第8話 ゲームでは当たり前の要素こそ恐ろしい
「うわあ・・・」
夏休み入って中盤の朝、その速報は来てしまった。いや、なんていうか、画面が「しばらくお待ちください」になるタイミングが遅かったと言うか・・・
「やっちまったなあ、このテレビ局潰れるんじゃね?」
「お兄ちゃん、おはよ、あ、そのチャンネル見てたんだ?」
「ああ、これはまずいぞ」
何が見つかってしまった上に報道されたかって?ゲームで言うインベトリがある袋、所謂、マジックバッグとでも言おうか、それを所持する探索者へのインタビューニュースから漏れてしまい、漏れた時から10分以上、この画面のままって訳である。
「コレの関係で飯食ったら話し合いに出るから、お昼要らないよ」
「分かったわ」
「ねえ、お兄ちゃん、よくわからないんだけど、どうしてこれがまずい結果を生むの?」
母さんが頷くのを見て、軽くストレッチしながら準備していると、楓が聞いてくる。ふむ、確認的な意味でも説明するか。なんか、父さんも聞き耳立ててるし、やっぱ、気になるのね。
「まず、ダンジョン内でアイテム回収は自前で用意した袋や鞄を用意する必要があった、ここまでは良いな?ニュースでも良くやってたしな」
「うん」
「次にダンジョン外では魔法は使えないが、アイテム・資源は持ち出せる。これも良いな?」
再度妹が頷くのを見てから、本題を口にする。同じく聞いていた父さんは気づいたのだろう、電話をかけに出た。
「今までは持てる量にも限りがあった。だが、それを前提にすると、このアイテムが見つかると広まってしまったら?」
「あっ!」
そう、持てる量にも限りがあった、だから、持てる量に限界が来る前に撤退が考えられた。しかし、その前提が生インタビューでほんの少し自慢するつもりだったであろう探索者が持っていたアイテムでひっくり返されてしまった。
「そう、手に入れる為に更に深く潜ろうとする。手に入れてしまった探索者は撤退を考えなくても良くなった、量が増える分儲けが増えた、持って帰れる物資が増えた探索者はどうすると思う?」
「無謀な行動をする・・・だよね?」
「正解」
もう少し正確に言うと、あのアイテムを求めて、儲けが欲しい探索者、物資はあればあるほどいい国が突撃、下手すれば、見つかったダンジョンは閉鎖もあり得る。それだけならまだいいが、アイテム優先になった場合はその注意力はさぞ散漫なものになるだろう。そう、忘れてはいけない筈のここは現実のダンジョンという事も 忘れて である。
「さて、何人、いや、何百人死ぬかな、コレ」
「「うわぁ・・・・・・」」
自分の言葉に理解出来た母、妹共にドン引きされるのだった。解せぬ・・・
「と言う訳で、1年もしない内に見つかってしまいました」
「「アチャー」」」
今は夏休みなので、道場の方でアキラと巌さん共に頭抱えである。まあ、このニュース、口コミ・ネット上でもあっという間に広まったからなあ。なお、テレビのニュース番組は全部番組変更である、仕方ないね。
「うちの門下生にも連絡しとる。すまんがこの危険性を説いたレポートをコピーさせてもらうぞ」
「どうぞ、どうぞ」
あれからまずは日課のランニングで学校までいつもより早めにダッシュ。お陰で、かなり疲れはしたが、学校で緊急レポートを作成・提出、しばらく待たされて校長先生とPTA会長と面談後、佐々木さんにも連絡とファックス。それから、ここでいつもの座学前にレポートのコピーを渡したと言う訳である。
「どうなると思う?」
「国のターン、ドロー!国家予算からマジックバッグを買い取り一先ずターンエンド!複数見つかったら、それらも買い取ってレンタル、もしくは他国に売るんじゃね?」
だよなあとアキラが言う。問題はその金額である。巨万の富を得る事が出来るし、企業付きの探索者は多分、上から無茶振りされるんだろうなあ。しみじみ、探索者免許を2年間預けるのは正解の選択肢だと思った。
「アキラのとこの御両親と妹の三優ちゃんには?」
「父さんは免許持ってないし、取得命令出てないの確認してる。母さんはデパートのパートだから問題無い。妹は顔真っ青にしてたから、危険って事分かったんじゃないかな?」
朝のうちの家と大体同じである。楓も「ねえ、コレ、お兄ちゃんの前の話合わせるとまずくない?」と聞いてきたから、成長したなと思う。どういう事かと言うと、先程も言った通り、企業や国が文字通り無茶する理由が出来てしまった訳だ。これは自国に限らず、他国もだ。
「アキラ」
「うん?」
「文字通り、明日から荒れるぞ」
「佐々木さんとの連絡もしばらく密にした方が良いな」
アキラと頷き合う。しかし、数日後、ダンジョンが出現して以来、世界は更に斜め上の様相に入るのだった。いや、あんなん予想出来ねえよ。
まあ、アイテムが無限に入る訳ではありませんが、それでも、お金=アイテムになりつつある世界でこんなん見つかったら大騒動ですよね。