第72話 神話級ダンジョンとその傾向と対策
「まあ、知ってた」
現在自宅の部屋でいつもの学生メンバーと巌さんがうちの家のリビングに集合。一先ずストレッチで固まった体を解す。案の定、今回も途中で中断と言う事に相成った。続きは次の機会となった。まだまだ爆弾あるんだよね、これが。
「とてつもない爆弾だったからねえ。パソコン画面のお偉方さん全員緊急で画面から消えたもん」
自分の言葉にうんうんと頷くメンバー。まあ、なんだ・・・
「あれがジャブだと知ったら、佐々木さん胃薬量増えるし、丁度良かったね」
『は?』
全員呆然。うん、巴さんに先の話以上の事を聞いた自分がまさにその状態でした。道連れって素敵だね!
「この後にストレート級複数とKOパンチ級があるからね」
「お、お兄ちゃん、そのストレート級ってどんなの・・・かなあ?」
「あ、バカッ!」
HAHAHA、アキラの言う通りバカやっちまったなあ、マイシスター!よしよし、聞かせてやろうとも!
「国宝級の武器をドロップするモンスターが居ます。伝説に残るようなのが世界中に。具体的な一例で言うと八岐大蛇」
『ブフォッ!』
アキラ、委員長、巌さんといった剣の道関係者がむせる。まあ、分かるよねえ。八岐大蛇の伝承、すなわち天叢雲剣、もしくは草薙剣を尾に持つ大蛇。あ、秘書さんの一人から貰ったバームクーヘン美味いな、今度販売してる所聞いてみよう。
「ち、ちょっと待って!それ、確か?!」
委員長が聞いてくる。まあ、剣の道の憧れにして国宝である三種の神器の1つだもんなあ。
「ダンジョンの事を考えれば不思議はないって巴さんが言ってたし、確かに存在するらしいよ」
一同、ホケーっとしている。まあ、有名だからね、三種の神器。あ、丁度あると聞いた場所がテレビでCMで流れてるので指を差す。
「そこのダンジョンらしいよ」
指差したのは日本でもっとも有名な山、霊山にして周りの樹海が人を阻む地。不死の山の伝承ありし山、すなわち富士山が映っていた。
『1階で撤退させられた』
朝のルーティンやって、道場に行く車の中で新しく開発となった魔石動力の携帯電話での佐々木さんの第一声がコレである。まあ、三種の神器の内1つが確実にあるとなれば、宮内庁辺りからの突き上げが激しいだろうしね。
「えっと、今回はお試し探索だったんですよね?」
『そうなんだが自衛隊の中堅連中を使ってだからね、驚きしかない』
「でも、逆に証明されましたね」
『ああ。神話級ダンジョン偽り無しと言う事がね。これで方々からの要求を突っぱねれるよ』
まあ、うん、協会は国の組織では新参者だしね。と言うかだ・・・
「そも、どうやって八岐大蛇倒すつもりだったんです?」
『それなあ。一応、ボス部屋に居るという希望抱いてロケットランチャーなどを用意したんだよ。したら・・・』
「したら?」
あ、嫌な予感。そう言えば・・・
『1階に出現するモンスターで使う羽目になった。逃げる前に鑑定した結果の名前が阿吽の石像だそうだよ。しかも、ランチャー命中しても揺らいだぐらいだったらしい』
なるほど、仏教系か。しかも、阿吽の石像と来たか。よく、寺の門に飾られてる石像だ。多くは南に作られ、南、つまり災いが来る事が多い方の門から内部を守ると言う伝承が多い。そして、多くの伝承の役目は門を守る事。すなわち守護者の面がある。
「なんでしたっけ?この門潜る者、汝一切の望みを捨てよな感じです?」
『ああ、隊員曰く山門みたいなのがあったらしい。その前での遭遇だね』
ふむ。少し考えてみる。阿吽の像は仏教山門の守護者。では、撃退された自衛隊員、つまり人間からダンジョン内部を守る存在か?まあ、否であろう。だって、そこのボス、大蛇神と書いて、大邪神の八岐大蛇である。言うなれば完全なる仏敵存在である。とすれば・・・
「もしかすると、条件が整って内から入山ならぬ、入門拒否されたのでは?」
『と言うと?』
「佐々木さん、八岐大蛇と言えば?」
『仏敵、つまり、神々の敵。そういう事かい?』
更に確信を得る為の確認事項を聞く事にする。
「攻撃されたらしいですが、それは武器を持って攻撃されましたか?」
『いや・・・・・・そういう事かね?』
