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第43話 女騎士の心は折れて、それでも友情は生まれる

「……ふう、疲れた」


 ガンビットは24の宝石をそでから収めて、紐に通して首輪に戻す。

 電撃を食らって倒れたセクィントに近づくか迷っているコロラドだったが、そこはヴェノムが代わりに近づいて縄で縛った。

 外からは歓声が聞こえ、どうやらムカデの駆除くじょは終わったらしい。


「久々に見たな、お前の『天穿つ龍の牙(ドラグーン)』」

「ああ……久々に使ったよ」

「昔はこれでいろいろ楽したけどな」

「ゴブリンとか蟲のダンジョン……懐かしいな。今じゃ後進を行かせてる」

「それで良いだろ、お前はみんなを世話するのが向いてるよ」

「そうかな……そうなのかもな」

「……っとそうだ。スカーレット!」


 個室の扉を開けて、そこにいたのはカーテンとコロラドの上着にくるまっているスカーレット。その顔も足先も震えており、普段の豪放ごうほうさはカケラもなかった。


「ヴェノム……ありがとう、もう、いないんだな……ムカデ……」

「ああ多分な……服貰ってくるからちょっと待っ」


 そこで、スカーレットに背を向けたヴェノムの言葉が止まった。


「頼む、行かないでくれ……」

「……おい、だから……」

「頼む! わ、私は……」

「ヴェノムさん?」

「あ」


 部屋の入り口に、笑顔のコロラドが立っていた。

 が、その笑顔もヴェノムの服を掴むスカーレットの顔を見て、直ぐに真剣なものに変わる。


「いやその……」

「わかってますよ。服は私が取ってくるから待っててください」

「え? あ、うん、頼む……」

「……俺も席を外す。外の騒ぎも気になるしな」

「おいガンビット、お前まで」

「分かってるから黙れ。それと、ついててやれ。わかったな。店のことは俺が片付けておく」

「……ああ」

「うっ、ぐっ、ひぐっ……」


 床にへたり込み、涙を流すスカーレット。

 その後にコロラドが服を渡して、通報を受けて駆けつけた騎士団から隠れるように去っても、スカーレットの顔は暗いままだった。


「いらっしゃいませ、『石扉いしとびらと安息亭』へようこそ。三名様のお泊りでよろしいですか? 只今ですと、一番下の階しか空いておりませんが……」

「構いません、お願いします。あと水と、軽い食事をお願いします」

「かしこまりました」


 そしてその後、とりあえず近場の知った宿にスカーレットを連れて、ヴェノムとコロラドは部屋に入った。

 洞窟風の静かな部屋に魔珠の明かりが灯って、四つのベッドに大きな机が一つ。

 どうやら家族用の部屋らしかったが、ここでそれは関係の無いことだ。


「……すまない、本当に済まない。こんなことまでしてもらって……」

「いや……良いよ別に。誰しも苦手なものはあるさ」

「だが、私は……」

「スカーレットさん」

「……?」


 コロラドが歩み寄って、スカーレットを包むように抱きしめた。


「……何もできなくてつらい時ってありますよね。でも大丈夫です、ここには私達以外誰もいません。誰にも言いませんから……言いたいこと、吐き出してみませんか?」

「いいのか……?」

「ダメなわけないですよ」

「う……わああああああっ!」


 テーブルに突っ伏して泣き叫んだスカーレットは、コロラドにすがるように抱き着く。


「私は……何もできなかった! 虫なんかに怯えてっ、動けなくて……街を守るはずだったのにっ、服も鎧も投げ捨てて! 私は……私は、騎士団長失格だ……そう思ったら、もう何も出来る気がしないんだ……」


 そして一息にそう言って、それからはずっと泣いていた。

 ちらっとコロラドが縋るような目をヴェノムに向けると、ヴェノムは頷いてスカーレットの肩に手を置く。


「……あのな、あの時のお前はあれで正しかったんだよ」

「そんなわけ……」

「お前がちゃんとあの部屋に隠れてたからよかったんだよ。お前の服にかけられた誘引剤は肌にもつく。お前が俺たちと一緒にいたら、俺たちはムカデにもっと襲われてたよ。逆にいつものお前だったら、俺たちは苦労させられてたさ」


 もちろんある程度は方便だったが、嘘はない。

 もしもスカーレットがいて戦いに参加していたとしても、あの量のムカデを相手取るのは無理があっただろう。


「……そんな、でも私は……」

「コロラドも言ってたけど、誰にだって得手不得手はあるさ。だからそう自分を責めるな。報告はお前がサクラさんにすればいいからさ。うまいもん食って寝て、忘れようぜ」

軽蔑けいべつ、しないのか……? 私はいつもえらそうに、調子に乗って……」

「お前のその態度がこの街を安心させてんだろ、お前が落ち込んでたらそれこそみんな心配するよ、なあコロラド」

「そうですよ。私、そんなに長いお付き合いじゃないですけど……元気なスカーレットさんが一番だと思いますよ。それこそ、邪龍を怖がらないくらいに」

「っ……うう……ありがとう、ありがとう二人とも……必ず全部、正直に報告するから……」

「ああ、好きにしてくれ。どうせ明日から俺たちは帝都行きだ」


 かくしてそれからしばらく涙を流していたスカーレットが泣き止んで、タイミングよく従業員が食事と水を持ってくる。

 それを三人で食べて、スカーレットとコロラドが風呂に入り、ヴェノムは、その間に椅子で寝ていた。


「……済まなかったな、コロラドさん」

「呼び捨てで構いませんよ。それに、困ったときはお互い様です」

「そう言ってくれて……救われるよ。私は……騎士団なのにな」

「ダメなんですか?」

「え?」

「騎士団の人だって、同じこの街の住民じゃないですか。救ったり救われたり……おあいこですよ」

「……ありがとう。コロラドさ……いや、コロラド。私と、友達になってくれないか? 私は、貴女のような人と友でありたい」

「買いかぶりすぎですよ、私だって……ヴェノムさんがいなかったら、何もできませんから」

「そんなことはないと思うがな……自分のこととなると、難しいよ」

「それ、スカーレットさんが言いますか?」

「おい、自分はさんづけを断っておいてスカーレットさん、はないだろう?」

「あ……そう、ですよね、スカーレット。これからも、友達として……よろしく」

「ああ、よろしく」


 そうして二人は握手を交わして、しばらく他愛もないこと……特にヴェノムについての話題で盛り上がって、いつしか眠りについた。


 そして朝が来て、ヴェノム達は待ち合わせ場所に向かう。

 いよいよ、帝都に出発する朝が来たのだった。


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