第3話 ダンジョンという日常の始まり
「わ~お」
免許取得から4日ほど経過し、その間に自分達の要望は職員会議を経て承認。免許を預ける保管庫が設置され、預けて、さあ、動き出そう!と言う所で感じていた懸念が朝のニュース番組で現実となってしまったのだ。
「クッソ早すぎ。政府ももう少し隠蔽するなり、金渡して口閉ざさせるなりしろよな」
動きやすいジャージに着替えながら、口では悪態を、内心では頭を抱える。そう、偶然レベルの稼げる冒険者がニューストップに出てしまったのだ。そして、懸念は下に降りた時にニュースを見て目を輝かせている妹の顔が如実に現れていた。なので、ご飯を食べながら、釘を刺す事にする。
「最初に言っておくぞ、妹よ。まず、あの日取り決めた事は守る、間違いないな?」
「うん!」
妹こと、桐谷 楓はしっかりと頷く。よし、ここから父と母も居るこの場で父と母には安心を、妹には軽い絶望を見せてやろう。
「俺とアキラは免許を学校に 2年間 預ける。つまり、お前がちゃんとこの兄と同じルールを守ると言った以上はお前にも守ってもらうぞ」
「え?」
「あらあら」
「うむ」
順に妹、母、父である。ちゃんと、あの日に色々話したはずだが、どうやら、こやつ滅茶苦茶浮かれていたようである。ギギギと言う感じで父と母を見た後、こちらを見る。そんな顔で見ても知らん。浮かれポンチだった奴が悪い。
「はぁ、俺は今から学校までランニングして、プリント受け取ったら、そのままアキラと今日から色々準備するからな。朝から夕方まで会わんだろうから、夜にまた話してやるよ。じゃ、父さん、母さん、行ってきます。あ、お前もちゃんと学校に行けよ」
『えぇええええええええ?!』
行動開始の朝は妹の絶叫を背に開始されるのだった。ヴァカめ!そんな簡単に母さんと父さんがお前の参戦を許す訳なかろうに。扉が閉まった後、手を合わせて南無した後、先ずは学校を目指すのだった。しかし、帰宅した後が気が重いな。いや、ここは心を鬼にしなけりゃな。
「んじゃ、早速」
今夜の事を考えると色々と気が重いが、まあ、とりあえず、先ずは軽く筋肉をほぐした後、走って学校を目指すのだった。
「おはようさん。ふぅ・・・」
「おう、おはよう。こうして走ると、自転車の有難味分かるよなあ」
校門前でアキラと合流する。まあ、なんと言うか、案の定というか、予想を超えて早かったというか。登校する生徒は少ない。朝練がある部活の人間すら少ない。想定していた懸念以上だな、コレ。
「おはようございます、プリント受け取りに来ました」
「おう、これが今日から一週間分な」
少し説明が必要だろう。当初の自分の計画では学校で朝プリントを受け取り、翌日提出を繰り返すつもりだった。が、この方法はいきなりだと倒れてしまうかもしれないと言う事で、先ずは一週間分を受け取り、翌週の月曜朝に登校、提出。夏休み直前なので、先ずはテストケースと言う形で行う、そういう事になった。更に、自分のプラン提出にある着替えなどを行う場所は空き教室である家庭科予備室を使っていいとお達しが出た。実はプランとしては水道設備等があるどこかのレンタルルームを借りる予定だったのを先生が説得してくれたらしい。
「サブキー、確かにお預かりします」
「おう。紛失した場合はサブキー作成の金出してもらうから気を付けろよ」
まあ、学校としては生徒が登下校、授業を受けてますアピールが必要な所が強かったそうだから、この許可はそこを突いたのだろう。先生、恐ろしい人!と思いつつ、サブキーをキーホルダーに付ける。
「うす。ところで、自分の予想を超えて早かったですけど、やっぱりだったりします?」
「ああ、大半が怪我。中でも重いのが意識不明の重体ってところだ。俺も今から職員会議だ。基本、今週は自習が多いかもなってレベル。来週から夏休みなのに職員室で交代待機が多くなりそうだ」
うげ、想像以上だな。こうなると、次の問題は・・・
「こりゃ、夏休み前か後に学校側が規制設けますかね?」
「だろうな。まあ、お前達は既に免許を返納ではなく、学校に預ける形にしてるから没収や返納は無いだろう。そこは議題に上がったら、俺と校長が会議でフォローしてやるよ」
まあ、こういう話を通すなら、4日間の間、様々な奔走の際に校長先生とお話したのだ。勿論、大歓迎を貰った。何故か?って、校長先生どころか大半が懸念していたのだ。こういう事態を。そして、恐らくだがPTAなどの組織が抗議しても年齢の引き上げなどの譲歩は政府に通用しない。何故か?簡単だ。これが日本一国ならばどうにかなっただろう。だが、ダンジョンの出現は世界各国である。圧倒的に人手リソースが足りないのである。
「どうもです。ちなみにうちのクラスは?」
「奇跡的な事にな、怪我人はゼロだ。ほれ、委員長。あの娘がかなり現実を厳しく言ったお陰でな。登校してきたら、凄く感謝されるだろうよ」
あ~、うちのクラスの名物の鬼委員長こと、糸崎 春奈さんが動いたか。まあ、実戦系列の道場の娘さんだからな。実戦での怪我と言う概念を説明するにはこれほど素晴らしい人材は居ない。マジでうちのクラス幸運だわ。その分、会ったら説教だろうし、来ない内にサクサクと移動しよう、そうしよう。
「それじゃ、失礼します」
「おう。帰る際は、声掛けしなくて良いが、部屋の掃除は毎回軽くやっといてくれ」
「了解です」
こうして、自分の計画の1日目が始まるのだった。とりあえず、アキラと合流して、今日の行動やるか。
マスコミの情報に踊らされるっていつの時代にもあるもんです。それが、現実に危険合ったとしても、大々的な報道は小さな声は無視されるというお話。