表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

処刑係

作者: 雉白書屋

 絞首刑。それは刑場の隣の部屋。刑務官が三人横並びになり、壁に取り付けられた三つのボタンを同時に押すことにより、刑が執行される。

 そう、三つ。そのうちの二つはダミーである。本物のボタン。その一つが押されることにより、踏板が外れ……。

 と、ダミーが必要な理由。それはボタンを押す刑務官の心の負担を減らすためにある。しかし、人ひとりの命を結果、奪うという行為に対し、どの程度効果があるのか。

 押したくない。そう思うことは仕方がないのである。



「……時間だ。三、二、一、零で押すぞ。いいな?」

「はい」

「はい」


「三、二、一……いや、ちょっと待て。お前、それなんだ?」


「はい? なんでしょうか」


「いや、なんでもなにも――」

「ニャー」


「猫に押させようとしてんじゃねえよ!」


「気づきましたか……」


「当然だよ! 逃がせ逃がせ! かわいそうだろうが!」


「でも、自分のボタンが当たりだったかと思うと……」


「……皆まで言うな。気持ちはわかる。そう、気持ちは同じなんだ。俺たち三人ともな。でも、だからこそだ。ズルしようなんてするな。あとでつらくなったら、いくらでも俺が話を聞いてやる」


「せ、先輩……」


「フッ、じゃあ……もう一度行くぞ。三、二……ちょっといいかな。お前」


「はい? 自分ですか?」


「その手にあるのは――」

『ワンワン!』


「ロボット犬に押させようとするなぁ!」


「よくお気づきで……でも、人間がやりたくないことをロボットにやらせることに何か問題があるのでしょうか。これは言わばモデルケース。いずれ、ロボットが人間を処刑する未来がくるかもしれませんよ」


「それちょっと……まあ、うん……いや、でも今、先取りしなくていいんだ。はなしてやれ。まったく、じゃあやるぞ三、二、一」


「いや、ちょっと先輩!」


「な、なんだよ」


「なんだよ、じゃないでしょう! その人、誰ですか!」


「あ、どうもー。息子がいつもお世話になってますぅ」


「いや、駄目でしょ! お母さんに押させちゃあ!」


「でも、押したくないものは押したくないし……」


「わかりますけど、先輩なんだからちゃんとしなきゃ駄目でしょう……それに裁判長が決めた事なんですから、あとで怒られちゃいますよ」


「でもなぁ……」


「そうですよ。そもそも、あの男が悪いんですから罪悪感とか持たなくていいんですよ。さ、やってしまいましょう」


「ああ、わかったよ……じゃあ、お母さんはあっち行ってて」


「あら、いいの? 大丈夫?」


「いいから早く! たくっ……行くぞ。三……なあ、ちょっといいか?」

「なんですか?」

「そろそろ覚悟、決めましょうよ」


「いや、よく考えたら我々がこんな嫌な役をすることないんじゃないか?」

「え?」

「いや、そうですけど、でも先輩だって、いいカッコしたくて処刑係に立候補したんでしょ?」


「ま、それはいいとしてだな。ここには他にも凶悪犯が山ほどいる。そいつら同士にやらせればいいじゃないか」

「あぁ、あったまいいー」

「じゃあ、さっそく総理にそう言いましょうか。よーし」


「だろ? あ、俺の案だからな! 俺が言う! 電話をよこせ!」

「いや、僕が言いますよ!」

「あ、二人とも! はなせ! 総理と女子たちにカッコつける気だな!」

 


 少子高齢化。それは解決の目途は立たず、より顕著なものになった。それも老獪な政治家たちが国の未来よりも自分たちの利益のために、かじ取りした結果である。

 船は嵐の中を突き進んだがそんなことは知らない。甲板には若者を立たせ自分は船室でぬくぬくと。寿命を迎え、穏やかに安らかに、つまり逃げ切った。

 経済は悪化し、結婚率は下がり子供の数は減るばかり。それでも自分たちを支持する同年代、老人の財布だけは守り、若者に身に覚えのないツケを払わせる。

 ……しかし、若者も黙ってはいなかった。靴を舐める想いで耐え忍び、政界の重鎮が没し、勃発した権力争いの最中、口八丁手八丁、脅し、賄賂、大衆を味方にと、あらゆる手を尽くし、ついに子供保護法案が制定された。

 子供は国の宝。天然記念物。電車バスなど交通機関だけでなくあらゆる優先権を有し、やがて子供らは「僕らの方が大事な存在で偉いのに、老人が偉い地位にいるのはおかしい」と、その地位までも奪い、子供裁判長、子供総理など続々と誕生したのだ。

 

 今、刑場にて震えながら三人の会話に耳を澄ますその老人のように死刑囚の大半は老人である。


「てかさー、この死刑方法っていうのも古いんじゃない?」

「あー、それ思った。老人が決めたやつでしょこれも」

「そそ、旧時代旧時代」


「あいつもあれでしょ? 車で俺ら子供を撥ねて、怪我をさせたジジイでしょ?」

「昔からよくあるやつね。クソ老害」

「最近は減ったけどねー。まああれかもね、見せしめ。もっとキッツイ刑の方が老人たちも気を引き締めるんじゃない?」


「ああ、それいいね! じゃあそれも総理に」

「僕がする!」

「だから僕が!」


 最近では、権力の椅子に長く座るために子供の成長を遅らせる薬が開発され、密かに使われているとか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