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第99話 未来への最後のピース

「なーんだ、アニキが来たのか……顔ぐらい見たかったよ、よくわかないけど凄い薬貰ったし、礼もしなきゃな」


 かくして次の日、病室でベッドに座った状態のヴェノムが朝食を食べ終わってそう言った。


「……お前な、アレはドラゴンパウダーだぞ、龍化の秘宝とも呼ばれる代物なんだが、お前の兄弟子は何者なんだ?」

「えー知らねえよ、なんか薬や経営しててハーレムっぽい感じだけどさ……あーでも新しく雇った女の子がサボってばかりだって言ってたかな」

「龍を雇った……のか?」

「は? お前何言ってんの、女の子だぞ? 龍ではないだろ」

「あ、ああ……そうだよな。うん、そうだ……」

「……ガンビット、お前疲れてる?」


 かみ合わない会話のあと、はあ、とため息をついたのはエイルアース。


「アレはアレで変な縁をしておるからのう、つくづく何故か儂の弟子は妙な運命のことが多い。儂のように孤独につつましく暮らす身からは縁遠いわ」

「……お酒が友達のエルフは話が違うんじゃないですかね」

「黙れバカ弟子」

「縁……か。しかしそれを言うなら妾も悪魔ゆえなあ」


 そう言ったのは、コロラドの体だった。


「……お前、これからどうすんの?」

「おお、《《すまぬ》》」


 ぽん、とコロラドとマサラが分離する。


「どうする、かな……気も晴れてしまって……やりたいことがない。どこかの集落で崇められるのも一度味わったしな……」

「ならさあ、手伝って欲しい事があるんだけど……特にガンビット、ちょっと頼んで良いか?」

「構わんが……なんだ?」

「いや、お前ら完全に一個忘れてる事があるだろ」


 ――その日の晩、退院したヴェノム達は再びサキュバスのダンジョンへ向かう。


「そう言えばすっかり忘れておったのう」

「わはははは、そう言えばこれがあったな!」


 そして彼らは、コクリがいた部屋の財宝を集めていた。

 ざくざくと取り放題の金貨は誰もが見覚えのないモノだったが、金であれば十分に価値はある。ここではない大陸に金貨を使う場所があるのか、はたまたコクリが滅ぼしたどこかの集落で使われていたかは分からないが、金は金。一生暮らせるだけの金が、そこにあった。


「おかえりなさいませ、ダンジョンマスター様♡」

「お待ちしておりました♪ ボクらに何をご所望ですか?」

「オレ達に、何でもお申し付けください♡」


 そして金貨の回収が終わる頃、このダンジョンにいたサキュバス達――ソドム、ヴィルデフラウ、トラソルテオトルが、新たなダンジョンマスターであるヴェノムにかしずいていたが、彼女たちの使い道はすでにヴェノム達が決めていた。


「お前らはこのダンジョンを管理してくれ。今ここにいる俺たち以外が来たらサキュバスとして迎撃して良い。お前らは俺達全員が死ぬまで財宝の番人をやってほしいんだが、頼めるか?」

「かしこまりました♡」

「流石、新しいダンジョンマスター様は太っ腹です♡」

「他は好きにして良いのですか?」

「……カキョムを襲うのは禁止な」

「はーい、了解です♪ あとヴェノム様、これを拾ったんですけど……」

「?」


 渡されたのは、赤い透明な勾玉だった。


「私達が管理しましょうか? それともヴェノム様達が?」

「待って、そもそもコレ何?」

「何って、決まってるじゃないですか……こしょこしょ」


 トラソルテオトルに耳打ちされ、ヴェノムの表情が変わる。


「へ?」

「せっかくですし、ここで出しちゃいましょうよ」

「ちょ、待っ!!」


 命令は間に合わず、魔力の込められた勾玉は中身を開放する。


「……こ、殺すなら殺せ……!」


 出てきたのは、九尾の悪魔。

 ――ただし、その姿は幼児化していた。


「お前、生きてたのか!」

「そのとおりよ。さぁ勝者の特権に口出しはせぬ、あれを好きなように嬲るが良い!」

「……いや、んなことしないって。じゃあお前、《《俺たちと来いよ》》」

「それしか無いですね」

「ったく、変わり者め」

「……えっ?」


 コクリは首を傾げ、ヴェノムは悪魔に手を伸ばす。周りでサキュバス達も、ガンビットとエイルアースも驚いたが、すぐに呆れた笑みを浮かべた。


「正気か? あれは貴様らを……いや、この世界を奪おうとしたんだぞ」

「でも今は出来ない。そうだろ?」

「なっ」

「どうせなら監視できるのが一番ですしね」

「諦めろコクリ。こ奴らはこういう奴らだ……妾もそれでほだされた」

「仲良くなった、って言いましょうよ」

「う、うるさい!」


 そんなやり取りを見て、幼くなったコクリが呆けた顔で口を開く。


「殺さない……のか?」

「そんなことしてなんになるんだよ、ほらコレ持ってくれ」


 投げられた金貨の袋を受け取り、それでもまだ九尾の悪魔は動けない。


「生きてて、良いのか……? 貴様らは、本当にそう思うのか?」

「何言ってるんですか、当たり前でしょ? ……それともマサラ、何か言いたいこととかありますか?」

「……いや。何も無いな」

「お主ら……ははっ、言葉も無いのじゃ」

「そん、な……こんなことが――!」


 ――この日初めて、九尾の悪魔が泣いた。


 それは産まれて初めて魅了の魔法を用いずに居場所を与えられた嬉し泣きだったのだけれども、コクリにはその感動が言葉にならない。ただひたすらに涙と感情だけが、彼女の身体を突き動かしていた。


 ――愛される前に魅了してしまう、サキュバスの女王。


 彼女は産まれて初めてただひたすらに、子どものように泣きじゃくっていた。

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