第9話 ダンジョン事件の始まりの日
「わ~お・・・」
眠い目を擦らずとも目が覚めるという経験をしたのはこの日が初めてに違いない。朝、夏休みのいつもならこんな時間には起きてはいない、もしくは二度寝しているはずの妹が唐突に部屋に入って来たかと思うと、部屋のテレビを付けて見ろと言った結果である。おいおいおいおいと頭を抱えるしかない。
『マジックバッグ大量出現』
ニュースを要約するとこうである。これまで、魔法は持ち出せないが、アイテム類は持ち出せていた。その為、これまでのとてつもない金額が付いたのはポーション類である。理由として、ポーション瓶がガラスである事、大量に持ち出すには重量がある事、そして、何より、人が持てる量は限りがあると言う事・・・だった。それ故に、前の生放送でのマジックバッグの出現もニュースだったのだが、コレは更に、頭が痛いニュースとして出回ってしまった。
「これは詳細調べないと、母さんにサンドイッチ作ってもらってくれ。急ぎ、学校に行くわ」
「うん!」
流石に最近は危険を理解し始めた楓が行動を起こす。成長してくれて嬉しい限りである。まあ、本当に危険だからな。急ごう。
「はい、コレ」
着替えて、下で洗面も済ませると母さんが紙袋を渡してくれる。中にはサンドイッチと小さな牛乳パック、それと蜜柑が入っている。有り難い。
「父さんは?」
「同じく、あのニュース見て大慌てで出勤よ。気を付けてね」
ああ、そう言えば、父さんの会社も探索者採用の枠を取り始めたんだっけ、さもありなん。自分が気付いてるなら、父さんも気付くよな。さて、どうなるやら。
「おはようございます」
「おう、トオル、おはよう」
「来たか。ニュースは見たか?」
夏休み特有のガランとした教室内でアキラと挨拶した後の先生の言葉に頷く。あれはもうニュースと言うより、政府からの警告の様なものだ。恐らく、政府も隠蔽に奔走しようとしたのだろう。だが、恐らくは政府も大量に手に入れてしまった。何故そんな事が分かるかって?簡単だ。今、最も探索者と言う枠の中で最前線は政府の部隊だからである。これは他国でも変わらないだろう。
「政府が番組を止めないほど見つかった。これしか考えられませんね」
「同感だ」
自分の言葉に先生も溜め息をつく。16~18歳までは制限の表層で見つかったと言うのは聞かないので安心かもしれない。だが・・・
「居ますか?」
「居る。いや、夏休み中に確実に出るだろうな」
3人で頷いていると、校長先生が入ってくる。本当に慌てて出てきたのだろう。服の袖などを直しつつ、頷いて、教壇に椅子を持ってきて座る。
「どうやら、我々は同じ感想を抱いたようだね」
「そのようです」
校長先生と先生が頷き合う。我々と言う辺りがもうねえ。気づいてる人も多いけど、逃げれない人も多いんだろうな。
「父は気付いたようです、アキラ、そっちは?」
「最初はピンと来なかったようだが、しばらくしたら、電話しに行ったから気づいたと思う。ちなみに爺ちゃんからも電話があったわ、安否系の」
『Oh・・・』
校長、先生、自分、思わずシンクロである。こりゃ、気付いてる人多いって事だ。どういう事かって?
「表層組、所謂、学生組はドロップで手に入れるのは難しいかもしれない」
「ああ、ドロップで手に入れるのは難しいから、無謀な事はしないかもしれない。だが・・・」
そう、自分の言葉に対するアキラのだがの先はこの場に居る誰もが分かる。学生組は手に入らないから安心と思うかもしれない。しかし、何事にも抜け道はある。その方法とは・・・・・・
「親、あるいは血縁、あるいはコネで手に入れるならグレーだけどセーフなんだよな」
『 そ れ な 』
自分の言葉に全員が頭を抱えて頷く。購入、そういう事である。ドロップした集まり、本人、あるいは国家が定める探索者事業から買い求めれば未成年でもゲット!と言う訳である。そして、その手でも最悪な事がある、それが・・・・・・
「後、ニュースの情報信じるならば、もうかなりの人数が対策に走ってるんでしょうけど、大量に見つかったと言う事は強奪の可能性がグンと上がる訳で」
「それなあ・・・」
ニュースによれば見つかった数はかなりある、深層に潜れるパーティであればあるほどだ。現在最高到達回数は20階層と言われているが、件のバッグが見つかるのは10階層辺りからと言う事、しかも、低階層の敵を無視する前提ならばギリギリ日帰りできる距離かもしれないというのが更にアレである。自分の言葉に校長先生も頭を抱えている。情報が出回り始めたのは今朝だが、ニュースが流れた瞬間からしばらく思考停止からのドタバタだったんだろうな。
「学校としては事件を起こした生徒及び関係者には最悪、免許の没収も考えている」
デスヨネとしか言いようがない。というか、そうしないと本当にまずい。ダンジョンは治外法権ではあるが、学校の生徒は学校が親御さんから子供を預かる場に居る訳だからな、正しい判断とも言える。ただ、そうなると・・・
「退学届け、何枚出ますかね?」
「「ゴフッ!職員会議逝ってきます」」
先生、字が違う!と言いたいが、ある意味間違ってないニュアンスだったので見送る。どういう事かって、表層は今までは儲けが少なかった。何故なら、どれだけ採集、討伐しても素材の重さのせいで、儲けは雀の涙と言えたからだ。しかし、この先は違う。
「知り合いが文字通り消える事態とか勘弁だよなあ」
「それなあ」
件のアイテムが手に入った学生組がどんな末路を辿るか予想出来てしまった自分達は思わず深い溜め息をつくのだった。
ダンジョンのドロップが一体いつから一定でバッグはレア枠と思っていた?となるお話。ここから少しづつ、ダンジョンについて伏線張っております




