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第41話 現れた最悪の敵

「本当に失礼しました……」

「いやいや良いんだコロラドさん、してやられたが、言われなければ危なかった」

「クソ悔しかったがお前が気にすることじゃないよ、さぁ食べてくれ」


 あの後このまま王の思惑に乗ることを選んだヴェノム達は、テーブルに額をつけて謝るコロラドに料理を勧める。

 甘い匂いに釣られて顔を上げたコロラドは食パンに突き刺さった焼き菓子を引き抜いて、たっぷりと生クリームと蜂蜜はちみつをつけて口に運んだ。


「あー美味しい……幸せ……」

「クーラ達も呼ぶべきだったかな」

「というかどこに置いてきたんだ?」

「王宮の侍女じじょに任せたんだ。ここに来る前は病院に寄って来た」

「ああ、メガクィーか……元気だったか?」

「クビにしてくれと言われたが断ったぞ」

「だろうな。俺としてもそんなのは望んでない」

「だと思ってたよ……あー、それにしても久々だ……俺ともあろうものがコロっと乗せられた! 飲もう!」


 グビグビと酒を口にして、赤い顔でテーブルの上にほおを乗せて涙目のガンビット。


「してやられたのなんていつ以来だろうな、ゴブリン討伐の時以来か?」

「……あ、思い出したぞ、クラーケン討伐の時にガンビットお前、『海の水は塩辛い。ということは海水をあれだけ飲むクラーケンはあの辛さということになるぞ、食えるわけがないな』とか言って俺のクラーケンの肉全部持っていったろ! あの後師匠に『干したら食えるんじゃバカ弟子が!』っつって散々恨まれたんだからな」

「いやぁすまんすまん、あれいつだったかな?」

「15年前だ」

「ならお前が俺を騙して虫の洞窟の……」


 と、その時だった。


「お客様、申し訳ありません。こちらの女性をご存知ですか?」

「女性?」


 仮面をつけた従業員が映像魔珠を起動すると、そこに写ったのは見覚えのある顔。


「スカーレットさんじゃないですか」

「ヴェノム様をお探しのようで。もちろん一般の方ならこのようなことは決してしないのですが、その……騎士団団長の方のお申し出ともなりますと、私どももだまっておくわけにもいかず……よろしければ裏口をご案内いたしますが?」


