閑話 糸崎 春奈 初めてのダンジョン
ちょっとだけグロいお話かもしれません。一応、グロ注意
<糸崎 春奈視点>
「近日、いよいよダンジョンじゃろう。さて、師として、お主のパーティに課題を与える」
「はい」
いよいよ4月になる数日前、私は御爺様に呼ばれ、居間で話し合っている。課題、どんなものかしら?
「まずは安全をきっちりと確保しつつ、ラビットを1人1殺、武器による攻撃で行うのじゃ。更にラビットは1体の時以外は即時の撤退を申し付ける」
「っ?!」
その意味は分かる。御爺様は生物を殺す覚悟を見せろ。そして、一緒に行く彼女達との絶対の安全を確保しろと言っているのだ。ゴクリと喉が鳴り、辛うじて、承知しましたと言えた。そして、その日はもうすぐだった。
「委員長さん、居ました」
ダンジョンは思ったより人が居た。ダンジョン外の出入り口で列を並び、カードを見せ、準備用の建物に入り、着替えなどを行う。ここ以外で武器などを出すのは禁じられている。ちなみに、うっかり武器を露出させてしまった探索者は即時の逮捕である。銃刀法違反があるものね。とは言え、まだまだ初心者の私達はレンタルの武器なので、着替えだけを行う。そうして、ダンジョン入り口近くにあるレンタル所で武器をレンタルし、入場して、しばらくすると人混みが途切れる。ダンジョンは1階層でも広い。人が消えたとかではなく、本当に会わなくなるほど広いのだ。
「オッケー」
そうして、探索に時間をかけつつ、見つけたラビット1匹の存在を小声でお互いに確認する。その内、ハンドサインも覚えていきたいわね。情報によると、ラビットは相手が目視範囲まで近づかなければ攻撃はしてこないらしい。だからこそ、選ばれたんでしょうけどね。
「私から行く。2人は見ていてちょうだい」
『はい』
私が鳴らしたのか、2人が鳴らしたのか分からない、喉鳴り。ヒリつく空気。フーッと一息を吐き、レンタルの刀を鞘から抜く。
「シッ!」
『ギッ?!』
手元に来る肉を切り裂く感触、体にかかる生暖かいラビットが生きていた証である血の感触、嫌悪感が体を走る。それでも、刀を振り抜き、ラビットの体を斬り裂き、絶命させる。
「っ?!」
「「春奈さん!!!」」
残心を行い、ラビットが霧のように消えた後で、カランと刀が手から落ち、体が小刻みに震える。それを見た知り合い2人の妹さん達が駆け寄ってくる。
(殺した!!!私は、今、確実に生物を殺した!)
体が感触を反芻する。蚊が煩わしくて潰したでもない、うっかりな行動で虫を潰すとかではない。自分の意志で殺したという事実が重くのしかかる。あの、鶏を殺した時の比ではない吐き気や嫌悪感が走り続ける。妹さん達が手をぎゅっと握ってくれる。そこの暖かさから少しづつ自分を取り戻す。
「ふぅ・・・よし、次の1匹を探しましょう」
御爺様もあの2人もこれを予想していたのね。そうでなければ、妹さん達が手を握ると言う行為はせず、オロオロするばかりの筈だ。全く情けない限りだわ。
『はい!』
言うまでないが、この後、2人も1殺を達成し、同じように手を握る事になったのは言うまでなく。トラウマになるかと思ったが、2人ともむしろ闘志燃えてたのよね。原因、絶対あの2人よね、何話したのかしら・・・・・・?
「今日は撤退ね。それにしても、これで分かったわね」
三優ちゃんが落ち着いた所で、ラビットのドロップを拾い撤退。そして、1階層のセーフルームで情報を調べる内にとある事実に私達は気づいた。
「おかしいとは思っていたのよね。今、まさになるほどってなったわ」
「ですね。これは怪我人が多くなるはずです」
「私達も委員長さんのお爺様に止められてなければきっとやってましたね」
自分の言葉に対する、楓ちゃんと三優ちゃんの言葉に頷く。何が?と言うと、ドロップ品だ。3人共メダルコアと言う僅かなエネルギー源となる硬貨のような物だったのだ。コレがいくらかと言うと・・・
「1枚50円・・・」
命を懸けて、1匹状態を探したのもあるけど、2時間以上かけた命のお値段が計150円。
「なるほどね。初期の怪我人が多かったのはこういう訳だったのね」
恐らく、メダルコアと言うアイテムの取引額は安定してる今より良くても200円ぐらいかしら?そりゃあ、ねえ?
「無理して潜るはずだわ」
『 で す ね 』
思わぬ真相、思わぬ収穫を得て、私達はダンジョンから出て、日常と言う場に戻るのだった。ちなみに、探索者は報酬は通帳振り込みなのだが、150円という事で手渡しされました、ハイ。これは私でも凹むわ・・・
一足先に妹チームと委員長の探索者デビューのお話。2人の兄は何を言ったんでしょうねー?




