第七話 トレーニングコーチ
金山高校との練習試合から翌日。
「今日は皆さんにご報告があります。今日から第二野球部のトレーニングコーチに佐久間君にやってもらいます」
ザワザワと周りは騒ぎ戸惑う。
まあ、いきなり一年生にトレーニングコーチをやって貰うなんて宣言されたら戸惑うよな。
「僕も科学トレーニングに対する認識はありますが、それでも教師という立場もあり貴方達をみれない日もあります。しかし、僕以上に科学トレーニングの知識がある佐久間君にトレーニングコーチをして貰えば第二野球部の選手全員にとってかなりプラスとなります。ココにはストレッチとマッサージのサポートをやってもらい効果を実感してる選手もいますよね」
田中監督の言葉に納得した様に頷く選手が何人かいた。
それは俺が練習前のストレッチや練習後のケアに行ったマッサージだ。
練習前に練習後にストレッチをやる事は実はかなり重要で、やるのとやらないのではトレーニング効果に雲泥の差がある。実際にストレッチの効果は関節可動域の改善や筋肉痛の緩和に加えて身体パフォーマンスの改善と予防という効果があるためにトップアスリートほどストレッチを重視しており、中には練習前に三十分もストレッチに時間を取り入れる選手もいるほどである。
このため俺は昔も今もストレッチを重視して練習前や練習後は念入りにやる様にしており先輩達にもしっかりとやった方が良いと説明したら「佐久間が言うなら」と、納得していた。
リトルとシニアで実績がある選手がいう事には間違いがないと言った感じてあり、最近では第二野球部でも俺と同じ様に練習前や練習後には念入りにストレッチする選手は増えてきた。
そしてマッサージは、小中時代に無知なコーチによるスパルタトレーニング身体を痛めた先輩や同級生相手にマッサージをしてあげて、先輩達にバレない様に回復魔法を使って痛めた部分を治療してあげた。
その事もあって……。
「リトル時代に痛めた肘と肩が治ってる!」
「俺は膝だ!」
「え、二度と投手は出来ないって医者に言われた肩がぜんぜん痛くねえ!」
と、いった感じで大絶賛されてこのため練習後に俺にマッサージをお願いする人が急増して、中にはこの話が噂をよんで第二野球部と関係ない他の運動部の先輩が昼休みに来てマッサージを頼みに来る人が急増して今だに引っ張りだこで中には「第二野球部をやめてマネージャーをやってくれ!」と、頼む運動部も現れたくらいだ。
これに関しては俺も回復魔法を使用したマッサージはやりすぎたと思い反省した。
「大和第六野球部に勝つには今までと同じやり方では強くなれません。そのため僕は科学トレーニングを重点的に取り入れました。その僕と同じ様に佐久間君も科学トレーニングに理解があるためこれを利用しない手はありません」
これには二、三年生の先輩達は複雑な表情をしたがしばらくして……。
「分かりました監督」
「確かに一年に教えて貰うのは複雑ですけど」
「佐久間は俺達より実力ありますし」
「身体治してもらった恩もありますから」
完全に納得はしないが俺のトレーニングコーチ就任を了承した。
この二、三年生達の反応は無理もなく、この時代は昭和の強烈な縦社会がまだ根強く残っている時代であり、特に運動部の様な体育会系は一年奴隷、二年平民、三年王様、OB・顧問神様という様な極端な年功序列が当たり前な時代である。
そのため実力社会というより年上が偉いという年功序列の図式が出来上がっているせいで年下が活躍するケースが少ないし、そのため年下が活躍すると生意気な後輩を教育という名の暴力を実行する事も珍しくない。
そんな昭和の悪しき風習が残っている時代で不満はあるだろうが何とか理由をつけて納得している第二野球部の先輩達は偉いよな。
「細かい指摘やトレーニングメニューは後で説明しますが、自分の基本方針は筋トレを今以上に重視し食事に関する事も指摘させてもらいます」
俺の言葉にザワザワとなる。
「なあ佐久間。守備練習やバントは?」
「それに食事って野球に必要なのか?」
やっぱり守備やバントに加えて食事に関して疑問に思って質問してきたな。
「現状の守備練習やバントに関しては特に指摘する必要はありません。しかしウェイトを重視するには理由もあります。筋力の量イコールパフォーマンスの向上に繋がります。より速い球、より鋭く速いバットスイングを実現するには筋力がなければ実現できませんからね」
「ああ、それは分かるが」
