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第89話 敵の生態とその弱点

「……様子がおかしかったのは、はじめからじゃった。悪魔と分離したと聞いて、まず儂とヴェノムが気にしたのがあの悪魔……マサラが暴れ回ることじゃったからな」


 静まり返ったヴェノムの小屋で、エイルアースは語る。


「しかし依代よりしろだったコロラドは言ったのじゃ。『あの悪魔は自由になることを恐れているから心配ない』――とな」

「自由になることを、恐れている?」


 どういう意味だ? と言わんばかりにガンビットが呟いた。


「お主のような破天荒にはわかるまいよ。しかし一般的に言えば、そうさせるのはまず間違いなく『《《恐怖》》』じゃ。つまりあの悪魔は、《《何かを恐れてわざと自由になっていなかった》》。それが魔物の光線を受けたショックで、たまたま分離したのじゃろう」

「エイルアースさん、ということはもしかして、あの悪魔が恐れていたのは……」

「間違いなく、今回見た『アレ』じゃろうな。コクリとか言ったか、マサラと同じ獣の悪魔じゃが……その力は計り知れん」


 吐息で火の鳥を消し、森を笑いながら一つ消す。

 そんな文字通りの悪魔――あるいは化け物に、勝てる要素などあるのだろうか?


「あ……そうか、そういうことか。質問を変えるよ、エイルアースさん」


 その時閃いたのは、サクラだった。


「ん?」

「あの子たちを連れ戻せるかどうかじゃない。あの子たちは《《どうやってあの悪魔に勝つつもりで》》、敵陣に乗り込んだんだい?」

「っ……」



 まるで頭痛に襲われたかのように、額を押さえるエイルアース。


「……それを説明するには、これをお主らに読んでもらう必要があるな。言っておくがこれは儂の作ったものではない。アイツらがいつの間にかせっせと作って、確認もせず突っ走った根拠じゃ。……まあ、一応の整合性はあるがな」


 ヴェノムの机から知っていたかのように紙の束を取り出して、一部ずつ全員に投げて渡した。


「……これは」

「本当に……《《こう》》なのですか?」


 全員の視線が向いたのは、修道服を着たサレナ。

 その紙の一番上には、


 ――悪魔の生態に関する研究レポート


 そう、書いてあった。


「これを……ヴェノムさんとコロラドさんが書いたのですか?」


 尋ねながらも、サレナの目はレポートから離れなかった。

 彼女の思う神の概念は一般的では無いものの、あくまで彼女は聖職者。

 それ故に過去に見たあらゆる悪魔の文献と比べてみても、そのレポートは十分に体裁は満たしていた。帝都には文献も事欠かない……おそらくは、復興の合間に少しずつ作成していたのだろう。


「『悪魔は他者に取り憑き、一つの肉体に同居することができる……しかし睡眠は肉体が精神を寝かせるため、実は睡眠薬や催眠魔法は有効……眠る依代を動かす場合は外側から力を加える必要があるため……』すごいです、新説もある……実証できれば、いえ、少なくともマサラさんは実証できるからこれだけでも悪魔の研究は飛躍的に……」

「それで、どうじゃ? お主の目から見て、これは信用できる代物か?」

「はい、少なくとも私の知識との相違はありません。新説も十分に現状の研究から先のデータでなりたっています」

「……そうか。なら光明は見えたな。お主ら、最後の一枚を見てくれ」


 その言葉に、全員が同じページを開く。

 するとそこにあったのは、


「サキュバスの……生態……?」

「調べていたのか、あいつは……しかしいつから何故……ああそうか、あいつらは配信者じゃないか!

 よく考えてみればサキュバスの配信も、サキュバス達が集めている魔力の量にも危機感を抱くきっかけはいくらでもあったのか……!」


 得心に叫ぶガンビットだったが、そもそもヴェノムもコロラドも、オブーナンの件では一番間近で『配信によって魔力を集め、それにより大規模な魔法を行使する』という行為を目の当たりにしていたのだ。

 それに加えて、一時期は当たり前のように配信一回、一晩で数億の再生数を稼いでいたサキュバス達。そして、超☆配信者会議のあった帝都でも暗躍していたことを踏まえれば、むしろ魔力を集めていたサキュバスを警戒しないほうが無理というものだったのだろう。


「魔物だから魔力を食うくらいだと思っていたが……まさか、あの悪魔は『魔界に封印されていた』とでも言うのか?」

「そのようだね……このレポートにも、『悪魔は悪魔を封印する方法を理解している。それは当然封印されることへの対策でもあり、また悪魔同士で封印という手段を用いることも少なくない』と書かれている……マサラから聞いたんじゃないかな。そしてこのレポートを僕らからすら隠していたのも、おそらくはサキュバスが僕らに化けられると知っていたからだろう。現に、この部屋までスカーレットに化けたサキュバスが侵入している……」

「では……やはりはっきりしたな。あ奴らは、おそらく《《この方法》》で内部からサキュバスの集団を崩す気じゃ。みんな、1ページ戻ってくれ」

「っ……こんな……いくらなんでも無茶が過ぎます」


 そこに書いてあったのは、『悪魔を大人しくする方法』。悪魔には『格付け』の習性があり、一度自分が格上だと認識した場合、決してそれ以降格下に従わない――ただし一つだけ例外があり、


 ――格下と認識した相手から下剋上された場合、二度と逆らえなくなるという性質を持つ


 と書かれていた。


「おいおい、じゃあまさか……」

「《《一度わざとサキュバスの下について》》、《《そこから見返すつもり》》だと……!?」

「……その、ようじゃな」


 蛮勇を通り越して、無謀すぎる企み。

 絶句するしか無い彼らの元へ、その声は届いた。


「話は聞かせてもらいました! 僕はヴェノムさんを助けに行きます!」


 バン! と玄関の扉を勢いよく開けて、現れたのは銀色の鎧に身を包んだジャックと、その隣でガントレットを備えたモックス、そして赤青黄、3色の魔珠を備えた杖を手にしたマリン。


「皆さん!」

「おまたせしました、サレナさん! もう大丈夫、僕は……失礼、僕らは今からヴェノムさんを救出に向かいます! サキュバスなら、万が一ヴェノムさん達が失敗しても多少の猶予は生まれるはずですから!」

「俺もヴェノムさん達にはまるで恩を返せていない。あなた達とサレナには悪いが、これはもう『勧善懲悪ノブレス・オブリージュ』の決定事項だ」

「ウチの大将をこんなにしたオトシマエもまだ。だから、絶対に償わせる」

「サレナさん、行きましょう!」


 その差し伸べられた手を、


「おいおい、勝手に決めてくれるな」


 ガンビットが、低い声で制した。


「ウチの不手際で一度断った件だ。しかしダンジョンも一段落付いた。俺もこの恥、雪がせてもらいたい」

「儂もバカ弟子の迎えには行かねばな。サクラ、頼めるか?」

「……今回の件は僕の判断ミスでもあります。すぐにダンジョン攻略及びヴェノム君、コロラドさん、マサラさんの3名救出のクエストを作成しましょう」


 話はまとまり、全員の目に意志が宿る。

 悪魔に折られた精神は、一縷いちるの希望によって蘇っていた。


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