第27話 前編 初めて女の子を家に連れ込んだのは思った通りにはいかなかった ④
愛子を運ぶまま階段をどうにかこうにか登った。
室のベッドに置いても、彼女はまったく目を覚まさなかった。
能力を使うのは、本当に疲れるらしい。
これからは、使い方にもっと気をつけた方がいいと思った。
床に布団を敷いて、風呂場で着替えたあとにその上に横になった。
自分のベッドで寝ないのは慣れていなかったから、なかなか眠れなかった。
しばらくの間、布団の上で右にころがり、左にころがりするだけだった。
ようやく眠りに落ちようとした時、普段僕が寝るはずのところから驚いた声が静寂を破るのが聞こえた。
「はあ、ここはどこ!?」
彼女はそう独り言を言いながら、体を起こして伸びをして、周りをキョロキョロと見回した。
「あ、そうだ、ダーリンの部屋だ。ダーリン~、寝ているの?」
「もう寝かけてたんだけど、うるさい誰かのせいで眠れなかった。」
「美人と一緒に寝るなんて、毎日じゃないもんね。興奮してたの?」
「美人!?どこに!?」
横になったまま、ゆっくりと体をひねって彼女と向き合った。
彼女は腕を組んでふくれっ面をしていた。
「それに同じ部屋で寝るだけ。一緒に寝ていない。」
彼女の顔がぱっと明るくなり、目が新しい興奮で輝き始めた。
やけに嫌な予感がした。
「じゃあ、一緒に寝よう!」
「断ったら?」
「それでも来るよ、ダーリン。」
あまりに疲れていて、最初から負けると分かっている戦いに挑む気力はなかった。
返答する代わりに布団の音を立てて体をずらし、彼女のために場所をを空け、背中を向けて横になった。
着替える機会がなかったから、彼女はまだ制服のままで僕の側に横になった。
でも、状況を悪化させたくなかったので、何も言わなかったことにした。
「誤解されかねないから言い方にはもっと気をつけた方がいい。それに…向日葵と特に桐乃に絶対言わないでくれ。」
「ダーリン、どうして桐乃ちゃんに知られたくないの?あっ!まさか彼女のことがす…」
「彼女に腕でも折られそうだから。」
考えただけで、鳥肌が立った。
「桐乃ちゃんらしい。」
彼女はにっこりと頷いた。
しばらくの間、二人の間に静寂が訪れて、彼女が体を丸めて僕にぴったりとくっつくのを感じた。
愛子は僕の背中に額を押し付けて、両手で僕のTシャツをぎゅっと握っていた。
背中越しに伝わる彼女の体温は、まるで巨大な湯たんぽのようだった。
正直、悪くない気持ちだったが…
「愛子!?」
「あったかい。」
そう言って、彼女は小さな穏やかな声で囁いてさらに額を僕の背中に押し付けた。
「ちょっと!愛子!!何している!?」
僕は体をひねって振り向こうとしたが…
「真一…」
えっ!?今、ダーリンではなく、僕の名前で呼ばれた!?
「…この世界は楽しい?」
「どうしたの、急に、?」
「お願い、答えて。」
急に真剣な顔になるなんて、どうしたんだろう。
「まあ、退屈する暇もなくて、もうヘトヘトだ。」
「じゃあ、楽しくないの?」
「どちらかと言うと、楽しいかな。」
「良かった......」
「それで愛子、この世界のことどう思う?」
「私?」と彼女は驚いて尋ねた。
「もちろん君に話しているんだ。」
時々、彼女ってちょっとおバカなんじゃないかと思うことがある。
「すごく楽しいよ。いろんなことを発見できるし、全部新しい体験ばかりだ。今まで本でしか知らなかったことが、ようやく自分でできるんだ。」
「僕をこの世界に送る前は、何をしていた?」
「私はラブコメのおかげで存在する。ある意味、私とラブコメは繋がっていると言えるね。だから、今まですべての作品や、読者たちを見ていたんだ。」
「それだけ?」
彼女は答える代わりに僕を強く抱きしめた。
彼女にとっては、この世界で人と関わったり、自由に動き回れたりできることが、僕に想像もできない自由の感覚なんだろう。
きっと、彼女は孤独を感じていたんだ。
世界で誰よりも孤独だったに違いない。
ラブコメの化身として、数えきれない人々に笑顔を届けてきた彼女は、誰かからの愛情も人の温もりも知らなかった。
今の彼女は女神のようには見えなかった。
普通で孤独な少女にしか見えなかった。
僕は体をひねって彼女と向き合い、そっと抱きしめた。
「え、なに!?し…しん!!」
普段はいつもからかい気味で冷静な彼女が、今まで見たことのないほど動揺していた。
愛子の目を見開いて、声を震わせて、いつもより少し高くなった声で僕を見つめていた。
「勘違いしないで。」
「ツンデレになったの?」
ったく、こいつ…
率直に言うと、馬鹿げた行動をしなければ、彼女と過ごす時間は楽しいと思う。
でも、それは彼女には言わない。
よくわからないけれど、疲れていたのせいなのか、あるいは彼女の温もりや存在が心地よかったのせいなのか、慣れない布団の上でも、抱きしめたままの愛子と一緒に、すぐに眠ってしまった。