「食事に関しては?」
「ええ、それにも理由はあります。激しい運動をした後に食事も大切です。激しく運動した後に傷ついた身体を回復させ、より強い肉体にするには食事に最も重要だからです。分かりやすい例をあげれば相撲選手を例にあげますね。彼らはより強い肉体を手に入れる為に激しい稽古をした後に大量の食事を接種していますよね」
この言葉に周りは「ああ確かに」と納得した様に頷いた。
実際に相撲選手と野球選手では目的とする理想的な肉体は全く異なるが激しい運動をした後により強靭な肉体を作り上げた身体を強くするという事は共通しており、その為にスポーツ全般にも言えるがスポーツ選手にとって食事は腹を満たすだけでなく、食事もまたトレーニングという訳だ。
こうしたウェイトトレーニングやバッティング練習に重点をおいた基本方針を説明して細かい練習メニューと食事に関する知識も教える。
「と、こんな感じに練習して行きたいと思いますがこれからの第二野球部の練習方針としては三日練習して一日休みを繰り返して貰います」
この言葉に周りは驚く。
「なあ、なんで三日やって一日休むんだ?」
第二野球部に所属する選手達は小中時代から毎日練習が当たり前だっただけに周りは戸惑いが隠せなかった。
「休む理由は激しく練習して傷ついた肉体を修復させる期間ですね。激しい運動もあまりやり過ぎると意味がなくなり、逆に筋力が痩せ干せり身体能力・筋肉が低下して意味がないですから」
俺が勇者召喚される前の2020年代の日本ではスパルタ特訓によるオーバーワークの弊害というのも理解されており、休まないで毎日練習しても練習効果が薄まる事を理解されてきて、週一や週二で休息期間を儲ける強豪校も珍しくなく、そのため練習時間を短縮して練習密度を高める方針にシフトしていた学校も珍しくなかった。
「それに第二野球部なら短時間練習でも問題はありません。部員数が自分を入れて16名ですから、短時間という練習でもやれる事はたくさんありますから」
強豪野球部の練習時間が長く、夜遅くまで練習するのも理由があり、単純に人数が多くて全員が練習をやりきるには長い時間が必要という事も理由であり、この事実にいち早く気がついた強豪校はスカウトによる人数を縮小して、即戦力となる強い選手だけを鍛える少数精鋭の方針をとる学校は、この時代でも増えてきている。
「これが自分が求める第二野球部に対する方針ですが田中監督。どう思いますか?」
「問題ないと思います。僕も佐久間君のトレーニング方針には賛成です。皆さん、今日から佐久間君の指示に従って練習する様にお願いしますね。わからない事があれば僕か佐久間君に聞く様にしてください」
「「「「はい!」」」」
こうして俺は第二野球部の選手兼トレーニングコーチに就任する事になったのだ。
補足1
今更ながら佐久間は異世界のステータス・魔法・武器を並行世界の地球でも継承していますが、それでも一部に過ぎません。
ギカン帝国決戦時はレベルはカンストして歴代勇者と同等の実力がありましたが、現段階の実力はレベル12と大幅に低下しています。
そのため地球世界では身体能力は高いレベルに分類されるがだからといって国家を崩壊するレベルではないため国家の脅威となる事はない。ただし魔法・武技・スキルをフル活用すれば一時的だがレベル30クラスまで復活できるため国によって国家総動員のレベルまで脅威度が上がる。
レベル1〜5……一般人
レベル5〜10……アマチュアトップ、この段階が地球では凡人の局地で常識の範囲の身体能力。
レベル10〜20……プロアスリート・オリンピッククラス。レベル15くらいで金メダリストクラスでトップアスリートレベル。レベル20になれば人類を超越した超人クラスで生身で拳銃の攻撃にはビクともせず地球の虎や熊も素手で撲殺出来る位に強くなるが、軍用ライフルの攻撃には耐えられないため現代の軍隊レベルなら小隊・中隊クラスの戦闘力
レベル20〜30……現代の小火器だけでは倒す事は不可。重火器で武装した大隊規模の兵士に加えて5、6台の戦車や戦闘ヘリを使用してやっと打倒できるレベル。
レベル30〜40……一個師団レベル。この段階で一人でも存在すれば小・中規模クラスの国は脅威となるレベルで国家総動員レベルの脅威度となる。
レベル40〜50以上……先進国が非常事態宣言を発動するレベルの脅威度。兵器の使用制限を無くさなければ壊滅的被害を受けて対応を誤れば先進国でも国が消滅するレベル。