第16話 出て欲しくないが出てしまった事
「出ちまったかあ」
あれから武器についても色々知識を得る事が出来、更に委員長の道場のお陰で色々知る事が出来た。そうして、世間はクリスマス近くまでになり、ついにそのニュースは広まってしまった。
「クリスマスに出るのが皮肉と言うか、はあ・・・」
いつもなら、佐々木さんに連絡するのだが、今回ばかりは国家と佐々木さん達に全て任せるしかない。何が起きたって?
「民間委託探索者の行方不明か。しかも、複数の女性」
そういう事である。ちなみに妹にも委員長の道場でのことを伝えてある。アキラも伝えただろうし、この件は完全に国家に任せるしかない。そうして、自分の部屋から出て、いつもの日課を行う。
「・・・と思っていた時期がありました」
「まあまあ」
はい、いつもの佐々木さんが居る事務室と見せかけて、政府公認のスポーツクラブで佐々木さん他、何か自衛隊官っぽい人達とランニングマシーンで自分を宥めるアキラと走りつつ、呟くのだった。なんでやろなあ?
「用件は何となく想像付きますけど・・・」
「件の女性探索者を自衛隊も捜索しているのだが見つからないんだ。流石に時間との勝負だからね。知恵を貸してほしい」
一学生に頼るのはどうかと?と思ったが、実際に実績出してるから、チクショウ!
「まずは地図をお願いします。それと地図には探した場所の印も」
「了解した」
佐々木さんが指示すると、いつもの事務員さんが下がって自衛隊の隊員さんも付いて行く。しかし、まあ、おそらくだが、ここに居る全員が感じているだろう。救出は出来ても遅い・・・と。いや、自分が警告出して多分、状況はマシだろうが、それでも遅いだろう。
「なるほど、フィールドダンジョンかあ」
ダンジョン内部は基本的に人工物の様なダンジョン内部以外にもフィールドと呼ばれる階層がある。中でも件の探索者が行方不明になったのは壁超えの階層と呼ばれる所で、人工ダンジョンからフィールドが山岳地帯に変わり、探索は勿論、捜索も大変になる階層だそうだ。幸いなのは、ダンジョン構造、つまり道や階段の在処が変わらないと言う事であろうか。これで変わるダンジョンだったら、即捜索は打ち切られていただろう。
「捜索は主に道がある場所と行方不明になった周辺ですか・・・」
「うむ、範囲は徐々に広げてはいるが・・・」
自衛隊の隊長さんらしき人が頷く。まあ、自分でもまずはそうするわ。こうなると・・・
「ゴブリンクランの住処を探すしかありませんね」
クラン、つまり集団の巣に突撃するしかないと言う事である。これには佐々木さんも含めて全員が難しい顔をする。集団戦、ゲームでは敵も見えているので切り抜けれる所だが、現実ではこれほど恐ろしい状況は無い。試験をソロで受けた者が後程、ソロで受けた者同士のパーティを推奨される一番の原因がコレである。ウルフなんか数で出てくるので、一人だと、うん、未来は見えたと思う。
「クラン、つまり集団の壊滅作戦か・・・」
まあ、こうなるのだが、こうなると問題あるのが・・・
「乱暴されているのを前提に助けるなら、すぐさま助けに向かわなければならない」
まあ、貞操は諦めるとしても、奴等が楽しんでる前提なら生きてはいるだろう。が、あまりに遅くなるとまずい。
「あまりこういうのはやりたくありませんが・・・一つ案があります」
<<自衛隊 ダンジョン探索隊長 一ノ瀬 斎報告書>>
結論から言うと、モンスター誘拐事件における救出は成功した。
作戦自体はシンプルなもので、我が自衛隊から女性隊員を今の民間委託らしい装備をさせ、囮に。強襲されたらスナイパー班で数匹残して狙撃、逃げた方向に救出班が追跡。スナイパー班は身を隠したまま安全が確保され次第、救出班周辺を警戒しながら追跡。見つけたクランを殲滅。件の要救助者が見つからなければ、最初に戻るの繰り返しを行う。
救出班から驚くべき報告を受ける。ゴブリンクランが村のような場を形成、その広場にて件の女性探索者を発見。婦女暴行の痕跡多数あり
救出作戦敢行、突入部隊とスナイパー部隊を分けて行動。救出対象を人質に取ろうとしたのでスナイパー班が隙を見て狙撃、対象全員救出
殲滅作戦に移行、救出班突撃前の偵察で状況とゴブリン達の行動範囲を確認。突撃、包囲殲滅に成功す。ホブゴブリン、ゴブリンキング他、中に魔法を使う個体も居た為、今後の救出作戦においても注意が必要
帰還、救出対象は錯乱状態のため秘密裏に彼のアドバイス通りに精神病院へ。両親、親族への連絡は工作員による接触のみとし、マスコミにはまだ未解決であると発表。折を見て救出成功会見を行う予定
総評、救出班が突入中に強い眠気を感じた事から魔法使いの個体が睡眠か精神に関連する魔法を使用したとみる。対応としてナイフで身を傷つけて、睡眠を打破。件の集団は人質を取れば、こちらは迂闊に手を出せないと言う知恵も確認。今後、しばらくは更なる調査が必要とみる
追記、彼の要望通りの事案を早急に行うが最良と判断する
<<自衛隊 医療班 カウセリング担当報告>>
錯乱していた女性は幸い受精無し。サンプリングの精液からもゴブリンとの性的接触に受精の可能性は無いと医療班から判断
カウセリングを行い1週間経過。事件の状況は別紙にて報告。初期の錯乱よりは落ち着いた様子。心理深層にトラウマがある為、正式にPTSDと診断
今後の事を考え、被害者の影武者を自衛隊から派遣。影武者が会見や取材に参加した後、被害者とその家族はゆっくりとした静養が必要と診断する
追記、医療班も彼の要望通りの事案を出来得る限り早く行う事が最良と判断する
自衛隊員は狙われなくても、民間委託が狙われる可能性の方が高いですからね。勿論、自衛隊員も油断すればこうなると教訓にもなったというお話




