第十四話 快進撃大和第六高校
初戦のコールド勝ちで勢いに乗った大和第六は順当に勝ち進んだ。和田の豪速球に加えてSFFを筆頭にムービング系のカットボール・ツーシームの変化球で何とか当てようにも芯を外されて急速に加えて重い球である和田の球をヒットする事は難しかった。
そこで相手校は意地でも完封負けは避けたい様で何とか和田の球に当てようとバント作戦を実行にうつした。このバント作戦が見事にハマって和田の守備難が露呈して正面に転がされた球を何球なエラーにしてしまう場面があってバント作戦を続けたが、途中で内野陣がカバーに入り和田をフォローしたお陰で失点は免れた。
バント作戦に和田は「男らしく勝負しやがれ!」と怒りながら怒鳴り散らしてしまって和田の怒りを抑えるのに苦労した事を記録しておく。
そして俺もリリーフとして投手としてマウンドでプレイして、これまで練習試合で封印していた変化球を全部解禁して相手打線を完璧に抑えた。
和田ほどではないにしろ俺も現段階でMAX152キロを出せる為に周りから驚愕された。
和田と俺がプロでも珍しい急速150キロ以上のストレートを投げるもんだから地元のスポーツ新聞に大々的に掲載される事になった。
『吠える大和第六高校一年生エース和田。出たぞ160キロ!』
『天才捕手佐久間、捕手も投手も超一流多彩な変化球に152キロをマーク!』
『一年生ダブルエースの和田、佐久間コンビの勢いが止まらない。大和第六高校優勝確実か』
この様にスポーツ新聞に掲載された効果か大和第六高校には連日スポーツ記者達が取材にくる様になってマスコミの対応に俺は内心頭が痛いが目立つ事が大好きな和田は呑気な笑顔でマスコミの質問に答えてる。
「つうか俺は捕手で投手になった覚えはねえよ」
「無理があるんじゃないかな。一年生で150以上の球を投げる投手なんてそうそう現れないし」
練習の休憩中でスポーツ新聞を読んでいる俺にマネージャーの山本が冷静にツッコミを入れた。
「改めて思うがピッチャーの方が扱いがいいよな」
「俺達だってコールドゲームの立役者なのによ」
「高校野球特集だと圧倒的にピッチャーの話題ばかりだぜ」
新聞の話題に和田と俺ばかりで不満を口にする先輩達に俺はなんとも言えない。
「俺は野球に集中したいから少しは静かにして欲しいぜ」
「騒がれてるうちが花とも聞くし有名税と思わないと」
「だけどなぁ」
「贅沢言わないの」
ニシシと笑いながら俺に話す山本。
まあ山本の言う通り高校野球で勝ち進んで行けばマスコミの対応は当たり前だし、騒がれてるのは周りの期待の現れと思い我慢しよう。
なお、休憩時間が終わるまで俺は山中と二人で会話していたのが気に入らないのか野球部員達から物凄く嫉妬が混じった凄まじい目線で睨まれました。
まあ、山本はスタイル抜群の美人なので二人で楽しく喋っていたら嫉妬の視線は受けるのは仕方がないと諦めた俺であった。
ーーー。
「おい前田いい加減に寝ろ。もうすぐ消灯時間だぞ」
「すいません渡辺先輩。もう少しだけお願いします」
西東京を代表する強豪である私立江戸梅高校の二年生エース前田は唯一テレビが設置されてる食堂で江戸梅高校偵察隊が撮影した大和第六高校の試合を何度も繰り返し見ており、その様子に女房役である江戸梅高校正捕手である渡辺は呆れていた。
「少しでも和田と佐久間のピッチングを参考にしたいんで」
そう言って再びビデオを見る前田。
一見すると勉強熱心で真面目な高校球児の姿だが女房役で前田が一年の頃からバッテリーを組んでいた経験がある渡辺はそれが建前で本質は違う事を理解していた。
(そんなに和田と佐久間に話題を持ってかれた事が許せないのか)
「許さねえ……許さねえ……俺より年下の癖に目立ちやがって」ブツブツ
と、怨嗟を込めて呟く前田に渡辺は心の中で呆れていた。
前田という男は野球を始めた頃から自分は一番でないと気がすまない性格である。
前田は自分が野球の主人公の様に甲子園で活躍して、それを弾みにプロでも活躍して日本球界に名を残し伝説の世界のホームラン王である帝 佐渡丸と日本球界を代表して国民的スターミスタープロ野球と称された松島茂通。二人の頭文字を合わせてTM砲と呼ばれたこの二人は昭和プロ野球の代表であり、いずれは自分は二人を超えて日本球界No.1となる。
そんな子供の夢を具現化した道を本気で達成できると前田は昔から信じていた。
故に前田は典型的な俺様タイプの投手であり、そんな投手という事もあってバッテリーを組む時に捕手との衝突は数えきれない程あり小中高と彼とバッテリー組んだ捕手は「二度と組みたくない」と表現する程に我が強いピッチャーである。
しかしそんな俺様タイプの投手であるが実力は確かであり実力で黙らせてきた。
「俺が明日勝つ、絶対に俺が勝って一面は俺のもの……」ブツブツ
だからこそ自分の主人公ロードを邪魔する奴は絶対に許さない。
何度も和田と佐久間のピッチングを見ているのは自分より目立ち、世間の注目を集めている和田と佐久間が許せない為に怨みを力に変える為に、前田は消灯時間が過ぎてもビデオカメラに映っている和田と佐久間を見続けるのであった。