第40話 砂漠階層
「ああ、すまないね、トオル君」
「いえ、クリスマス前なら予定はありませんから」
とある冬の日、何時ものルーティンに加え、昼過ぎから自衛隊基地での連携訓練の後で佐々木さんに呼び出された。緊急事態との事で、訓練も少し早めに切り上げ、アキラに他のメンバーに伝言をお願いして今に至る。あ、勿論、課題は済ませてある。
「すまないね、もう色々、ホントにまずいのだよ」
うわ、以前会った総司令に頭下げられた他、テレビとかで見た事ある人とかも居る?!
「一体何があったんです、佐々木さん?」
フーッと、佐々木さんが息を吐く。周りも同様だ。あ、コレ、マジヤバい事案の予感?
「20階層より下の深層で予てより、懸念されていた階層が見つかった・・・」
佐々木さんがため息つくほどの階層?むしろ、佐々木さんだけでなく戦力を増強した自衛隊の総司令官すらも渋面を作る階層・・・・・・あっ!
「もしかしたりします?」
「察しが早くて助かるよ、そう、見つかってしまったのさ。見つからない事を願っていた砂漠階層がね」
うわあ、出た。人類がどうしても勝てない、自然と言う相手で一番極悪な奴ゥ?!ちなみに、第2位は海である。なんでって?ダンジョンの中でどうやって船を持ち込めと?
「砂漠階層だからと言う訳だけじゃなさそうですね?」
「ああ、最悪も最悪の階で引いた。29階だ」
うわ、なんという極悪コンボ・・・と言うのも、ダンジョンの研究が進んでいるのだが、所謂、壁となる階層が10階毎と言うのが割と確定しているのだ。要はボス部屋ってやつだ。その手前でこれはきつい。
「実は30階が壁部屋でない可能性は?」
「可能性は限りなく低いし、手前が砂漠と考えるとあり得なくもないが、希望的観測クラスだな」
デスヨネー。となると、自分が呼ばれたのは、まあ、そう言う事なんだろうなって。とは言え、まずは情報が無いとどうしようもない。
「情報は?」
「こちらに纏めてある。読み込むまで待つから、ゆっくりでも良いから、頼むよ」
アッ、ハイ。テレビで見た日本のお偉いさんとか居るので、急いで確認しますね。え?気にしなくていい?すんません、根は小市民なんです。
「一言で言ってしまうと、じっくりと探索が一番でしょうね、コレ」
「まあ、そうなるよねえ」
自分の言葉に佐々木さんがそう言うと、お偉いさんたちも天を仰ぐ。厄介、いや、想定していた倍以上の厄介さである。何が厄介かって、ぶっちゃけ言おう。この砂漠階層の 全て がである。
「自衛隊の装備を軽装には100%無理ですよね?」
「戦死者出ちゃうねえ。下手しなくても」
まず厄介となるのがコレ。砂漠階層のとんでもない暑さである。自衛隊の主な装備は銃と、対モンスター対策の重装装備である。当たり前ではあるが通常時ですらも熱が籠る。そこに砂漠の暑さである。水の消費が半端ないし、戦闘中に喉が渇いても水飲む暇などある訳がない、うん、地獄の階層としか言いようがない。更に、ここに加わるのが・・・
「モンスターの様相が酷い」
『ホントにな』
お偉いさんも含めて天を仰ぐ。例えば、砂漠と言えば?そうだね、サソリだね。毒が厄介だね、普通のサソリでも・・・・・・勿論、普通のサソリの訳がない。大きさが大きな虎ぐらいあろうサソリが地中から出現するらしい。オウ、ファンタジー。ファンタジーな場所だったわ。
「何が酷いって、砂漠に適応してる所ですよね、モンスターのほとんどが」
お偉いさんも佐々木さんも頷く。当然ではあるが適応、つまり砂漠の暑さにも適応している他、体が砂漠の色になっているモンスターが多く、地中に居なくとも、実はそこに居た!と言う不意の遭遇の事例が多く、階段を見つける事すら出来ずに撤退をせざるを得なかったらしい。天然ステルスモンスターって怖い。
「これを常時警戒は確かに続きませんね」
装備の動き難さ、暑さ、視界の悪さだけなら自衛隊のスカウト、つまりは斥候の警戒でどうにかなっただろう。しかし、そこにモンスターが加わるなら別である。たった1度の警戒ミスが全滅に招きかねないのは危険すぎる。
