怒りが爆発しました
「ルイーゼ!?」
フィル様は、翡翠の瞳を大きく見開いた。私は怒りを隠せず、彼から顔を背ける。
「何故貴女がこんなところに来ているのだ! そんな、男に媚びるような服まで着て——」
「ちょ、隊長。余計なことを言わない方が……」
ジョエル様が慌てたようにフィル様の言葉に口を挟んだが、既に遅かった。
(……ほんとに、フィル様がこんなに酷い人だと思っていませんでした)
妻がこんな露出の多い服を着ていることが不満なのだろう。それは分かるけど、最初に言うことではないと思う。
私の怒りに油を注いでいるようなものである。
「貴方が、こんなお店に来ていらっしゃるから! 私は、浮気の証拠を掴むために働いたのです!」
「働いた、だと? 誰かに体を売ったのか?」
「……貴方には関係がないでしょう」
働いたのは今日一日だけで、料理を運ぶくらいしかしていないが、詳しく説明するのは面倒だった。わざとぼやかして言うと、フィル様は怒った獣のように瞳孔を引き絞って、強い力で私の肩を掴んだ。
「何するのですか、離してください!」
「貴女は俺の妻だ。俺以外がその体を知っていることは、許されざることだ」
「その妻を止めたいと言っているのです。貴方様は、そこのアグネスさんと仲良く暮らしたらいいじゃないですか。私は邪魔にならないよう、屋敷を出ていくので」
フィル様の手から逃れようと体をねじるが、彼の手はびくとも動かない。それどころか、彼の瞳はどんどんと暗く沈んでいく。
「離婚はしない。この結婚は、俺達だけでどうこうできるものではない」
「……それなら、お金をください」
「金?」
訝し気に顔を顰めた、私よりも高い位置にあるフィル様の目をまっすぐ見つめながら、私は大きく頷いた。
「そのお金で、私も好きなことをします。貴方様が好きなことをしていらっしゃるように、私も好きなことをするくらい、許していただきたいです」
「金ならいくらでもやるが……俺は、好きなことをしているわけではない」
「では、嫌いなことをしていらっしゃるのですか?」
「ああ、嫌いなことだ。仕事でなければ、こんな店に来ることはない」
(仕事、ですか? そんな言い訳を……)
私はその言葉を信じられず、確かめるようにジョエル様を見た。彼は苦笑いを浮かべながら、頷く。次にアグネスさんを見た。壁に同化するように立っていた彼女も、苦笑いを浮かべながら、頷いた。
「…………」
「…………俺は浮気などしていないと、言っただろう」
私は、体から力が抜けてその場に崩れ落ちそうになった。