第64話 ダンジョン財産関連のあれこれ
「そういえば、気になったんですけど・・・」
「うん?」
今日は休養日、いつものチームと一緒に確定申告の勉強中だ。まあ、楓と三優ちゃんが茹で上がった所で一旦休憩中に気になった事を聞いてみたくなり、せっかく目の前に司法書士であるトウヤさんが居るので聞いてみる事にする。
「探索者の相続周りってどうなってるんですか?」
「ああ、気になるよね。結構相談されるけど、うん、休憩中の講座として言っていこうか」
お?なんか意外と複雑な感じかな?ノートノートと探してると、ウンウンと頷かれる。
「実に教え甲斐があるね。メモは大事だよ。これやらなくて後から怒鳴り込んでくるお客様も居るからねえ」
ああ、なるほど。口頭で覚えて帰ろうとする奴多いのか。んで、御都合のお耳が良しの部分は聞いて、悪しの部分は聞いてなくて怒鳴り込んでくると。かと、言ってメモをお取りくださいとは中々言えるもんではないと・・・世知辛いなあ。
「まず、探索者には基本的に探索者協会のサポートがある、これは良いね?」
うん、これは基本だ。探索者がダンジョンで拾った取得物は基本的に換金化が主流である。そこからの現金の流れ等を司法書士さんに任せる、もしくは自分で管理して申請するのが主な探索者の流れである。
「が、ここで最近表面化してきた問題がある。それが装備品、そして、食物やポーションの扱いだよ」
「食物やポーションはなんとなくイメージできますが、装備品・・・・・・あっ!」
「そう、ドロップ装備品もあるけど、ワンオフ装備、所謂熟練者からの装備品だね」
ああ、そっかあ。そこからの装備になると3桁万どころではない。以前猛翁から見せて貰ったあの武器以外にも防具とかもあるしね。しかも、ワンオフ、つまり、本人しか使えない・・・あれ?
「ワンオフならその後に続きませんよね、金銭価値発生します?」
これである。確かにワンオフ装備は高価で税金諸々の相談もあるかもしれないが資産的価値は装備者が探索者をしてる間のみだ。引退ないし、そういう事になったら、もうほぼ置物と化すだろう。
「資産的価値はそこに限らないよ。なんなら、売れば高価だし、探索者協会や国の研究関連が高額すぎる買取金額を提示するだろう」
あ!そうか。研究的価値もあるし、もしかしたら、装備出来るかもしれない探索者や金持ちが買うかもしれないのか。完全にその辺抜け落ちてたな。
「よって、資産価値も発生する・・・んだが、この辺は現行法ではどっちとも取れるんだよね。なので、将来的にワンオフ武器防具を作るなら、そこら辺の資産計上もしっかりするといいだろう」
ああ、価値のあるなしは法律でも難しいって事ね。そういえば、将来的に武器は確実に貰える訳だから、そこら辺もしっかりしないとなあ、この場合、譲渡されてるけど、持つのは自分だから、自分が管理する事に・・・あれ?とトウヤさんを見るとニコニコしている。あ、そういう事?
「そこは丸投げしろってことですね」
「その為の僕達、税理士だからね、で、次にポーションや食物」
そらそうだ。となりつつ、次のお題もメモの態勢を取る。
「食物とポーションは計上しない、いや、出来ないと言うべきかな?あ、エリキシルみたいなのは例外ね」
「そうなんですか?食べ物とか結構需要ある感じしますけど?ポーションとかは医療関係に引っ張りだこじゃ?」
楓の言葉にトウヤさん以外が、自分も含めてウンウンと頷く。
「ところがそうでもない。ここで関わってくるのが食品衛生法に薬事法だ」
お?トウヤさんが事務所のホワイトボードを引っ張り出すと言う事は重要部分だ。全員がメモの態勢に入る。
「まずはポーション類だ。基本協会が買い取るが、売る売らないは探索者の自由だ」
そう、この為、資産と言うか、価値が上がるのを待つのに自前で保管する人が結構現れた。勿論、緊急時の備えに保管する人も居るだろうけどね。
「が、ここで薬事法が引っかかる訳だ」
流石にこの辺は分からんので沈黙し、先を続けてもらう。
「薬事法は色々あるが、分かりやすく言うと、引っかかる部分は強力な薬の譲渡、これだ。低級ポーションですら、切り傷すら治してしまう。この事が大きく資産価値を高くしつつも無くしてしまうんだ」
確かに現行ある傷病用の薬を考えれば低級ですら強力な効果・・・・・・あっ!
「そうか、身内以外には譲渡出来ないんだ」
「その通り、流石はトオル君だね」
どういう事かと言うと、コレ正確には医療の法律にも関わる部分もあるのだが、大きな部分が関わるのが薬事法である。強力な薬、それは人体にも大きな影響を与えるものである。また、今回の件ではこちらが大きいのが強力な薬は人を押し寄せさせる。その為、薬事関係の省庁から許可が出て無い物は基本的に身内の内でしか回せない・・・だっけ?
「でも、ポーションってここ2年で周知されてますよね?」
「その通り。故に関係省庁は容易に許可が出せない状況にもなってるのさ」
「あっ!」
そうか、そういう事か!だから、ポーション類は資産価値は高くもありつつも全く無いかもしれないのか!
「お兄ちゃん、分かったの?」
「トオル君、私達にも説明お願い」
楓と委員長の言葉に頷く。言葉にすれば単純だ。本当に単純明快。
「簡単だよ、コレの流通を簡単に許すと医療業界が崩壊する。もっと言えば、全世界の医者がその職を失う。いや、もしかしたら、事例がある、違いますか、トウヤさん?」
「その通り、ダンジョンが発生してしまったとある都市でポーション類の制限解除が行われた。その結果は各省庁が渋る態度の通りさ」
「無法な流通は業界を崩壊させ、医者が首吊る状況になるって事だよ」
『うわぁ・・・』
ピンと来てない妹チーム、最後の一押しが欲しい委員長とアキラは自分の言葉で理解したようだ。そら、資産価値あるけど無いになりますわ、納得。
「食物に関しては食品衛生法もあるが、さっきのポーションとほぼ同じだね」
「ええと、つまり、ああ、そういう?」
「あっ!そういう事?!」
自分はともかく楓まで気づいたことに周りがびっくりしている。うん、そう見えても一応は学年上位クラスの頭脳はあるんです、はい。でなけりゃあ、日々の課題で死んでるんで、そいつ。
「まあ、委員長やアキラ達はまだあんまり行ってないからだろうけど、ダンジョン関連のデパートの食品売り場だよ、あれがヒント」
『あっ!』
そう、デパートの食品は一度、省庁で管理され、食品衛生法に従い検閲及び検査され、初めて店に並べる事が出来る。では・・・
「食品衛生法に則った食品と同じでも、その許可が無い食物を世間はどう思うか?ですよね?」
「その通り。この為、ダンジョン食物の個人販売は違法とされる他、買った側も重犯罪扱いとなっているので気を付けてね。勿論だが、身内間での個人消費は自由だよ。でも、そこから転売したら犯罪者の仲間入りと言う事も気を付けて」
結構知らなかったらやってしまいそうな事柄多かったな。勉強になったわ。
「さて、じゃあ、勉強の続き始めよっか」
オウフ、そう言えば、結構長めの講義だったが確定申告の勉強の休憩中の雑談だったわ。うん、楓達はもう少し頑張ってくれ、うん。
なお、この設定はこの小説の独自設定なので悪しからずと言うお話




