表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/23

第九話 対抗試合開始


五月半。ゴールデンウィークが終了して大和第六高校野球部と第二野球部による対抗試合が始まった。


この試合の勝者が今年の夏、秋大会公式戦の出場権の参加が認められて第二野球部が勝利すれば正式な野球部に昇格を果たして野球部が負ければ同好会に降格となり野球部は今年一年の公式戦の参加権を失ってしまう。


「みんな頑張ってね」


試合開始前にストレッチをしているする第二野球部の選手達に笑顔で声をかけるマネージャーである山本に皆んなが笑顔になる。


「任せて山本ちゃん」


「今年こそ勝って公式戦の出場権を獲得するからさ」


「勝ったら俺とデートしてくれよ」


「あ、ズリィーぞテメー!」


こんな感じで試合前で緊張こそするが第二野球部の雰囲気は悪くない雰囲気を出していたが……。


「貴様らもっと汗をかいとかんかー馬鹿者がぁぁああ!!」


『は、はい!』


逆に今回の練習試合も含めて全国大会出場を逃せば監督解任という事もあって後がない石井監督は野球部の選手達に怒鳴り散らしていた。


そんな不機嫌な監督をこれ以上怒らせない様にと選手達も何も反論しないで準備運動を続けていた。


「アッチは相当荒れてるな」


「やっぱりあの噂は本当なのかもな」


「ウワサ?」


「何でも今年は全国大会に出場出来なかったら解任になるって話だぜ石井監督」


「マジで」


石井監督の噂話をしている第二野球部の部員達の話を聞いた和田は佐久間に質問する。


「なあ佐久間。監督解任って珍しいのか?」


「まあ大和第六の様な全国大会優勝が目標の私立高校ならよくある話だ。AL学園を筆頭に最近の強豪校は外部から実績がある監督をプロ野球みたいに高い給料を払って雇う高校は珍しくないなから実績を残せない監督は直ぐに解任させられる」


「ふーん」


学校の教員を監督にしない、県外選手のスカウト、推薦選手だけを野球部に入部させる手法はこの世界では日本高校野球の中でも一番と言われる大阪府代表の名門野球部であるAL学園えーえるがくえんが始まりとされている。


AL学園は、もともとはAL教団というマイナーな宗教の団体を母体とした宗教学校であり、AL教団はAL教をキリスト教、イスラム教といったメジャーな宗教と同じ権威にする事を目的に国民の認識が高い高校野球で優勝してAL教団の広告塔にする事を思いつく。


しかし、創立して間もないAL学園に入部する実績がある生徒がいる筈もないため創部した当初は全国優勝は無論全国出場も夢のまた夢という状況であった。


そんな状況が続いたAL学園は既存の日本のアマチュアスポーツの枠組みだけで勝負しては負けるだけと認識した。マイナーとはいえ日本全国にそれなりの規模を誇る宗教団体でもあった為に莫大な資金を背景に大改革を実行に移す。


AL学園が行った大改革はプロ球団ですら参考にした寮と隣り合わせのナイター設備が充実した専用グラウンドと室内練習場の設立に加えて学園の教員に監督を任せるのではなくプロ・社会人同様に外部から実績がある監督・コーチを雇い入れ、県外から生徒が来ても問題ない様に先ほど説明した野球部専用の寮の建設に加えて中学で実績がある選手に入学してもらう為に入学金・学費・寮の宿泊費を全額免除とする特別推薦枠の採用。


この試みは見事に成功してAL学園は創部僅か七年という短い年月で野球部を筆頭に日本高校スポーツ界の名門校となり、今では野球部は全国大会出場の常連校で全国大会優勝回数も歴代高校一位という実績を作ったAL学園野球部は多数の有名大学・社会人に加えてプロ野球にスカウトされる事も多くなった。


AL学園の大改革の成功を実感した全国制覇を目指す強豪校はAL学園のやり方を真似て、この大和第六高校も同じ様にAL学園の手法を取り入れて地元だけではなく他県からスポーツ留学しても問題ない様に寮もある。


「だからあんなにキレてるのね」


「まあ、そんな事は俺たちが知った事じゃねえから今日は頼むぜエース様」


「おうよ、任せなさい」


俺の言葉にナハハと笑う和田であった。


こうして両陣営共に準備運動が終了して大和第六高校野球部と第二野球部による対抗試合が始まった。


先攻は大和第六高校野球部から始まる。


相手バッターは表情を変えない冷静な感じを演出しているが打席で構えてるバッターは緊張している事が丸わかりだ。


どうやら例の老害監督に相当なプレッシャーを与えられてる様だな。なら相手が浮き足立っている今なら和田のストレートの対応は難しいかもな。


相手も紛いなりにも全国大会優勝を目標に集まった選手と野球部だから和田がストレートしか投げれない事は十分承知だ。


だけど和田に匹敵するストレートを投げれる選手はプロでも珍しいから和田のストレートを想定して練習するにはマシンで練習するしかないからな。


でもマシンの球と実際に選手が投げる球では感覚はだいぶ違うから初めの打席で打つのは難しいのは事実だ。


だから俺はインコースにミットを構えて和田も頷いて和田特有のワインドアップからの豪快なフォームのオーバースローでストレートを投げる。


「うりゃああぁぁあ!!」


いつも気合いを入れた雄叫びと同時に放たれる豪速球は速いだげじゃなくて通常より高回転なスピンが入ってるだけに和田のストレートは浮かび上がってる様に見えて相手バッターは仰け反る。


ズドォォォオオン!!