 仮面をつけて身分を隠せる酒場に、探しに来ましたと現れて『はい、いますよ』とは普通ならない。しかし相手がスカーレットなので、店も断れなかったようだ。


「何の用だろうな」

「何かあったかな? 想像がつかないけど……まさか遊びってわけでもないだろ。仕方ない、呼んでいいか?」

「仕方無いだろう」

「良いと思います」

「ではお願いします、お騒がせしてすいません」

「いえ、承知いたしました」


 かくしてそれからしばらくして、ローブをまとって仮面を被ったスカーレットが現れた。


「始めて来たが変わった店だな……ええと、名前で呼ぶのはご法度はっとだったか?」

「いや、個室なら問題ないよ。カーテンに防音魔法がかかってるからな……で、スカーレット、一体どうした?」

「サクラ所長から聞いているかもだが、お前が捕まえた構成員に死なれてしまってな。それでまたお前に話を聞きに来た」

「ああ、そういうことか……でも悪いが無駄足だな、伝えることは全部……」


 そこでヴェノムの表情が険しくなり、スカーレットを見上げた。


「……なぁ、スカーレット」

「ん?」

「今すぐその服全部脱げ」

「はあ!? おま、お前っ、こんな時に一体……」

「じゃあ机の上で大人しくしてろ! ガンビット、来るぞ!」

「ここでか!?」

「ああ、《《展開》》してくれ!」


 そうヴェノムが叫んだ、次の瞬間だった。

 個室の外から叫び声やグラスの割れる音が響き、我先にと外へ逃げる客。

 部屋の扉の隙間すきまから『それ』がい出て来たのは、そんな時だった。


「ひっ……!」


 コロラドが息を呑み、青()めた顔の目線の先にいたのは、漆黒しっこくの《《ムカデ》》。

 ギチギチギチ、と鳴き声のような音とともに立ち上がろうとしたのを、


「こやつめ!」


 慌てたマサラがあおい炎で灰にした。


「な、何じゃ今のは!?」

神経毒しんけいどくを持つムカデだ、まれたら最悪死んで食われる! 油断するなよ、匂いでまだ寄って来るぞ!」

「えっ、ちょ」


 言うが早いか、今度は3匹のムカデが這い出て来た。また蒼い炎で灰にするが、千切れたムカデがのたうち回って炎を広げ、煙が充満し始める。


「キリがないぞ……」

「スカーレット、お前のマジックアイテムあるか!? アレでむしだけ……おい、スカーレット?」


 振り向いた先には、いつものように勇猛果敢スカーレットがいるはずだった。

 しかしそこにいたのは、テーブルの上で涙目で震える赤髪の女性が一人。


「だめ……こわい……」

「は?」

「だめなんだ、昔からムカデだけは! 無理、生理的に無理なの! お願い、なんとかしてぇ!」


 普段の様子からは想像がつかない程の怯えように、一瞬だけヴェノムはフリーズする。しかしヴェノムが選んだのは、更なる残酷な現実を伝えることだった。


「そ、そうか、すまん知らなかった……でもお前さ、気づいてるか?」

「何が!」

「このムカデ、狙ってるのお前の服だぞ」

「……ひぇ?」

「お前の服に誘引剤がみ込ませてある。人間にはわかりにくいがな、俺とコロラドにはミカンみたいな甘い匂いがうぶっ」


 言うが早いかヴェノムの顔面にローブが当たって、尚も衣服が飛んでくる。


「そんなの早く言ってよお!」

「さっき言って……わっバカ、脱ぐなら隠せ! コロラド!」

「あっ、はい! 上着上着……」


 言っている間にもさらに何匹かムカデが現れ、ガンビットが酒瓶さかびんで潰していた。

 しかしその緑色の体液が異臭を放ち、さらにムカデが這い出てくる。


「どうするヴェノム、今は這い出てくるだけだが……」

「ああ、察しの通り《《召喚魔術》》だ。たぶん店内にまだ術者がいる」

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「スカーレット嬢があれだし、この部屋にも長くいられんぞ」

「……物量で来られたら終わる。ガンビット、そろそろ行けるか?」

「ああ、酔いは覚めた」

「3、2、1、ゼロで行くぞ」

「懐かしいな、この感じ」

「待って待って待って、開けるの!?」

「今開けないとムカデの雪崩なだれが来るぞ」

「な、なら早くしてぇ……」


 涙声と同時に、ヴェノムが蝋燭ろうそくと酒瓶を手にする。

 そして脚に強化魔法をかけて、


「3」


 それに呼応するようにガンビットが腕を構え、


「2」


 構えた腕の紋章と同じ琥珀こはく色の宝石が宙に浮かび、


「1」


 宝石が輝きを増して、


「ゼロ!」


 扉が蹴破られた瞬間、琥珀色の光線が部屋の外に放たれた。


「ギッ」「ピキッ」「キャシャアア!」


 宙に浮かぶ24の琥珀色の宝石から放たれる熱戦は、的確にヴェノムたちの部屋に迫っていたムカデ達を貫く。しかしそれでも迫るムカデの奔流は止まらない。


「はーい見ちゃダメですよー」

「いたぞ、あれが術者か!」


 広間にいたのは、黒い影。

 そこにヴェノムが火炎瓶を投げたが黒い影はずるりと崩れてムカデの群れになり、違う位置にまた現れた。


「やぁ、喜んでくれたようだネッ、クソ野郎ドモ!」

「……何だアイツ」

「ボクかイ? ボクはネ、ギルド『蠱業楽園まじわざエデン』のおさ、セクィントだヨ、ヨロシクネ!」


 無駄に高い声で、ギルドの長、セクィントは言った。


「スカーレットだけじゃなくテ、あのヴェノムとガンビットまデ! これはカミサマの思し召しかナ?」

「……舐めるなよ闇ギルド。逃げられると思ったか?」

「は? テメェらこそ舐めんなよクソどモ。この程度でウチのかわいい虫ガ……おろろろろ。負けるわけねえダロ!」


 びちゃびちゃと音を立てて、広間に虫が吐き出されていく。

 それを目の当たりにしたヴェノム達は、各々が全力で攻撃するための構えを取ったのだった。

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