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確たる証拠を得るために

 

「英雄様は、毎週アグネスを指名しているの。今日も、そうなるのではないかしら」

「それを映し絵に撮って、離婚を申し出てみます。それが無理なら彼からお金をふんだくってみせます」

「その調子だ。あんたの旦那の横っ面、張っ倒してみな」


 アンナさんとマスターに背中を押され、私はブローチを握りしめながら大きく頷いた。今では悲しいという気持ちよりも遥かに確たる証拠を得るというやる気で満ちている。


 厨房から料理を運ぶ仕事をこなしつつ、フィル様の様子を窺う。ジョエル様はホステスさんと楽しそうに話しているが、フィル様は一人である。

 一人でも、彼はお酒を口にしながら、アグネスさんの踊りをじっと眺めている。アグネスさんも、時折フィル様を見ては笑みを深めている。


(……あの二人は、想いを通わせていらっしゃるのでしょうか)


 私とは違って、彼女はフィル様と愛し合っているのだろうか。

 さっきはあんなにやる気だったのに、フィル様を見ていると胸が痛い。お腹がむかむかしてくる。


「嬢ちゃん、顔色悪いよ。休んだ方がいいんじゃない?」

「え、あ……大丈夫です! お気遣いいただき、ありがとうございます」


 近くのお客様に心配されて、私は慌てて笑みを浮かべた。多分笑みは強張っているだろうけど、今はこれ以上の笑みは浮かべられそうにない。

 逃げるように部屋に入る。息を整えて、再び部屋から顔を覗かせた。

 ちょうど、フィル様が立ち上がって、アグネス様を連れて二階に上がっていくところだった。震える手でブローチを掴み、魔力を注いで写し絵を撮る。


 確認。寄り添う二人の距離感は、流石に通常とは言えない。これも良い証拠になる。


(これで、フィル様と離婚できるかも)


「お嬢さん。ちょっとお話を伺ってもいいですか?」


 ブローチの裏側をじっと見ていたら、誰かに話しかけられた。私は驚いて後ろを向く。

 人好きのする笑みを浮かべたその人は、これまた女性に人気そうな容姿を持つジョエル様であった。


「は、話ですか?」

「はい。それ、ブローチ型のカメラですよね」


 手の中のブローチを指さされ、私は思わずそのブローチを背中の後ろに隠す。何だか、これが奪われてしまう気がしたのだ。

 ジョエル様は笑みを深めて、私の顎に手を添えた。


「許可のない撮影は、犯罪にあたることもあります。僕はこの制服を着ているの通り、騎士です。貴女を逮捕することもできるのですよ?」


 そんなことを言われたら、彼と話をする以外の選択肢はなかった。





「隊長の浮気の証拠を掴むために?」

「はい。フィル様が浮気をしていらっしゃるという噂を耳にしたものですから、居ても立っても居られなくなってしまって」

「……全くあの人は、何をやってるんだか」


 場所を移動し、誰にも話を聞かれない小部屋に来た。そして、私は自分の正体を正直にジョエル様に話した。すると、彼は額に手を当てて、気まずそうな顔を浮かべたのだ。彼は、フィル様が浮気していることを知っていたのだろうか。


「それで、そのカメラに証拠の写し絵があると?」

「はい。フィル様とアグネスさんが写っています」


 私は撮った写し絵をジョエル様に見せた。彼はじっとそれを見て、苦笑いを浮かべながら頬をかく。


「これは、言い逃れができない証拠ですね」

「そうでしょう? これを使って、フィル様と離婚できないか交渉してみようと思っているのです」

「離婚……離婚かぁ」


 ジョエル様はぼそりと呟いて視線を下に向けた。何やら考え込んでいるようだ。私は彼が口を開くのを待つ。ジョエル様の紫紺の瞳を見ていると、ばちりと視線が交差した。


「……そうだ。いっそ、今から突撃してみます?」


 そう言って、彼はにやりといたずらな笑みを浮かべた。

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