「す、ストライク!」


相手バッターは和田のストレートに驚愕する。


その驚愕具合は明らかに想定してるより速い事に驚いた様子だ。


同じ160でもマシンと人では全く異なる。特に和田のストレートは高回転のスピンが効いたストレートの為にノビもキレもあるため体感では160以上に感じるだろう。


だから……。


ズドォォォオオン!!


「す、ストライクツー!」


並の高校野球部の選手では和田のストレートでは擦りもしない。


(よし、今日のストレートは制球力、回転数共に悪くないな。せっかくの実戦だしアレを試すか)


俺があるサインを出すと和田は驚いた様子だが直ぐにニヤリと笑うと頷いた。


和田は俺が構えたコースに向かって豪快なフォームから凄まじい豪速球を投げるとそのコースはど真ん中。


ど真ん中と気づいた相手バッターはど真ん中ならいくら速くてもバットに当てられると思いバットを振るが……。


クク……ズバーン!!


「ストライクバッターアウト!」


和田の球は下に変化したのだ。


「おい今の球……」


「フォ、フォークか?」


「でもストレートに近い速さと機動でたてに変化するか」


大和第六高校の野球部達は驚愕していた。


まあ、相手バッターも普通に縦にスピンしていたからストレートに思った様だが紛れもなく和田が投げたのは変化球。周りは縦変化の大名詞のフォークと思ってる様だが、和田が投げた変化球はフォークというより、20世紀最後の魔球と呼ばれたSFFスプリットフィンガード・ファストボールだ。


フォークとSFFとの違いは無回転で落差が大きい変化をフォークとするが、無回転のフォークと比べてストレートより少ないスピンで小さく縦変化をしてゴロを打たせるのがSFFとされてるが、和田のSFFはストレートのスピードを加えて鋭くフォークの様に大きく変化するSFFだ。


最初は変化球嫌いな和田に何とか変化球を覚えさせ要と苦労した。そんな中でコイツが気に入った変化球はいまメジャーで流行りのストレートと変わらない速度で小さい変化でバットの芯を外してゴロとフライを量産するムービング系の変化球だ。


これならしっくりくると納得してカットボール、ツーシームといった変化球を覚えてくれる事に積極的になってくれた。そしてその中で和田が一番気に入った変化球が決め球のSFFだ。


ストレートだけに標準を合わせた大和第六野球部達の目論見は見事に外れたな。


さあ、もっと度肝を抜いて驚かせてやろうぜ和田。


ーーー。


「まあ予想通りの展開ですね」


和田の豪速球と鋭い縦変化のSFFのコンビネーションに翻弄されて三振とゴロの山を築く光景にグラウンド外から大和第六高校野球部と第二野球部の対抗試合を見学している大和第六高校理事長の大貫は想定の内容だと呟く。


「理事長も人が悪い。もともと石井監督を解雇するつもりであったのでしょう」


「そんな事はありませんよ。ですが高い金を払ってるのに野球部を私物化して実績を残せていない彼には幻滅してるのは確かですね」


「それは同感です」


もともと自分が育てる前から才能があって実力がある選手は自分の枠から外れて思い通りに出来ないと判断して何かと難癖をつけて入部テストを失格にしている石井監督の行いに苛立ちを大貫理事長も相原校長も覚えていた。


しかし、先代理事長と校長とのツテが深い事もあって学校内外共に影響力が強い事も理由になかなか二人が就任したばかりの頃は簡単に解雇できなかった。


しかし数年かけて先代の影響力を排除した事もあってようやく二人は自由采配が許される立場となり、石井監督の解雇を合法的に進める為に第二野球部の存在を認めて対抗試合という制度を石井監督の反対意見を何かしら理由をつけて無くさなかった。


「あの監督の苦労には同情しますが、だからと言って実績を残せない人間に高い給料を払う義務は私達にありませんから」


「全くその通りです。あの世代は縦関係が絶対服従の奴隷関係な事もあって横の繋がりが強靭なため色々と苦労しましたが学校の予算を老人の好き勝手にされてはたまりませんからね」


「今回は第二野球部に佐久間君、和田君といったスーパールーキーが入ってくれてたすかりましたよ」


「この試合展開が続くなら合法的にあの老人を排除できますよ」


この二人は野球に対して凄まじいほど情熱がある訳ではない。


彼等の頭にあるのは野球部を筆頭に高校スポーツで全国の頂点に立って大和第六高校の広告塔する事しか頭にないため実際は大和第六高校野球部と第二野球部の勝敗に興味はないが、石井監督が邪魔な為に第二野球部が勝利してもらった方が二人にとって都合が良いからだ。


こうして和田のストレートとSFFを攻略できない大和第六高校野球部は6ー0で大和第二野球部に惨敗した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