第十五話 夏西東京都大会準決勝1
準決勝に突入すると西東京と東東京は明治神宮球場で試合をする事になる。
準決勝からは地元テレビが放送する為にテレビスタッフも入り週刊誌、スポーツ新聞を始めとした記者やカメラマンも大勢入って来ているので注目度はこれまでの予選大会と比べて段違いで観客もほぼ満員状態である。
今日の対戦相手は西東京を代表する私立江戸梅高校。
西東京予選や秋大予選ではベスト4の常連で甲子園の優勝経験もあり、大和第六高校同様に全国の野球エリートのスカウトも行うくらいに強豪野球部として知られている。
そんな野球部の二年生エース前田に凄まじい形相で睨まれて「絶対に許さない」と呟かれて俺は前田とは面識がないのに何故あそこまで睨まれたのか分からない謎だ。
今回の試合は和田を決勝戦で先発させる為に和田はベンチ入りであり俺が先発する事になった。
大和第六が後攻となったので一回の表は大和第六高校が守備につき、今回は俺が投手なので第二の捕手である五反田先輩がスタメンキャッチーとなる。
五反田先輩のリードは基本的に強めでストライクが先行する事が多い。
これは無駄球を使う事が嫌いな俺にとってありがたいので一球目は高めのストレート。
「ストライク!」
電光掲示板に148キロと計測されて観客達から「おぉー」と驚きの声が聞こえる。
予選大会ではプロの球団が使用する球場なら球速が電光掲示板に計測されて区管轄の市民球場ではスカウト・偵察・民間が個人で持ち込んだスピードガンで計測する意外に投手の球速を測る術がないため準決勝からはプロ野球の球団が本拠地にしている神宮球場の為に普通に球速が電光掲示板に表示される。
まだまだ150キロのストレートを投げられる日本人投手がプロでも数える程に少ない事もあって球場に集まってる観客が驚くのも無理はない。
二球目はインローに高速スライダー。
これもゾーンにしっかりと決まりミットに吸い込まれる様に入った。
俺の高速スライダーに相手バッターも唖然としていた。まあ、ストレートと対して球速差がない高速スライダーなんてなかなか経験した事がないだろうし、プロ野球と比べてストライクゾーンが広い高校野球に速くて変化量がエグいスライダーの攻略は初手では難しいだろうな。
三球目はカーブをストライクゾーンから一個分外れた所に投げ込む。
二球投げて今回の審判が判断するストライクゾーンはある程度は理解出来たからもう様子見は終わりでストライクゾーンから球一個分外れた球はバッターの調子によっては振ってくれて、余程のパワーがなければヒットやホームランにするには難しいコースだ。
相手バッターもストライクかボールが微妙な球に判断が難しい様だがバットを振ることを選択したが俺のカーブにタイミングが会わずに空振り三振となった。
続いて二番三番共に三振に抑えて幸先が良いスタートを切った。
ーーー。
「くそー憎たらしい。俺の栄光の道を邪魔しやがって!」
江戸梅高校ベンチにて二年生エース前田が佐久間が一回を塁に一人も出さないで抑えた事に怒りを露わにして周りは呆れていた。
「だいたい気に入らねえんだよ。高校球児の分際で髪を伸ばしやがって……俺だって伸ばしたいのに我慢してるのに」ブツブツ
(おい、また始まったぞ前田の例の癖)
(いつも自分がTM砲は過去の人間にして日本一のスターになるって言ってるくせに)
(やってる事が小せえんだよな)
(絶対に本人の前で言うなよ。後が面倒なんだからよ)
次代のスーパースターになると豪語してるくせに周りの活躍にすぐに嫉妬して相手の愚痴を叩きまくる前田の行動にまた始まったよと江戸梅高校の選手達は心の中で呆れて呟いていた。
まあ、大和第六高校の選手達が坊主ではなく髪を伸ばしてる事に羨ましいさを感じるのは前田の意見に納得していた。髪を伸ばして良いなら自分達だって普通に髪を伸ばしたいと感じるのは厳しい世界に入る事を自分から望んだとはいえ、それでも周りの目が気になる思春期の高校生には髪型を自由にしたい願望は彼らにもあるからだ。
「アホな事やってないで速く守備につきやがれ。そんなに世間から注目あびたければ活躍すれば良いだけだろうが」
「分かってますよ」
江戸梅高校正捕手渡辺の言葉に不満げな表情を隠さないで返事を返して前田はマウンドに向かう。
「お前らにも苦労をかけるけどよ。この馬鹿のフォロー頼むな」
「馬鹿って何ですか。次代のスーパースターに向かって!」
「他人の活躍にいちいち嫉妬してる小せえ人間には馬鹿で充分なんだよ」
「小さくない!」
小さい人間扱いされて余計に怒りを溜め込む前田。しかし怒りに満ちても頭は冷静さを保っており心も頭も怒りに支配されないのが前田の性格に難があっても強豪校のエースとして君臨している理由だ。
(ここで勝って俺が次代の日本のスターだと認めさせてやる)
前田は生まれ持った柔軟な身体を利用して地面ギリギリかり投げる右のアンダースローを武器とする投手である。
アンダースロー独特な軌道で打者を翻弄してアンダースロー投手としては珍しい球速が140に届き、シンカー、スローカーブ、チェンジアップ、シュート、スライダーと多くの変化球を実戦に活用出来る使い手という事もあって古参の野球ファンからはドカベ○の主人公の相棒である里○を彷彿とさせる為にリアル里○と称されていた。
まあ性格が目立ちたがりやの嫉妬深い性格の為に里○とはまるで真逆な性格の為に彼を知る知人からはリアル里○という評価は絶対に違うと断言されてしまう。
しかし実力は本物で、オーバースロー、スリークォーターが主流の投手ばかり相手してきた高校野球でアンダースローはその投球フォームの制約で球速は出ないが下から上に浮かび上がると表現されるくらいに極めれば独特な軌道は強烈な武器となる為に相手バッターを翻弄する事が出来る。
これまで大和第六高校もビデオで前田のアンダースローは研究していたが、やはりマシンでもアンダースローの軌道を練習する事が難しく、更に佐久間に負けない程に多彩な変化球を武器にしてる為に的を絞るのが難して塁に一番から三番共に塁に出る事はできなかった。
両軍一回は共に三者凡退に抑えられ無得点で終わった。