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第五話 東東京強豪校 金山高校2


「はい、いま何ていいました?」


『何度も言わせるな。貴様の高校と第二野球部との練習試合を即刻中止しろ』


練習試合に向けて色々と調整していた時に訳の分からない老人が電話越し怒鳴って「今すぐ花山を呼ばんか!!」と、叫んでいたので早く対応して欲しいと電話を変わってみれば大和第六高校の監督である石井監督だった。


「何で貴方に命令されないといけないんですか?自分は金山高校の顧問であり監督なんですよ。他校の方針に干渉しないで貰えますか」


『貴様……!恩師のいう事を、命令に逆らうのか!!』


誰が恩師だと俺は心の中で悪態をつく。


そもそもこの監督は俺や田中先輩が現役だったころから自分の方針に逆らう選手を極端に嫌い、田中先輩の様に改善点を見出して監督に意見する人間を極端に嫌う。


特に田中先輩の様な科学トレーニングを取り入れる勢力を極端に嫌い、いまだに昔ながらの常識を逸脱したスパルタトレーニングを課しており、自分が現役の時でも一学年で入部した40人が30人以上を壊して、最終的に10人も満たない人数しか残らなかった。


そんな状況を「甘えだ!」「根性が足りん!」と、怒鳴り散らして自分の無知を曝け出す様なものだ。


昔はそれで通用したかもしれないが、最近は最新トレーニング理論を活用した強豪校に苦杯を飲まされて優勝から遠ざかっているのが現状だ。


予選優勝は当たり前で、全国大会出場を目的に設立した私立の野球部なだけに優勝して全国大会に出場しないのは監督としての能力に疑問を持たれていつ学校側から解雇されてもおかしくないのだ。


しかし優勝から遠ざかっているとはいえ、最低でも西東京大会の予選でベスト8に残るくらいには実績を残しているのでまだ監督として居座る事が出来てる。


まあ、それでも流石に今年は優勝しないと監督を解任されてもおかしくはないが……。


「とにかく、金山高校にとってもプラスと判断して練習試合を承諾しました」


『おのれ、もし田中のチームと練習試合を強行するというならば貴様のチームとは二度と練習試合を組まんからな!』


いや別に大和第六と今後練習試合できないからってそこまで痛手ではない。大和第六は隣接する強豪校のチームの一つにすぎないし、西東京とのツテは大和第六以外にもあるため問題はないし、神奈川、埼玉、千葉と関東を中心とした強豪校とも練習試合は組もうと思えば組めるから問題はない。


『ワシの命令を無視した事を後悔するなよ!』


そう怒鳴りながらガチャリと勢いよく電話を切った。


全く戦前や戦後まもない生まれの世代は本当に始末が悪い。


昔の成功体験に盲信している人間は多いし、極端な年功序列の中で生きていた事もあって俺や田中先輩の様な若造に意見されると劣化の如く怒り散らす事も多い。まあ、あの老害に関しては野球という狭い世界でしか生きていないし、野球界は無駄に学生の年功序列を是とした歴史が長いせいもあって変に年功序列の伝統に凝る老害が多い。


いい歳した社会人がいまだに「俺は先輩だから命令をきけ!」という学生気分で命令する事に俺自身、心底呆れている。


めんどくさい相手との電話対応を終えて、俺は改めて田中先輩が率いるチームとの練習試合に向けてのスケジュール作成を開始した。


ーーー。


河川敷のグラウンドで第二野球部と金山高校との練習試合が始まろうとしていた。


お互いにグラウンドで簡単守備練習が終わった後に先攻後攻を決めるじゃんけんをして、俺たちは先攻となった。


「皆さん周りを見てください」


これから都立高校が相手とはいえ、毎年予選ベスト16に入る強豪との試合が始まろうとして緊張している第二野球部の面々に田中監督は声をかける。


「グラウンド外にいる中で見学者がいますよね」


田中監督の言葉に誰もが頷くが、その中にカメラを回してる人間が何人かいる事に気づき、ノートやストップウォッチといったものも何人か準備し、指示を出して試合をどの様に観察するかも話し合われていた。


明らかにただの野球好きが装備する代物や人数ではない。


「佐久間君は気がついた様ですね。アレは東東京の私立陣営達です。他にも生徒自身を試合に見学に来させてる学校もあり、中には県外の学校も偵察に来てますね。理由は金山高校が都立でありながら毎年ベスト16に入る強豪という理由もありますが大本命は彼にあります」


田中監督が指さす方向にマウンドで投げ込みをしてる金山高校のピッチャー。


「金山高校三年生、中原宗介なかはらそうすけ。最速148の速球に加えて変化球もスライダー、カーブ、フォークの三級種はキレも変化も高水準に位置してプロ注目の投手で、ドラフト上位候補の選手でもあります」


「こ、高校で150キロ近くの豪速球を投げられるのか」


「嘘だろう」


「しかも変化球も一級品かよ」


田中監督の言葉に周りは驚く。


2020年代は150以上の速球を投げる投手は珍しくもなく、日本人では不可能と言われていた160キロの豪速球を投げる投手も現れている為に148は珍しくもないが、この時代はまだ150キロを投げる投手はプロでも稀であり、150以上の速球を投げる様ならスポーツ新聞の一面で「〇〇選手150キロを計測!」という様な事が掲載されるような時代だ。


