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今日も僕は静かに眠る

作者: 名奈瀬優作

皆さんどうも。


しがない小説家です。


この短編は某小説投稿サイトにて、掲載していたものになります。

初稿が2018年7月末とは、あのときからもう5年も経つと思うと、あの日を

懐かしく思うものです。


さて、この短編をお手に取って頂いている、そこのあなた。


家族はお好きですか。


家族といえども、それに対してさまざまな感情があるものです。


今なお家族と生活を共にしている、または何かしらの事情で離れてしまっている。

誰しも一度は、この短編を読んで、自分自身を振り返って、今一度ご家族と向き合って頂きたく思います。


それではどうぞ。

ゆっくりと読んでくださいませ……

 吾輩はガトである。名前はまだない。


 あ、間違えた。


 吾輩は猫である。

 名前はまだない。


 すでにガトっていう名前があるんだけどね、へへ……


 由来は、どこかの国の言葉の『gat(ガット)』、で少しいじって『Gatto(ガト)』。


 猫って意味だ。


 初めて僕がこの意味を理解したとき、ご主人のセンスの無さに辟易とした。だって猫だよ!? ありえないニャ!!


 そもそも僕は猫じゃニャい。


 正確には猫()()()かな。


 僕はとある大手製薬会社の社長の家で飼われていたニャ。ご家族みんなに可愛がられ、自慢の純白の毛並みも、くすんだりすることなく健康に育った。


 社長のご子息とはよく遊んだりしてた。それはもう幸せな毎日だったニャ。


 そんなある日、急病で倒れてしまった。なんだかよくわからない珍しい病気みたい。治療法はなく、どんどん衰弱していった。


 そんななか、新薬の試作品ができた。すぐに投与された。


 だけど、効果はなかった。水も自力で飲めないほど弱りきり、ついに限界がきた。


 僕はゆっくりと目を閉じた。薄れゆく意識の中で見た、僕を必死に揺すり起こそうとするご主人(以前の)の悲しそうな顔が今でも忘れられない。


 僕は死んだ。


 ……はずだった。


 雨の中、僕は外に打ち捨てられていた。目を覚まし、あたりを見渡す。知らない場所。わけがわからず驚愕する。


 それよりも驚いたのが、不治の病が完治していた。薬が遅れて効いたみたいニャ。


 その代償に自慢の純白が、ところどころ深緑色に薄汚れていた。耳、足、しっぽの先が緑色。そしてしっぽが根元で二股に分かれていた。


 明らかに猫のなり損ない。


 それからは辛かった……。


 助けを乞うにも、僕を気味悪がって誰も近づかない。なかには、暴言や物を投げつけてくる心無い人たちもいた。


 それでもなんとか、ご主人に会いたい一心で必死に生き延びた。外敵から逃げ続け、泥をすすり、食べ物をあさる。生きるためならなんでもした。


 ろくにエサにもありつけず、身も心も疲弊していき、ついにご主人に会うのも諦めた。



ーーーーー『もう、どうでもいい』ーーーー



 その日僕は、何もせず公園の片隅に転がっていた。


 ご主人と同じぐらいの年の子達だろうか。僕に近づいてきた。珍しいものでも見るよう、僕に触れてきた。


 僕にはもう、何もする体力も気力もない。生きる意味も意思もなにも。


 抵抗しないのをいいことに、さんざんオモチャにされた。土に身体を埋められ、的当てのように僕の頭に向かって物を投げてくる。


 小石が頭に当たる。


 痛い……。なかなかやめてくれない。


 抵抗しようにも、身体は埋められていて動くことができない。そもそもそんなことをする意思もない。もうそんなことはどうでもいい。


 この姿ではもう、どうせご主人は僕に会ってはくれない……。





 いつのまにか少年達はいなくなっていた。かわりに目の前に別の人が立っている。


 そのひとは、死んだような淀んだ目つきで僕を見下ろしている。僕はもう死んでいて、ついにお迎えが来たのかと思った。ちょびっとだけ怖いと思った。


 もう生きることは諦めたはずなのに。


 なにされるんだろう……。


 少年は無言で、周りの土を掘り返して僕を引き出す。僕を土から掘り出し、彼の目線の位置まで持ち上げる。


 僕の薄汚れた姿、カタチを一瞥する。その少年の視線に耐えられず俯いてしまう。



 醜い、そう言われると

 汚い、そう罵られると

 バケモノだと


 お前は生きてちゃいけないんだと



 今までそうされてきた。この姿ではそうされるのは当然だと思っていた。だけどこの人はそんなことはせず、そのまま、僕を腕に抱き上げてくれた。


 目をつぶっていた僕は、そのときなにをされたのか全くわからなかった。次第に僕の心身にゆっくりと伝わってくる優しいぬくもり。人肌のあたたかさ。ながらく忘れていたモノ。もう手に入らないと諦めていた。


 嬉しさのあまり、僕は喉をゴロゴロ鳴らす。


「昔からな、猫は長生きすると猫又って呼ばれて神として崇められたり、妖怪として恐れられたりするらしい。」


 少年は誰に語るでもなく独りごちる。


「勝手だよな。ただ長生きしただけで、尾が増えただけで、猫じゃなくなるんだぜ? 神ならいい、だが妖怪として退治されちまうこともあるんだ。お前さんもひでぇ目にあったな。」


