第50話 まだまだ続くよマスコミ問題
「そういや、聞いたか?」
「んお?」
それからまた数日が経過した朝、ジョギングの前のストレッチでアキラがそう言ったので、顔を向ける。
「例の特化型ダンジョンだよ、フィーバー状態らしいぞ」
ああ、宿舎内の食堂のテレビのニュースで、何回か見たらやってたな。曰く、食糧、鉱石の他に資源が沢山手に入り、今、特化型ダンジョン景気とやらが起きてるらしいね。ただ・・・
「その分、犠牲者や重傷者多いらしいけどね」
「だなあ。鉱石ダンジョンは超でかいゴーレム集団の不意打ちで、遺体すら残らなかったんだっけ?」
「そうそう。情報によると、たかが土くれのゴーレムと舐めたパーティが壁のシミになったらしいよ。自分達は御安全に行こうぜ。欲をかいちゃいけない」
「だな」
そうしていると委員長達もやってきたので、日課のルーティンを開始する事にした。しかし、まあ、普通にこういう日常会話出来てしまうようになったのが色々複雑だなあ。
「あれ?巌さん?」
「お、来たか。ちゃんと鍛錬してるようで感心、感心」
いつものルーティンを終え、風呂で汚れを洗い直した後、食堂に行くと巌さんが待っていた。あ、もしかしてと思って聞こうとしたが、アッ、ハイ、まずは昼飯っすよね、取ってきます。
「まあ、大体想像は付いてると思うけどね。まずは新しい課題だ」
ああ、今は郵送されてくるけど、こっちに来るなら持たされたってとこかな?まずはそれを受け取る。で、まあ、委員長どころか妹チームも次の言葉が出るの露骨に嫌そうなんだよね。まあ、察し付くよね、次は・・・
「それと、君達が気になってる周りの事だ。まずうちと猛さんの道場は全く問題が無い」
そうだね、マスコミ関連だね。確かに大きい問題は解決したが、取材は禁止されていない。で、関わるとマジで長いからなあ。まずは道場は割と問題無いと思っていた。猛翁の所は勿論、巌さんの道場もそれなりに名が通ってるからね、相手するには悪いっていう判断だろう。
「学校もそれなりに落ち着いてきた。幸か不幸かは分からないけど、特化型ダンジョンの方に今流行が向かってるようだからね」
確かに複雑ではあるが、そろそろ、落ち着きを見せてきたという段階なのは確かなようだ。が、問題は・・・
「君達を取材したいと言う手合いはまだまだ健在だね、残念ながら」
「ワア・・・」
こちらに来て、半月近く経過してコレか。しつこいと思ったが、格好の取材対象なんだろうね、自分達。件の番組を編成していた局は潰れたも当然だが、例の未成年死亡事故を調べる内に、知られてしまったんだろうね。流石に全ての人の口に戸を建てる事は出来ないからなあ。
「特化型ダンジョンと同じくらいに未成年探索者の動向が今取材ブームになりつつあるらしいとは聞いてはいましたが・・・」
「おそらくは例の局以外が名誉挽回しようとしてる感じだね。未成年探索者を持ち上げて、政府への覚えを良くしようって所だろう」
「無駄そうなのになあ。その辺の管轄は佐々木さんなのに、報道の理由なんか見切られてるだろうになあ」
「まあ、勿論、世間の目も厳しいらしいけどね、ほら」
自分の言葉にメンバーが頷きつつ、巌さんと話していると、巌さんからプリントアウトされた紙束が渡される。そして、読むと変な笑いが出た。
「お、なんだ?」
アキラだけでなく、委員長や妹達も覗き込もうとしてくるので、ご飯を食べている机の真ん中に置くと、全員が苦笑する。何があったかって?
