閑話 とある鍛冶師の話
「こりゃあ、もう引退かね」
そう考えて、家族にも話したのがおおよそ1~2年前。跡継ぎの息子が合い打ち出来るようになり、加齢による腕力その他の低下で鍛冶が難しくなり始めた頃、そう考えるようになった。そんな折、幼馴染のアイツ、猛が来たのはその頃だった。
「引退考えてるんだって、国宝様が?」
「息子から聞いたか・・・ああ。まだ体は打ちたいと言ってるが、少し前に出来た小太刀がコレさ」
「迷った訳じゃないな?」
「ああ」
引退を考えるようになった戒めの出来だ。外見だけなら素人の目なら誤魔化せるだろう。だが、達人のこいつ、国宝の俺から見れば駄作も駄作。悔恨の作品だ。
「トシだな。腕の痛みや体の痛みは誤魔化せねえ。それが続いて、そんな駄作を作るようになっちまった」
息子の嫁が出してくれたお茶を飲んで、一先ずは落ち着く。そうすると目の前の幼馴染は口を開く。
「現状の問題は身体の問題のみ、間違いねえか?」
「ああ。体の痛みさえなんとかなりゃあ、今まで以上の集中力で作成できる。なんだ、刀剣の依頼か?それなら息子に・・・」
「こいつで刀1本、槍を4本、打ってもらいたい」
「は?」
こいつは人の話聞いてたか?俺はもう・・・と思い、素材を見た瞬間、電流が走る。体が、本能が刺激する。これを素材に鍛冶を行え!と・・・
「職人魂は死んでねえみたいだな。こいつはダンジョン素材と言えば分かるか?中でも幻想種と言われる角を持った馬の骨と角だ。こいつで刀と槍を作る、どうだ?燃えて来ねえか?」
「しかしなあ、病院でも温泉でも匙を投げたこの体は・・・」
「もし、受けてくれるなら、探索者協会から許可を貰ったこいつを提供する」
トンと置かれたのは瓶に入った液体。テレビにも出たポーションってやつか?
「現在日本が手に入れた最上級の特級ポーション。その機能はあらゆる病・痛みを治し、身体機能を全盛期にしてくれるそうだ。こいつを出す代わりにこれらを使った武器を先程の注文通り、そして、文字通りお前さんの全力で作って貰いたい」
「・・・・・・分かった」
そうして、息子や孫も巻き込み、更に生放送とやらをしながら仕上がったのは・・・・・・
「父さん・・・引退はまだ早いようですよ」
「そうみてえだな」
刀は青く輝きが増す刀身。銘は【蒼椿】。槍はそれぞれがまるで意思を持って刃部分が普通に打っても変わったのでそれぞれ【蒼華】【蒼嶺】【蒼葬】【蒼刀】と銘を入れた。蒼はどうしても抜けなかったのだ。付いていないとピンと来ないと言うかな。後日納品すんの止めにしていいか?と言って、十数年ぶりの口喧嘩になったが持って行かれたのは言うまで無い。チッ、ますます引退出来ねえな!
更に後日談、国と言うか、尊き方からの直々の勅命で公認鍛冶師になったと言う報を受けて、家族全員、勿論俺もフリーズしたのは言うまで無い。勿論、皇居に案内されて、その職の状を尊き方自らの手で渡されて更にフリーズするのは言うまで無い。情報が、情報がジェットコースターすぎる!!!