 目は腐ってるくせに、僕に向ける表情はどこか優しい。土を払うように僕の顔を優しく撫でてくれる。


 もし僕がヒトなら、嬉しさのあまり、むせび泣いて叫んでいただろう。


 だけど僕はヒトでも猫でもない、生き物のなれ損ない。僕は、ただただ小さく鳴くことしかできなかった。





 そのときに出会ったのが今のご主人。


 大好きな僕の恩人。


 ガラの悪い目つきと、不貞腐れたような態度のせいで、ぼっちなんかになっちゃってるけど、僕は知っている。


 本当はただ傷つきやすくて、辛いことがあって、自分のことは何もかも諦めちゃってて、そのくせ困っている人がいると手を差し伸べてしまう優しい人だって。


 僕が膝の上に乗ると、ものすごく嫌そうな顔するくせに、悪態を吐くくせに、それでも優しい顔して僕の体を撫でてくれる。


 いつも僕は嬉しくて、喉をゴロゴロ鳴らす。


 今ならわかる。ご主人はあえて僕にこの名をつけてくれたんだ。僕のことを猫だと言ってくれているんだ。だから今では名前もこの姿も結構気に入っている。


 そんなご主人も今ではいい人に巡り会えて、子供もいる。菩薩様のような、ご主人には勿体ないぐらいの美人さんニャ。


 ご主人も僕もすっかり年をとった。


 僕の自慢の緑もすっかり色褪せて、痩せ細ってしまっている。最近ごはんもあまり食べてない。


 ときどき、ものすごい睡魔に襲われて意識が飛ぶことがある。猫の倍は生きたけど、さすがにもう長くはないみたいニャ。


 でもね、全然怖くはない。

 愛する人たちがそばにいてくれるから。


 今日なんてご主人、仕事そっちのけで僕につきっきりニャ。


 嬉しいけど、そんな不安そうな顔をしないで欲しい。安心して眠れやしない。



 仕方ないニャあああ……。



 動かない体を必死に起こそうとする。ヤバイ、思ったより力が入らない。意識が飛びそう……。


「やめてくれ! 動かないで、たのむから…………」


 ご主人、今にも泣き出しそう。でも、そんな顔で、そんなこと言われたら、僕はますます動かないといけない。なんとか気力だけで立ち上がる。


 動けよ! いつももらってばかりで、きちんと返せたモノなんてあったのかよ。こういう時ぐらいご主人のために動いてみせろよ僕の身体!!



ーーーーあのとき、ご主人が与えてくれた温もり。今度は僕があげる番ーーーー



 おぼつかない足でなんとか、ご主人の膝のうえに乗ることができた。でももう体力も尽きた。さすがにもう眠い。


 ふわぁっと欠伸をかく。


 僕はここで静かに眠る。ゆっくり目を閉じる。あのときと同じ感覚。不安と喪失感。それでも不思議と幸せな気持ちで満たされている。



ーーーーーーさようなら、ご主人ーーーーーー



 僕の体に冷たくも温かい雫が、しとしとと何度も当たる。


「さよならじゃねーよバカが。またな、だろ。いままでありがとうな。ゆっくりおやすみ。」


 ご主人の言葉に思わずドキッとしてしまう。僕の声が聞こえたのだろうか。いや、そんなはずはない。でももしそうならちょっぴり嬉しい。


 ふふ、相変わらずだなあ。意外とロマンチックなところがある。そういうところ、昔から変わらない。


 そうだね。また会えるはず。僕は神でも猫又でも無いけど、神様にお祈りぐらいならできるはず。


 どうか神さま、お願いします。



ーーーまた大好きな人たちに会えますようにーーー





 ふと気がつくと、誰もいない道端に独り、佇んでいる。

 さっきまでいたお姉ちゃんもいない。


 風で飛んでいってしまった麦わら帽を追いかけていたら、はぐれてしまった。


 不安で怖くて寂しくて、ただ塞ぎこんで泣いてしまう。俯いていると、私の影に別の大きな影がさす。


 目の前に人が立っているのに気がつく。見上げてみると、1人の少年が私のことを見下ろして、手を差し伸べてくれる。


 


 その目、その優しい表情、以前にどこかでーーーーーーーー




fin



いかがだったでしょうか


私にはかつて大切な家族がいました。

いましたという表現は適切ではありませんね……。


家族といえども、全員に同じ気持ちが向くわけではありません。


一緒に住み、時間を共にし、愛着も湧けば

一緒に住んでいるにも関わらず、会話もなく、他人当然に過ごすことも

ほとんど生活を共にせず、愛もないことも

親や兄弟、姉妹、さまざまな思いがあるかと思います。


その中で一人、大好きな子がいました。その子の性格を例えるならば、本当に猫らしい猫でした。


そのような性格故に、この短編のキャラクターが生まれたのかもしれませんね……。


私はそのとき、仕事の都合で家庭から離れて、独りで暮らしていましたが、

その子の死期を悟った時、時間を作っては、何度も家庭に顔を出していました。


死は突然やってくるものです。


仕事が忙しく、そのときの私は精神的にも疲弊していました。


長い時間をあけてしまい、しばらくして実家へと帰省したとき


社会人になり、ならなくとも独り立ちし、家族となかなか会えない、会話しない

そんな状況になってしまったそこのあなた。


もしまだ少しでも、家族を大切に思う気持ちが残っているのなら、

その家族のために時間をつくって、触れ合って、伝え合って欲しいと思います。


私はもう、その大切な人には会えません。

そのことに後悔はありませんが、それでもときたま思うのです。


もう少し、触れ合っておけば、時間を作っておけば……と


あなたにはそのような後悔の念を起こしては欲しくないのです。


それでは、また

再びどこかで出会えることをーーー

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