『今更手のひら返し、乙!』『ふざけんな、編集してるじゃねえか!』『散々、未成年探索者を批判してたくせによぉ!』etc・・・
「まあ、そうなるなとしか言いようがないよね、コレ。ああ、だからか・・・」
『ああ・・・』
紙束に書かれているのは某掲示板、今は探索者専門掲示板だっけ?そこに書かれたここ最近のマスコミの未成年探索者の厚遇取材の反応書き込みだ。
「自分達に取材して、こういう手段もありますよと自分達の手柄にしようとしてると?」
「だろうね、嘆かわしい事だ」
ん~、こうなると、マジで考えなければいけないかもしれない。
「アキラ、例の件、佐々木さんにお願いしよう」
「だな」
頷くと、近くの隊員さんに内線番号を教えてもらい、佐々木さんと連絡を取るのだった。
「そのまま、特化型ダンジョンの話題性に乗っかかれば良かったのにねえ」
それから数日後、自分達のお願いが達成されたと佐々木さんから報告が来たので、昼からの訓練を全て中断し、自衛隊基地の事務室の1つで佐々木さんと話し合っている。
「まずは物件はこちらになる。こちらの都合ではあるから、土地代に家賃は取らないよ。後、首相から減税の許可も出ている。マスコミ?気にしなくていいよ。この機会に色々ぶっ壊すからね」
「色々吹っ切れましたね・・・・・・って、ファッ?!」
まあ、これで大体分かると思うがお願いとは自分とアキラの家の引っ越しである。委員長の家は道場で要人のSPも輩出しているのでセキュリティが高いが、自分達の家はどうにもならない。探索者協会の息がかかってるアパートと言っても写真や取材は一歩でも外に出れば出来てしまうからね。さりげなく、探索者協会が偽装した警察官で見回りをしてきたが、手段を選ばなくなるのも時間の問題と見た。そこで、更なる引っ越しと言う訳だ。学校もしばらくは今の形式で登校認可と言う形になるだろう。
「これ、良いんですか?」
「構わないさ、今まで無理も聞いて貰ったしね。それにそこぐらいじゃないと恐らく突撃してくるよ、マスコミは」
ですよねと言いたいが、これはまた豪快に行ってくれたもんだ。引っ越し先についてメンバーに回すと皆びっくりする。そりゃそうだ。だって場所は・・・
「帝国ホテル敷地内に1戸建て2つですか」
こんなもん提示されたら驚きしかないわい。父さん達の職場に関しても、今の職場は円満退職になり帝国ホテル内での雑務を紹介してくれるそうだ。まあ、このままだとマジで会社まで取材に来かねないとの事らしいから、仕方ない。徒歩数秒ってのが凄いよね。究極の住み込みではない住み込み職となってるのが特に。
「これまでのトオル君の功績を考えればこれぐらいはどうってことないさ、首相とその上も認可しておられるよ」
オウ、首相の上ってそういう事、そういう事ディスカ?天が上につく人ディスカ?ちょっとぉ、手が震えて来たんですけどぉ?!
「しかし、問題は学校だなあ」
「だねえ」
両親の問題が解決したら、次は学校である。とりあえず、震えを止める為に口に出した事ではあるが、コレが実に厄介である。
「流石に合宿期間後は収まってて登校・・・とはいきませんよね?」
「だねえ。我々もそちらのお嬢さんの祖父も動いてるけど、あいつら、ホントに黒いアレみたいに蠢いてるからね」
例えが分かりやすいのがなんとも、良い手段は身体能力でかわしていくなのだが、学校まで付いて来られたらアウトである。と言うか、通ってる学校分かってるだろうから、待ち伏せまであるだろう。なんで、学校まで来られたらアウトって?取材対象が自分達で、毎回来られると、学校も対応に困ってしまうだろう。かと言って、一罰百戒を世間的に済ませたマスコミに更なる罰をは実際に問題が起こらなければ難しい。
「マジ面倒くさいですねえ」
「だねえ。そこで提案になるんだが、君達皆でとあるテストケースに付き合ってくれないか?厚生省の」
「はい?」
どういう事?と思ったが、佐々木さんについて行くと、納得した。そして、少し先の未来で採用されるとある物があったのだ。今にして思えば凄い経験だったかもしれない。
こういうのはマスコミの得意手段ではありますが、マジで長くて困るというお話。そして、次回に続くお話。




