第十三話 西東京夏予選大会開始
七月。この時期になると夏の甲子園大会参加をめぐり全国の都立(公立)・私立の学校問わずに四千校以上が参加する高校球児にとって夢の舞台となる夏の甲子園に参加するために各都道府県の代表を決める予選トーナメント大会が始まる。
東京都大会は参加人数が各都道府県の中でも一番参加校が多い事もあって西と東に別れて予選大会が始まり大和第六高校は西東京に所属しているため西東京都大会に参加する。
開会式に参加すると明治神宮球場は人が集まりすぎてマジで鮨詰め状態で人工芝と夏の気温と日差しのコンボで体感気温は更に上昇して水魔法で身体を冷やさなかったら暑さで参っていたよ。
実際に暑くさで朦朧としていた選手が何人かいたしな。
それよりも高校野球の伝統と言うべきか坊主の比率がメチャクチャ多かった。
開会式で神宮に集まった選手達で髪型が短髪限定とはいえ自由にしてたのは大和第六を始めとした一割くらいで後は坊主頭でメチャクチャ浮いていたな。
この大和第六高校の髪型自由は高校野球の伝統は根性・努力・鍛錬・坊主頭が絶対という考えている昭和前期生まれを中心とした世代からは批判を多く受けており「高校野球の伝統を崩すな!」と、頼まれてもいないのにグラウンドに年配の見学者から罵声を浴びて、ベテラン記者連中からも酷評された記事にもされたな。
そんな感じで批判されながらも夏の甲子園出場を目指して大和第六高校の西東京予選大会が始まった。
「「「大和!大和!うぉぉおお!」」」
「「「勝て勝て山海!!」」」
指定された区営球場につくと大和第六高校と今日の対戦校の山海高校の応援合戦が始まっていた。
この世界は俺がいた世界の日本と違って野球に対する関心度が予想以上に高いんだと改めて実感する。
大和第六はシード校であるため試合は二回戦から始まるが、それでも予選の二回戦だというのに球場はほぼ満員だ。
普通この様なアマチュアの試合で観客席に入ってるのはベンチに入れない選手達や応援に来る野球部に所属しない生徒に学校のブラスバンド隊がだいたい観客席を埋めてるものだが平日の昼間だってのに大人達がプロ野球の観戦と勘違いしてるのではと思うくらいにビールを飲みながら観戦している大人も大勢いる。
「やっぱ高校野球ってすげーな」
「平日の昼間だってのにおっさん達が普通に試合を見にきてるぜ」
この世界は俺が転生する前にいた時代より過去だがそれでも90年代に突入してるため、これまで日本のスポーツの花形は野球で野球一強時代だったが90年代に入ってからは日本では密かに人気スポーツだったサッカーやバスケが爆発的にブームとなった為にアマチュア野球の予選大会で満員に近い観客が入ってきても野球人口は減少しており70年代から80年代と比べたら野球熱は下がっているらしい。
それを考えると、予選大会で満員に近い観客動員数を見ても野球熱は昔と比べて下がっていると周りから言われている現状にこの世界の日本の野球熱は凄いよなと感じた。
予選二回戦は……楽勝でした。
まあ、相手が強豪校でもない記念参加が目的の都立高校だったから五回コールドだった。
弱将校ならフルメンバーを使わないでベンチメンバーで戦うという意見もあったが高校野球の公式戦は一発勝負のトーナメント方式だから負けは許されない。
初戦という事もあって勝利を確実にして勝った勢いをつけたい為にフルメンバーで挑んだ。
和田の球はプロでも滅多にいないMAX160の豪速球であるためマシンではない人が投げる平均球速150キロの豪速球に加えて上にホップしてるのではと勘違いするくらいに高回転スピンが掛かった球に恐怖心を覚えて本能的にバットを振ったり身体を仰け反ったりしてマトモに勝負ができなかった。
そして相手投手も最高134キロと高校野球では決して遅くないストレートに加えてスローカーブとスライダーのコンビネーションを武器に必死に戦ったが相手が悪く、直球のノビと変化球のキレも平凡であった為に目が慣れた頃には滅多打ちになってしまいコールドとなったのだった。
なお、この試合で和田の豪速球を球場に足を運んで見学に来た私立陣営の偵察隊と高校野球記者達は驚愕して和田は西東京の強豪校からマークされ、和田の豪速球はスポーツ紙に次代の高校野球のスター候補として掲載されたのだった。