちが休憩を要求しています!」
「あっ!?」
まるで僕たちの存在をすっかり忘れていたかのように、三人は揃ってと驚いた声をだした。




