第十一話 新生野球部
この世界の日本はどの競技も転校しても数ヶ月公式戦に参加できないペナルティなため、高校・大学が気に入らないなら普通に転校する生徒がいても珍しくありません。
対抗試合終了後。第二野球部は野球部に勝利した事で正式な野球部に昇格を果たす事になり、石井のジジイが監督だった野球部は以前の第二野球部の様に同好会に降格して一年間は公式戦の出場を剥奪されるのだが、石井のジジイが警察沙汰にしたせいで強制的に監督を解任された事もあって野球部には指導者がいない立場になってしまった。
そんな不測の事態に野球部の部員達は困惑していたがこれに理事長と校長が野球部と第二野球部を合併する事を決定して田中監督が野球部と第二野球部の面倒を全て見る事を命令された。
こうして俺たちは大和第六高校新生野球部として再出発する事になった。
「あの、大丈夫ですか五反田先輩」
「だ、大丈夫だ。気にしない投げろ佐久間」
吸収合併された事もあって新生野球部として出発した大和第六高校。
石井監督の理不尽なスパルタ特訓よりも理に適った練習メニューは旧野球部員達から反対意見もあったが受け入れられた。
しかしいくら理にかなった科学トレーニングを実践しても公式大会で監督として参加した事もない田中監督のついていく事に不安がある選手も一定数いたため他校に転校する生徒が続出した為に現在の部員数は全学年合わせて34名とかなり減った。
それでも旧第二野球部を始めとした旧野球部の主力メンバーの半数は残った為に戦力低下はある程度は抑えられた。
順風満帆に見えた新生野球部だが問題もある。それは俺を除いた戦力となる捕手がいないのだ。
なぜ正捕手の俺がいるのにマトモな捕手を求めているのかというと、田中監督から俺に投手もやってみないかと言われたからだ。
もともと第二野球部時代から和田の次に強肩である俺を腐らせたくないという田中監督は思っており、実際に捕手以外にも俺は小中時代に投手、一塁、三塁、外野を守った事もあった為に俺を投手としても使いたがっていたが第二野球部時代から和田のストレートが捕れない様に俺も現段階でMAXで152キロのストレートを投げる事が出来る為にマトモに捕球できる選手がいなかった為に第二野球時代は白紙となった。
しかし、新生野球部としてスタートした事もあって俺を投手にする事が始まった。
和田が投げる時は俺が捕手につき、俺が投げる時は別の選手に捕手になってもらうというのが田中監督の考えだ。
「次は縦スラいきますよ」
「おおこいや!」
俺は縦スライダーを投げた。
縦スライダーは通常のスライダーが横に変化する球種に対してフォークとはまた違った軌道で縦に変化する球種である。大きく縦に変化する縦スライダーを五反田先輩は後ろに弾いて俺が投げる球に悪戦苦闘していた。
五反田先輩も旧野球部で正捕手の座にいた為にけして捕手としての能力が低いわけではないがそれでも俺が投げる縦スライダーを始め、カーブ、ナックルカーブ、高速スライダー、チェンジアップの捕球には苦労していた。
辛うじてストレート、カーブ、チェンジアップは捕球できる様だが他は俺が投げるのに躊躇してしまうくらいに投げ辛い。
そもそもどうして田中監督は和田というエースピッチャーがいながら俺を投手として起用したがるのは和田クラスの投手が他にいないからだ。
野手は全国クラスの選手がゴロゴロいるが投手は和田と俺を除いて都大会ベスト4クラスの投手しかいないので、俺と和田意外に何とか投手として活躍出来そうなのは旧野球部エースだった二年生の佐々木先輩。
右のサイドスローで高校生のサイドスロー使いでは速い最高138キロのストレートに加えて変化球はカーブ、スライダー、シンカーを武器とする選手である。
田中監督の夏大会の構想は一年生エースの和田を中心に俺と佐々木先輩による三投手で戦い抜く構想の様だ。
五反田先輩は現段階では二番捕手たがそれでも三年生の意地があるため「俺はまだ諦めてないからな」と、正捕手の座を諦めておらずこのまま投手に専念しろとまで言われた。
まあ、田中監督からも投手に転向しないかとも言われてるが俺は捕手というポジションにやり甲斐を感じてる為にそうそう変わる事はないけどな。
ーーー。
「うーん、やっぱり捕手にするには勿体無い感じがしますね」
佐久間君の球をブルペンで見ているとそう感じずにいられなかった。
和田君は別格ですが、それでも一年生の段階で152キロのストレートに多彩なプロ顔負けの変化球を操る事ができる完成度に加えて制球力、スタミナのどれをとっても高い水準に位置しています。
まさに投手の理想像の様で私としては投手に専念して欲しいのですが、彼を捕手から投手にコンバートすると和田君の球を捕れる捕手がいなくなってしまいますからね。
何より悪い子ではないのですが自尊心が強い和田君は捕手のリードに対して懐疑的で自分が納得し投げたいコースを指示しないとなかなか首を縦に降ってくれませんからね。
そんな典型的な先発エースタイプの彼を制御できるのは佐久間君しかいないのが現状ですし、佐久間君の実力を和田君が認めているから佐久間君のリードに納得してくれましたし、あれほど嫌いだった変化球も佐久間君が説得して習得してくれましからね。
「ままならないものですね」
佐久間君の負担は強くなる事は自覚しますが投手と捕手の二つを兼任してもらいましょう。和田君とサイドスロー投手の佐々木君の投手二人だけでは心配ですからね。
しかし、野手陣は全国上位クラスで投手陣に関しては既に高校レベルを超えてプロクラスという戦力の充実ぶりは他校の監督が羨むレベルの選手が揃っていますね。
これほどの戦力がありながら都大会優勝……いや、全国優勝出来なかったら色々と言われそうですね。
パワ○ロ査定を参考にしています
現時点の選手能力
和田篤史
ポジション 投手
サブポジ 外野
速球 160
制球力 A
スタミナ C
変化球 ツーシーム SFF 5 カットボール3
弾道 4
ミート D
パワー S
速力 C
肩 S
守備力 F
捕球 G
佐久間筑波
ポジション 捕手
サプポジ 一塁 三塁 投手
速球 152
制球力 A
スタミナ B
変化球 カーブ5 ナックルカーブ5 高速スライダー4 縦スライダー4 チェンジアップ5
弾道 3
ミート A
パワー B
走力 B
肩 A
守備力 A
捕球 S