外伝4 日本首相 泉 明彦(いずみ あきひこ)
「ふぅ」
執務室の受話器を置いて、ようやくの一段落を周りに示す。秘書に書類を渡し、来ていた議員達が退室したのを確認した所で、ようやく、用意されたころは冷たかったであろう温い水を飲んで一息つく。
「はぁ・・・」
彼等に関する案件は日本の救世主であり、最も我々が激動しなければいけない案件だ。それ故に面倒であり、繊細でもある。
「にも関わらず、アホは沸く・・・か」
このアホ共と言うのは表現の自由は守られるべき、報道の自由は守られるべき!として、様々な突撃取材をかましたテレビ局、新聞社などのマスコミ共である。更に、自分達のピンチに子供、しかも、未成年の情報を拡散させようとか、本当に救いようがない。
「このまま収まってくれる・・・訳が無いな」
もう、慣れた、いや、慣れ過ぎてしまったこの部屋に来そうな足音を聞いて苦笑する。温い水を一気飲みして喉を整える。
「御休憩中に失礼いたします。泉首相、お客様です」
「入りたまえ。で、お客人の名前は?」
「糸崎翁と言えばお分かりになると」
入って来た警備員の言葉に驚きが増す。糸崎家、世界中にSP員を配する家だ。そこの、翁はもはや達人を超えた仙人とも言われる方。日本の政治世界で動くのは滅多に無いと言われる方だ。
「許可する、ここに来てもらってくれ。噂は知ってるだろうから、丁重にな」
「はっ!」
そして、初めて会う翁に気圧されつつも、話された内容に頭を抱え、憤怒のあまり、安物とは言え、ボールペンを折ってしまった。何故か?
「未成年の拉致に、その情報を得る為の麻薬に自白剤の用意だと・・・」
私は日本の首相だ。表現の自由に報道の自由は理解出来る。だからこそ、ある程度の容認はするつもりであり、件のテレビ局などに関しても上層部を挿げ替える程度で済ませるつもりではあった。だが、糸崎家が独自で得た件のテレビ局だけでなく、マスコミ各社の情報はその慈悲すらも彼方へ葬り去るようなものであった。
「これは確かで?」
「少し前にな、うちに張り込んでた車から、計画書を回収し、独自に人をやって掴ませたわい。儂の孫は勿論、その友人まで類が及ぶなら、我が家は容赦はせんつもりじゃ」
静かなる憤怒、まさに今目の前に居る武人は文字通りの意味で行うだろう。そう、糸崎家という大きな家が静かに日本では類を見ない静かな解決の為に動くだろう。そう、マスコミ関係者が知らぬ内に消えるような・・・ね?お待ちくださいなど言える訳が無い。確か、糸崎家の件のお孫さんは女性であったはずだ。そういう意味でも後顧の全ての憂いを無くしたいのだろう。私も家族が居るから分かる。
「当初の計画としましては、各社に通達し、社長・会長の挿げ替えのみを行う・・・つもりでありました」
「まあ、日本の法律の限界ではあるのう」
そう、実害が実際出ていない場合は日本の法律は限界がある。だからこそ、その限界ギリギリまでの事案を行うつもりではあった。これを見る前までは。麻薬に自白剤を彼やその関係者に使うだと、ふざけるな!と怒鳴りたい。だが、それは目の前の武人も同じ。だからこそ、私の元に来たのだろう。ならば、私は日本の首相としても、私人としても、人の親としても応えなければならない。
「直ぐにでも行動を開始いたしましょう、よろしければ、糸崎翁の伝手も使わせて頂きたい」
「うむ」
武人の翁とガッチリ握手をして行動を起こす。その行動は様々な方面に影響を与える事をまだ私は知らない。されど、行動あるのみである。
ちょっとした舞台裏であり、そしてちょっとしたフラグでもありますという外伝の日本の首相のお話




