第六話 東東京強豪校 金山高校3
両チーム共に無得点で終わり、二回の表に入り四番キャプテンから攻撃が始まる。
相手ピッチャーが和田の豪速球に触発されたのか意地になってストレート勝負に拘る様に見えた。
それが証拠に金山高校捕手のサインに対して首を振る展開が一回に比べて多いのが印象だ。
どうやら相手ピッチャーは冷静というより感情が表に出やすいタイプの様だ。和田の豪速球で三者三振したのなら自分だって出来るんだぞという意思が伝わってくる。
自分の投球に絶対の自信があり、それを隠さないで感情を表に出すのは典型的なプライドが高い先発型のピッチャーによくあるタイプだ。
この手のタイプは二つに分かれ、感情を剥き出しにして自滅するタイプか、逆に力に変えるタイプだが、大半は前者の様に自滅してしまうタイプだが……。
「ボールフォア」
コントロールが定まらない様で四死球を出してしまった。
このまま自滅するか、それとも立て直すのか打席に立って見ないと分からないな。
「よろしくお願いします」
俺は左打席に立ちバットを構える。
キャプテン相手にカッカしていた表情は元に戻っており、どうやら冷静さを取り戻した様だ。
さっき相手捕手がタイムをとって声を掛けていたし、流石は県予選ベスト16の常連チームなだけあって試合の流れというものをよく理解しているな。
強いチームほど、投手が調子を崩したり、崩しそうになったら時期を見て、一旦間を開ける様にタイムをかけたり、牽制させて落ち着かせる様にするからな。
セットポジションから相手は構えてストレートを投げる。
「ボール」
際どいなボール一個分は外れのコントロールだ。
どうやら本当に冷静になった様だな。ストレートの制球力も悪くなかったし、ノビともキレも悪くないな。
二球目を投げる。今度は縦に変化した、スライダーかストレートを投げた後は変化球の割合が多くなるためスライダーかカーブにヤマを張った。
(悪いがアンタクラスの変化球なら今の俺には問題ない)
カキィィーイン!
金属バット独特の打撃音が響き渡り、俺が打った球は河川敷のグラウンドの策を軽々と超えた。
「ほ、ホームランだ!」
「スゲー、あんな弾丸ライナーのホームラン俺、初めて見たぞ!」
「マジで中学を卒業したばかりの一年かアイツは!」
と、そんな声をグラウンド内外からダイヤモンドを走りながら聞こえた。
俺のホームランに触発されて和田も……
「うりゃあああ!!」
カキィィイイイン!!
カーブ、スライダーに翻弄されて二回共に空振りしてツーストライク追い込まれたが、最後にストレートにタイミングがあって持ち前の馬鹿力もあって俺と同じ様に金山高校エースの球をホームランにした。
「またホームランだ」
「本当に一年が打つ打球か!?」
「関東ナンバーワン捕手の佐久間なら分かるけどよ」
「この一年何者だ?」
「ナハハハハ!」
和田の馬鹿力に周りが驚愕し、ホームランを打った事に機嫌を良くした和田は笑顔でダイヤモンドを一週した。
しかし、相手投手は俺と和田の一年生二人にホームランを打たれて強いショックを受けて悔しそうな表情を崩せずにいた。
その後は四死球とヒットを許して満塁にしてしまったがそこから吹っ切れた様に打者を三振にしてこれ以上の失点を免れた。
その後、俺と和田のホームランが流れつかんで第二野球部のメンバー達は「俺たちは戦えるんだ!」と自信をつけた様で、そこから俺と和田以外のメンバー達も回が進むにつれてバットに当てる様になりヒットが繋がり点を取る様になった。
そして金山高校の選手達は最後まで和田のストレートを捉え切れる事は出来ずに六回まで投げ抜いて奪三振は12奪三振という驚異的なデビュー戦を飾った。
まあ、本人は「俺はまだ投げられるぞ!」と文句を言っていたが、これが練習試合という事もあって俺も和田同様に三打席まで回った後に交代となったが成績は好調で三打席三安打で一つはホームランという練習試合とはいえデビュー戦をいい感じに終えた。
最終的に金山高校との練習試合は6対4で俺たちが勝利した。
「今回は俺の完敗だ。次は負けない」
練習試合が終わった後に相手チームのエースである中原さんから声をかけられた。
「次も負けませんよ」
「生意気な一年だな。だが、それを照明するだけの実力がある事は今日の練習試合でよくわかった。ドラフト指名確実と言われて俺はどうやら天狗になっていた様だ」
そう言って俺と中原さんは握手した。
やっぱりリトルやシニアでも経験したが、練習試合とはいえ野球で試合をするのはやっぱり面白いな。
早く公式戦で出れられる様に大和第六の野球部に勝利して公式戦の出場権を獲得する様に頑張らないとな。
ーーー。
「完敗です先輩」
「今回は和田君をはじめとした選手達がノーデータという事が有利に働いていました。データが揃っていたら分かりませんでしたよ花丸君」
「それは言い訳になりませんよ。相手チームの情報がない状況で試合する事は高校野球では珍しくありませんから」
田中先輩は謙遜しているが実際に高校野球は今回の練習試合の様に全くデータがない状況で試合するケースは多いし、負ければ次がない高校野球で「データが少ないから」「想定してないから」なんて言葉は言い訳にしかならない。
実際に優勝確実と言われた強豪校が無名校に負ける事も一発勝負の高校野球ではよくある。
そのため強豪校の中にはデータが揃っている強豪校同士の方がやりやすく、データが全くない無名校は攻略法がなく、勝って当たり前という空気もあり逆にやり辛いという声もある。
「今回の練習試合はいい経験になりましたよ中原を始め都立の期待の星など言われて選手達が自覚がない天狗になっていました。今回の練習試合は選手達の天狗の鼻をへし折るに十分な敗北ですから」
実際に強豪校との試合で負けても「相手が格上だから」「負けもしょうがない」という逃げ道があると選手も自尊心を満足させて、悔しい思いがそれほど強くないが無名なチームに負けると「今まで俺たちがやって来た事はなんなんだ」と、強いショックを受ける。
この言い訳も出来ない敗北はチームを強くしてくれるので負けは悔しいが勝利を重ねすぎて慢心して弱くなるよりは、本番前に負けて悔しい思いをしてくれたので本当に良い経験になった。
ですが次は負けませんからね田中先輩。