第54話 無在庫販売という時代の先取り
「あ、やっぱり出ましたか」
「今まで出なかったのが奇跡なんだよね」
合宿延期の9月中旬、アキラや委員長達がダンジョンで居ない昼間、ルーティンを終えて食堂で昼食を取っていると、佐々木さんが来てとある物を見せてくれた。まあ、ぶっちゃけ、簡単である。
「オークションに防具の出品ですか」
コレである。所謂転売問題。いや、探索者規定の隙間を縫った転売と言うべきか。規定では武器は如何なる事があろうとも、販売は許されない。まあ、コレは銃刀法違反にもなるので当然である。また、レンタル装備も同様で盗難、販売は禁止。罰則は大変厳しいものである。しかし・・・
「自作防具、ドロップ防具の一部は制限が無いのが、今回の事態招きましたか」
「だねえ」
ビキニアーマーとかもそうだが、貴重な装備は勿論協会が高値で買い取るが、それでも買い取り価格が低く、持ち帰るか処分かを検討される物もある。世間曰く、ハズレ防具と呼ばれる物。特に表示されたパソコン画面に多く出品されている皮の胸当てが最たる物だろう。一応、それなりに固いが皮で出来ただけの胸当てで爪などの斬撃耐えれる?と言われればそらそうである。
「まあね、実際、新規には最適で売るのは問題は無いんだが・・・」
「まあ、分かりますよ、問題はこの量。そして、騙す奴が出て来たって事ですよね」
「だね」
ズラーッと並ぶのは出品者名、つまり、アカウントのみが違う皮の胸当てなどのハズレ防具の一覧。ただし・・・
「この中に詐欺師、この場合在庫がない無在庫販売が確実に何人か居るって訳ですね」
「情報開示もかけるつもりだが、探索者では無いという証明が出来ない、その上・・・」
「仲介業者の可能性も否めない・・・ですからねえ」
こういう事である。黒であると言えば違い、グレーと言えば違う。黒に近いグレーゾーンを歩く者達である。少し先の未来に居る闇バイトや無在庫販売者が出て来たのもこの頃かな?コレで厄介なのが・・・
「嘘かホントか見分けにくいって事ですよね」
「そうなんだよね。何かしらの対策を立てたい所ではあるんだが・・・」
そこでこっちをチラッと見ないでくれますぅ?うぅん?しかし、これは難しい問題だ。まず問題となるのが・・・
「今の出品は今のとこどうにもならない、これが大前提になりますね」
「まあね。そっちは何とかする、問題は・・・」
そう、大問題がある。佐々木さんが知恵を貸してほしい本命はそっちだろう。何が?というと・・・
「これから出るであろう逃げ用アカウントでの出品の抑制」
「その通り。何か策はないだろうか?」
これについては色々考えられる。が、抑制となると難しい。何故か?捨てアカウントだから、これに尽きる。逃げ場がいくらでもあるのである。この頃のオークションシステムは支払い→支払いを出品者が確認→発送だったからね。ぶっちゃけ、マジで出品者有利だった頃だ。落札者が泣きを見る事が多かった時代でもある。
「うぅん?」
案はある、あるにはあるが、かなりの労力とお金がかかる。ああ、でも、これからを考えると必要になりそうでもあるので提案する事にした。
「えっと、出来ればが前提の案ならあります。後、凄まじくお金がかかると思いますし、準備が大変だと思います、それでも?」
「聞かせてくれ」
「まず、大前提として、現在のオークションにおけるシステムはご存じですよね?」
「うむ」
まあ、件の問題でもあるから、そこの辺りは分かっているのだろうとする。で・・・
「次の前提条件として、もしかしなくても探索者協会に負担がいきます。いえ、断言します、かなりいきます」
「ふむ。そこは話次第になるだろう。続けてくれ」
まあ、今更かという顔である。ダンジョンで胃薬的なの見つけたら、箱に詰めて送ろうかな?
「ポイントは仲介です。分かりやすく言えば、オークションサイトへの探索者協会の仲介及び介入を提案します」
「ふむ?」
ここからが、佐々木さんにとってはかなり胃の痛い話になるだろう。だが、同時にこれが行われなければオークションサイトは無法地帯と化すだろう。
「基本的にドロップ品を持ち帰れるのは探索者です。そして、基本的にドロップ品は一度鑑定に持ち込みが原則です。そこを逆手に取ります」
「なるほど、そこで紐づけすると?」
「探索者協会の印をつけるとかそれは勿論なんですが、この制度開始時にかなり大騒動になるであろう事を執行されるのがよいかと」
「それは?」
まあ、自分もかなり大騒動になる事を佐々木さんに話す訳だ。その大騒動になる原因とは何かって?
「現状、オークションサイトに載ってる全てのダンジョン関係物資を販売権を停止させます」
「oh・・・」
だが、必要でもある。海外まで手が回るかは分からないが、少なくとも日本では取り締まる!という姿勢をネット上で強く見せる必要がある。
「唐突ですから善意の出品まで消す事になるでしょう。なので、同時にこう告知するんです。探索者協会に持ち込み、鑑定を受ければ再出品を認可するとね」
「なるほど。しかし、海外サイトを経由すれば悪用出来そうだが?」
「ええ、日本の探索者協会の認可という大きな信頼が無くて、死蔵しても良いならが上に付きますがね」
「なるほど、すまない。すぐにでも会議が必要なようだ」
「後程、まだ話してない点とか書いたの隊員さん経由で渡しておきますね」
頼むよと言って、佐々木さんは食堂を出ていった。まあ、アレだよね、日本のドロップ品です!と海外経由で売ったとしても、探索者協会の認可受けてない品って聞いたら、世の探索者どう思うと思う?胡散臭いしかない訳である。まあ、もちろん、安いのを探す、いわゆる初心者と呼ばれる探索者が引っ掛かりはするかもしれないが、それはそれで自業自得である。探索者の職業での武器防具の安物買いの銭失いは探索者が最も避けるべき問題点であり、免許取得時の講義では勿論、探索者学校の方でもかなり重要な話として話されるのだ。ね?自業自得でしかないとしか言いようがないだろう?
「しかし、思ったより早く表面化したなあ」
食べていた昼食を済ませ、今日の洗い場係の隊員さんに空になった食器を渡した後、部屋に戻り、課題やさっきのまだ言ってなかった点の報告書。そして、今後起こるであろう、とある事の解決案をパソコンでプリントアウトしていくのだった。
今も昔もオークション品は注意と言うお話と、少し時代を先取りした転売ヤーのお話。転売ヤー死すべし、慈悲は無い