「せめて、なんらかのきっかけがあればと思うんだがね」
ぶっちゃけ、一番良いのは砂漠階層を蹂躙、つまり、戦車なりロケランなりを持ち込んで一歩ごとに一切合切を全て吹き飛ばす方法である。ただ、この方法も欠点があり、必ずモンスターを倒せるとは限らない、視界の悪さが粉塵で更に悪くなるし、加えて、その粉塵で文明の利器である銃器類が細かい砂漠の砂でジャムる可能性が高くなる、つまり、武器が使えなくなる可能性がグンと上がってしまうのである。更に更に、その振動などでモンスターを大量に呼び寄せ、結局消耗戦になってしまう可能性も高い。
「う~ん?銃器類の効きはどうですか?」
「悪くはない。しかし、流石に単発の銃、つまり、拳銃はマグナム系を除いてほぼ効かないと言ってもいい」
曰く、貫通性を高めた銃弾すらサソリの甲殻が弾いた辺りでお察し、しかも・・・
「ワームまで居るんか」
ゲームとかでよく見る牙を持った芋虫的なアレである。これがまた厄介でグレネードが数発命中してもケロリとしている他、地中からの出現なので、今の所は居ないが捕食されかねないからという事で、砂漠階層での足踏みの一番の原因はこいつのようだ。
「少し整理しましょう。まず、砂漠階層で欲しいのは暑さ対策、コレを優先として、次に砂漠の魔物対策、OKですか?」
「うむ」
どちらも難問だ。しかし、自分はとある事の方が気になっていたので、そこをまず話してみよう。
「この2つにも関連するかもしれないが関係ないかもしれない事なんですが、意見よろしいですか?」
「話してくれ」
もう隠しようもないが、お偉いさん、つまり、日本の首相が頷く。今はどんな情報でも欲しいのだろう。
「まず、大前提として、これはまだダンジョンに潜った事の無い若造の意見ですという事を置かせて頂きたい」
周りが頷くと続ける。少し長くなりそうだな。
「そちらの認識でダンジョンが出現して何年になるかは分かりません。ですが、とある点に気づきました」
そう、以前も話した幻獣・ドラゴンが居ない話である。話していくと、自衛隊総司令も確かにと言う顔になる。
「最初は自分もこの系統が居ない事はダンジョンを出現させた存在は無用な争いをさせない為、そう思っていました」
最初はそう思っていた。しかし、少しづつ、それは違うのではないか?とし、別の視点で見ると、普通ならあり得ない結論に達した。そう・・・
「ダンジョンは無理難題は出さない。いえ、出せないのではないか?」
ザワッと場がざわめく。普通ならば、砂漠階層を考えるなら、あり得ない!と言う意見が飛ぶだろう。しかし、この場に居る人達はそう考えれない。ダンジョンについての報告、自分のレポートの報告、そして砂漠とは現実にもある環境。これらを考えると絶対に無理と言う訳ではない。むしろ、ドラゴン討伐の方が非現実的まである。
「つまり、砂漠階層に関しても、何らかの対応措置があるという事かね?」
佐々木さんの言葉に頷く。
「砂漠階層はボス部屋階層前、間違いありませんよね?」
「うん、間違いないね」
ならば、尚更、自分の説は補強される。何故か?砂漠で大幅消耗をダンジョンは考えていない、つまり、砂漠、もしくは別の階層に対応策はあるという事だ。そう考えると、辻褄が合う。
「あり得ない話では無いな」
自分がこういう結論でどうだろう?と話すと顔見知りの自衛隊総司令である紅城さんがが頷く。実際にここまで結構駆け足だったので、じっくり探索を行うという事で落ち着いたようだ。
「万全を期すならサーコート装備の奨励や水をマジックバッグ大で大量に持ち歩くが良いですかね?」
「うむ、所で政治の仕事に興味は?」
「ありません」
首相の言葉に即答しつつ、いつもの歩法でその場を離れるのだった。絶対やらねえ!
だんだんと解き明かされていくダンジョン。しかし、まだまだ謎が多いというお話