「プロも注目している投手と対戦できるんです。こんな貴重な体験は滅多にありませんから胸を借りるつもりで試合に望んでください」


まあ、普通に考えたら俺達のチームは格下なのは事実だ。実際に大半のメンバーは金山高校の雰囲気に飲み込まれてるしな。


逆に金山高校の選手達はよく鍛えられてるのがよくわかる様に体格も雰囲気も第二野球部よりも上回っていた。


それがわかる様に試合が始まると……。


「ストライクバッターアウト!」


一回の表の攻撃は三者連続三振という結果になった。


辛うじて三番を任された佐藤先輩がストレートに当てる事が出来たが、最後にカーブでタイミングをズラされて三振となった。


守備につく為に俺は防具を装着して、装着し終えたら俺は和田に声をかける。


「和田。監督は胸を借りるつもりで挑めって言ってたけどお前はどうなんだ?」


「何言ってんだ。俺達が勝つに決まってんだろ」


まあ、単純な性格をしてるこいつならそう言うと思った。


負ける事をいっさい考えない和田の良く言えば前向き、悪く言えば単純な考えに俺は笑みを浮かべて


「好きな様に投げろ。お前の豪速球は全部受け止めてやるからよ」


「へへへ、頼りにしてるぜ佐久間ちゃん!」


そう言ってバシとグラブを当てて俺達はグラウンドに向かう。


(さあ和田。お前の実力を金山に、いやこのグラウンドにいる全員に見せつけてやれ)


ワインドアップの体制からいつもの様に豪快なフォームで振りかぶって……。


「うりゃあぁぁあ!」


叫んだと同時に和田のノビのある豪速球が俺のミットに目掛けてくる。


バシィィイイン!!


「ス、ストライク!」


全国でも、いやプロ野球でも見た事がない様な凄まじい豪速球に金山高校の選手達は唖然として、金山高校のエース中原を目的に来ていた偵察隊やプロのスカウトも予想にしてなかった様で呆気にとられていた。


(な、なんだこのストレート。こんな速いストレート、マシンでも見た事ねえ)


明らかに和田のストレートに面を喰らってるな。なら今度はインコースギリギリに……。


インコースにミットを構えると和田は頷いた。


インコースに向けてストレートを投げると……。


「ひ!」


ズドォォォオオン!!


「ストライクツー!」


相手バッターはビビって身体を背けてバットを振ることも出来なかった。


(そんなへっぴり腰じゃあ和田のストレートは絶対に打てないよ。様子を見るまでもないな三球でキッチリと締めよう)


速いだけでなきく、ノビもありコントロールもある和田の豪速球は分かっていても初見で打つ事は難しい。


「うぉぉりゃぁあああ!!」


ズドォォォオオン!!


「ストライクバッターアウト!」


三球三振で締めた。


コレは相手打線にとってもかなり痛い。


「な、何なんだよあの豪速球」


「プロでもなかなか投げられねえぞ。あんな豪速球」


「あれで一年かよ」


思った通りかなり動揺している。


三回までならこのままでも問題なさそうだな。


その後の二番、三番も和田のストレートに対応出来ずに三振してスリーアウトチェンジとなり一回は両チーム共に無得点で終了した。


ーーー。


「まさかこれほどとは……」


今回の田中先輩が率いる大和第六高校第二野球部との練習試合を決めたのは無論、田中先輩のお願いもあるがシニアリーグで関東ナンバーワン捕手と呼ばれたスーパールーキー佐久間が所属している事も大半の理由を占めていた。


佐久間という将来有望な選手と大会前に対戦出来ればエース中原を筆頭とした投手陣にとっても良い経験となると思ったが、まさか佐久間以外にあんなスーパールーキーが第二野球部に所属しているとは思わなかった。


「和田篤史。なぜこれほどの豪速球を投げる選手が今まで無名だったんだ?」


それが不思議でしょうがなかった。


プロ野球で日本最速記録を保持している千葉ガンマンズ伊咲に匹敵するストレートを投げる事ができるなら噂の一つもあってもおかしくないのだが……。


「ストライクバッターアウト!」


「まあ伊咲に匹敵、いや下手したらそれ以上の豪速球を投げる事に加えて精密機械の様な制球力も合わせ持っていたら初見じゃ打てないな」


いや、そもそもここまで速い球を想定した練習をチームでしてないからな。どんなに速くても高校野球のエースは130後半から一部の例外を除いて中原の様に140後半だ。


130から150のストレートに照準を合わせて練習していただけにこんな規格外に速いストレートはマシンでも経験してない為に、下手したら和田という一年が息切れするまでストレート一本で押し切られてしまうかも知れないな。


そんな時に相手ベンチを見るとイタズラが成功したイタズラ小僧の様な表情をした田中先輩を見て俺は苦笑いした。


「やれやれ、確かに先輩のいう通りにスーパールーキーは二人いましたね」


やれやれ、先輩は相変わらずだ。


まあ、確かに意表は突かれた事は認めますが俺も金山高校の監督を任されてるんですからこのままやられっぱなしのまま終わるつもりはありませんよ。



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