やはりだ。おそらく自衛隊への攻撃手段は素手によるもの。つまり、物理的な攻撃しかされていないようだ。阿吽の像が持っている武器、独鈷が使われていないと言う事だ。アレが使われない、つまり仏敵に非ずして、門を潜る敵として認識されていないと言う事。つまり・・・
「ええ、門を潜る資格が足りないと言う事でしょう。討伐は勿論ですが、何かしらのアイテムが要る可能性があります」
『それは今すぐ分かるかい?』
道場までまだ少しかかるので考えてみる。常識的に考えるなら、最も八岐大蛇と縁が深い三種の神器だ。だが、これはあくまで最後の手段だ。と言うか、ワンオフ物にして国宝を持って入って、全滅したらそれこそ大問題である。と言うか、日本人としてそういう提案するのは勘弁してもらいたい。
「まあ、まず三種の神器が考えられますが、そも国宝持ち出さないとダメって時点でこれだけではないと思いますから最終手段としましょう」
『そりゃそうだ。となると・・・』
まあね。確かに手段としては本当に日本人的に最終手段であり、天が付く御方の方の恨み買いたくないからね。となると・・・
「日本武尊、あるいは櫛名田比売関連の何か、もしくは・・・」
『もしくは?』
なんか、車の操縦者である巌さんまで参加してきたような?ま、いいか。
「大蛇を酔わせる神酒、八塩折の酒を8樽。それと、ヒヒロイカネで出来た剣・・・でしょうかね?」
須佐之男命伝承。酔わせて尾を切り、その尾から出た天叢雲剣で全ての首を切った伝承。おそらく、ヒヒイロカネの剣はどこかでドロップするだろう。問題は・・・
「問題は八塩折の酒。それも大蛇の首に合わせた8樽が何処にあるか?ですかね?」
『だねえ。剣は元々神が持ちし剣ではあるが伝承がある地域のダンジョンでドロップする可能性は高いが、酒はなあ・・・』
これが厄介なのである。いろいろな伝承がありすぎる上に須佐之男命がその酒をどこでどう見つけ、その酒の作り主がどのようにして作ったか?どこが製造された場所なのか詳細が不明なのである。
「作るって手もあるんですよね。実際に観光客狙いのアイテムとして八塩折の酒を真似て作られたお酒もあるっちゃありますし」
『あぁ、あるらしいけど・・・』
「問題は大蛇酔わせるぐらい度数が激高くて、大蛇の巨大な身体を満足させる程の量を作れって言われたら、酒造家さん全員激怒しますよね?てか、出来ると思います?」
『八塩折の酒は酒を酒で醸造していく・・・だっけ?』
大雑把だがそういうお酒で度数も結構高いらしいが、じゃあ人間が酔いまくるお酒で八岐大蛇が酔うか?って言われると、まあ、そうね・・・しかならないだろう。しかも、量的に大樽程度では満足しないだろうから見た事も無いような超が付くほど巨大な樽を作成せねばならない。更に酒を酒で醸造すると言う事はマスク程度では防げないだろうし、じゃあ、防毒装備で行くか?と言われると酒の熟成具合が分からなくなるだろう。うぅん?これはやはり・・・
「他の伝承に頼るか、ドロップ品を探すしかない?」
『かなあ?とりあえず、日本武尊と櫛名田比売関連を探してみるよ』
「いいえ、それには及びません」
聞こえてきたのは胸ポケット。つまりカードの中から巴さんが言葉を発する。
「確かに八塩折の酒は簡単には用意できません。しかしながら、それ以上のお酒を用意する方法はあります」
うん?・・・・・・あっ!居るじゃん。日本神話以外に酒を司ってる神。日本にこだわり過ぎてすっぽり抜けてた!
「海が外なる場に居る神、すなわち、バッカスとデュオソニスのダンジョンです」
『居たなあ、そういう神・・・・・・』
電話の向こうで佐々木さんが何か開けた音がしたのは聞かない振りをして通話を終えるのだった。
「そういえば、その2神、酒の神で有名だけど、確か酩酊の神としても有名じゃなかったか?」
「あっ!」
アキラの言葉にやっべと思ったが多分、今は席を外してるであろうから後で連絡する事にした。後、道場行った際にその時の事を話したのだが、巌さんと猛翁の目が爛々と輝いたのは気のせい・・・・・・じゃないよな。伝説の神の酒だもんなあ・・・
八岐大蛇と言えば酔わせる!お酒は大人大好き!というお話




