第二十一話 夏の甲子園大会2
大和第六高校は高校野球関係者の予想を覆して破竹の勢いで勝ち進んでついに準決勝までコマを進めた。
準々決勝の試合の様子を見学していた西の横綱と称されている大阪代表のAL学園は佐久間と和田を筆頭としたマシンガン打線に驚いていた。
「また打ちよった」
「ホントだな。全然バントしてねえな」
大阪代表のAL学園のエースである三年生の角田に加えて同じ三年生で四番を任されているサード西山は常勝AL学園の二枚看板であり、高校野球界では卒業後にドラフト上位指名は確実とまで言われる程に注目されている選手達だ。
「にしても大和第六はホンマ腹立つは。高校球児のくせに坊主頭やないから女子達にモテモテで、しかもグラウンドで嬉しそうに野球しおってからに」
「だな。俺達は試合中に笑顔にでもなったら三年も例外なく監督やコーチから鉄拳制裁だからな」
二人はグラウンドで三振するたびに「ナハハ!」笑い笑顔でプレイする和田と、それに釣られてグラウンドでプレイしている大和第六高校の選手達も笑顔になっている事に複雑な心境になっていた。
それは二人がAL学園に入って感情を表に出す事を三年間で封印したからであった。
二人はAL学園に入部した時を思い出す。
当時の角田は大阪で名門のボーイズチームで好成績を納めていた事もあって地元大阪の強豪校からいくつもオファーが届いていた。
特に推薦枠で高待遇を約束されていたのはAL一強時代に終止符を撃とうと最近になって力をつけてきたAL学園に匹敵する強豪校に成長した大阪龍騎高校や理性館高校の二校であった。
しかし子供の頃からAL学園旋風を見ていた角田は高校生になったら絶対にAL学園野球部に入部するんだと決めて上記の二校よりも待遇面では劣っていたが二校の誘いを断りAL学園の入部を決めたのだ。
そんな周りの話を聞かないでAL学園に入ったものだから入部初日は同部屋となった他県から推薦された西山と一緒に面をくらった。
中学の担任からはAL学園野球部に入部するな、入部したら大抵の連中は一年も立たずに精神が崩壊して廃人になるから他の高校にしろと言われたが二人は強豪校と称される野球部が厳しいのは当たり前と思っていたので、それも覚悟して彼らはAL学園に入部したが、AL学園野球部の厳しさは常軌を逸脱していた。
AL学園に入ると大相撲の様に付き人制度というものがあり、一年生の初めは野球よりも二、三年生の雑用に時間が削られ寮部屋の掃除に先輩達のユニフォームを始めとした服やタオルの洗濯にマッサージと練習が終わったら徹底的なグラウンド整備に球拾いとマトモに野球ができない環境であり、自主練する気力も起きなかった。
何より角田と西山が驚いたのは中学時代に感じた上下関係が幼稚と思うほどに感じた強烈な縦社会だ。
一年生が上級生に言っていい言葉はハイかイイエ、いや事実的にハイしか言えない為にそれ以外の言葉を発したらなら教育という名の鉄拳制裁が待っていた。
そして練習内容が過酷なのは覚悟していたがその予想すら上回る過酷な練習に角田も西山も含めた一年生達は練習中に嘔吐を吐く事も珍しくなく、中には二、三年生も例外なく何人も吐く選手もいるから二人はとんでもない野球部に入部したと戦慄した。
そんな過酷な練習に加えてプライベートが一切ない寮部屋という環境に加えてお菓子禁止、ジュース禁止に加えてテレビやラジオも禁止という事もあり、AL学園野球部には娯楽らしい娯楽は一切なかった。
そんな過酷な環境のせいもあってか憂さ晴らしをする陰湿な先輩も何人かおり、レギュラーになれない先輩達が筆頭格で有望株の一年生を見つけては教育と名を借りて陰湿なイジメを繰り返して精神的に追い込まれる光景を角田と西山は嫌というほど見てきた。
幸いに角田と西山の部屋は二人の先輩がレギュラー陣であった為に一軍に昇格する見込みがない、レギュラーに昇格する見込みがない先輩の陰湿なイジメを受ける事はなかった為に助かったが、それでも練習終わりに寮で二、三年生達による教育をいつ受けるのかと二人はビクビクしていた。
とにかくAL学園野球部は野球に全てを捧げよという方針なのか野球部以外の人間との接触は極端に制限されていた。
