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私、変身しました

 カウンター奥の部屋に連れられた私は、妖艶なホステスさん達に囲まれて、抵抗する間もなくあれこれとされた。彼女らは私の事情を聞いて、全面的に私に協力してくれることになった。とても優しい人達である。


「ルイーゼちゃん、めっちゃ可愛い! 旦那さん捨てて、もうずっとここで働いたらどう?」


 私のメイクアップに一番気合を入れていたアンナさんは、満足げに笑みを浮かべている。鏡越しに彼女を見た私も、小さく笑みを浮かべた。


(これだったら、フィル様に気づかれる心配はなさそうです)


 私の地毛は、かなり目立つ金髪である。変装するにあたり栗色に変えているが、髪の長さや癖毛を変えてはいなかった。今ではアンナさん達の技術により髪が巻き上げられており、長い髪が綺麗にまとまっている。

 化粧の仕方も普段とは大きく異なり、そういう用法が使われているのか、いつもよりも目が大きく見える。唇も潤い艶やかに光を反射している。この口紅、欲しいかもしれない。

 ただ、一つ気になることがある。


「この服、恥ずかしいです……」


 着せられた衣装の露出が、かなり多いのだ。肩出しは当然のこと、ふとももがぎりぎり隠れる位に短いスカート、胸元が強調されており、お腹もちらりと見える。こんな服、人生で初めて着た。パーティーでこんな服を着ていたら、婦人方から冷たい目で見られるに違いない。

 アンナさん達ホステスさんが着ていたら、色気と美しさをを感じるのだが、実年齢よりも幼くみられる私が着ていると、大人びようとしている子供のように見えてしまう。


(万が一フィル様に気づかれてしまったら……恥ずかしすぎて、二度と彼の顔を見ることができなくなるかもしれません)


 顔を伏せていると、そっと肩に手が乗せられた。


「自信をもって、ルイーゼちゃん。あなた、とても似合っているよ。ルイーゼちゃん狙いの男性達が出てきちゃうかも」


 優しい眼差しで、アンナさんが私の顔を覗き込んだ。その瞳に元気づけられて、気分が少し楽になっる。今の私は、いつもの私とは違う。そう思うようにしよう。

 その後もアンナさん達と話を弾ませていると、視界の端で踊り子の女性が私を見ていることに気が付いた。


(……とても綺麗な人)


 私もその女性のことを見ていると、彼女はふいと目を逸らして立ち上がった。そのまま彼女は部屋を出る。


「あの子のことが気になるの? 彼女はアグネス。ヘルダードが誇る踊り子で、一番人気の女の子だよ」


 アンナさんの言葉に相槌を打ち、私は納得した。確かにあの人は、人を惹き付ける魅力を持っていたように思う。


「あんた達、開店の時間だよ!」

「はーい、マスター!」


 扉を開けてマスターさん(さっきのおば様)が顔を覗かせ、アンナさん達ホステスは元気よく返事をした。


「さあ、ルイーゼちゃん。仕事だよ!」

「はい。頑張ります!」


 私は気合を入れて椅子から立ち上がり、ぐっと握りこぶしをつくった。ホステスさんが微笑ましいものを見るように私を見ていて、恥ずかしくなって頬が熱くなった。



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