それは野球部だけの専用教室が設けられており、その教室は学園の地下にあり野球部は授業が終わるまで地下室より出る事を頑なに禁じられており、もし規則を破れば連帯責任で全学年例外なく、その禁則事項を破った学年が監督やコーチによる教育という名の鉄拳制作が待っていた。
そして野球部の授業は一般生徒達と違って午前の昼に終わり、終われば山奥にある野球部専用の寮と繋がっている野球部専用グラウンドに向かって走って行かなければいけない。二、三年生は野球部専用バスで向かうのだが、一年生はレギュラー補欠関係なく走る事を強要され、少しでも練習時間を過ぎれば先輩達からの鉄拳制作か待っていた。
そしてAL学園には公式試合に参加した時に鉄の掟が存在しガッツポーズ禁止、笑顔禁止、動揺禁止、一般人に対する受け答え禁止とあらゆる感情を無にする事を求めらた。
こんな過酷な環境の為にいくらシニア・ボーイズ・中学軟式からのエリート達で構成されている野球部でも二年生になる前に脱走する部員が毎年何人も現れ、AL学園野球部を退部して学園を退学して廃人となったり精神が崩壊して地元に戻ってくる生徒も珍しくなかった。
そんなAL学園の野球部の過酷な環境を味わった生徒達は例外なく「二度と経験したくない」「何億積もれても絶対にALの野球部員に戻りたくない」と口を揃えて言うのだ。
そんな過酷な環境と厳しい掟を二年半も味わった二人は野球以外の全てを犠牲にしてまで耐え続けたのは甲子園優勝という栄光を手にする為であった。
「ワイらは今年で最後や絶対に負けられんへん」
「ああ」
高校生活の全てを野球に注ぎこんだ人生が決して無駄ではない事を証明する為に二人は楽しそうに野球をする大和第六高校には絶対に負けるわけにはいかないと改めて決意するのであった。
ーーー。
準決勝が始まる少し前のミーティングで田中監督の方針に選手達が驚く。
「今日の先発は佐々木君で行こうと思います」
田中監督の決定に周りは騒つく。
何しろ佐々木は予選大会から先発した経験は予選二回戦の一回だけで、後はリリーフ投手として投げてきたからだ。
「出来れば五回まで投げてくれませんか佐々木君」
「監督の指示に自分は従います」
相手は優勝候補筆頭のAL学園。
本当なら田中監督もエースである和田か佐久間を起用したいのだがAL学園に勝利した次の決勝戦の相手は浜丘高校であるためエース格の疲労はできる限りは抑えたいのだ。
「相手が誰であれ僕達の野球は変わりません。君達に全てを任せてますから頑張って下さい」
『はい!』
監督の言葉に大和第六高校の生徒達は元気よく返事をする。
「相手がAL学園でも俺のバッティングで度肝抜いてやるぜ!」
「だったら俺はグローブごとホームランしてやりますよ!」
「おお言うね」
先輩後輩という縦関係はあっても強豪校特有の縦社会が形成されてない彼らを良くいえば仲良し、悪く言えば失礼で緊張感がないと言われるが、それでも大和第六高校の選手達の野球の思いは今日対戦するAL学園の選手達とも遜色ない思いを抱いている。
そして場所は変わって大和第六高校の対戦相手である大阪代表AL学園監督の相沢は選手達に対してある事を尋ねる。
「相手は全国では無名な高校、しかし準決勝まで勝ち上がった実力は本物だ。一年生でありながら既にプロ入り確実と言われてる選手も所属してるがそれでも勝利は我がAL学園だ。理由は分かるか角田」
「野球は総合力で戦うスポーツだからです監督!」
「そうだ。一部の能力は大和第六が上かも知れないがチームとしての総合力は我々が上だ。お前達はこの世の地獄と言われた我がAL学園野球部の練習に耐えてきたエリートだ。チャラチャラしながら野球をやってる東京のボンボン共に野球エリートである我々の実力を見せつけてやれ!」
おぉぉ!と叫ぶAL学園の選手達。
普段は公式試合で感情を表に出す事を禁止にしているが、この様な場面では選手が感情を剥き出しにした方が良いと相澤監督は長年の経験から感じていた為に特に怒る事はなかった。
相澤監督が描く理想の選手達は頭は氷の様に冷たく冷静に心はマグマの様に熱くする心。
その様な選手達を求めてる為にAL学園野球部では公式試合でガッツポーズ禁止、雄叫び禁止、笑顔禁止とあらゆる感情を表に出す事を禁じていたのだ。
甲子園球場のサイレンが鳴り、両チームは整列して帽子を取って挨拶をする。
夏の甲子園大会準決勝がついに始まった。




