第38話 俺の相棒の倫理観が割とヤバい件
「どーもお久しぶりです! ヴェノムさん! 水くさいじゃないですか、超☆配信者会議に出るのならおっしゃってくだされば良かったのに! あ、お昼ごはんまだですよね、どうぞウチへお越しください、人だかりのないお食事を保証しますよ!」
馬車の中でそう言われ、仕方なくヴェノムとコロラドはブリージの馬車に乗り込む。
そして程なくしていつもの雑貨屋の上の階に通されたが、そこは以前より遥かに豪華な装飾にグレードアップしていた。
「わぁ、すごい……」
「最近専属のシェフを雇いましてね、これがまた腕が良くて。仕事にハリが出ますよ。何か食べます?」
「いや今はいい、それでなんだが今日はちょっと買い物がしたくてな」
「はい、超☆配信者会議に向かう仕入れですね!? 欲しいものは何でもおっしゃってください!」
「そうか。じゃあここに書いた薬草を頼む」
「えっ、薬草?」
「……なるほど、ちょっとこれは話を伺う必要がありますね」
紙を差し出したヴェノムの表情は、いつも通り真剣なもの。だがブリージは商人の勘で、ヴェノムが相談をしたがっていることを見抜いていた。
「……最近、なかなか街にも出られないんでな。ちょっと色々考えてたんだ」
「伺いましょう。良いジュースを仕入れたんですよ、コロラドさんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
パチッ、とブリージが指を鳴らすとメイドがグラスに入れたジュースを運んで、机に置いた。
コロラドだけがそれを口にしてその美味しさを言葉にしようとするが、2名の雰囲気はまるで違う深刻なもの。
「あの、ヴェノムさん……?」
「なぁブリージさん、最近、売り上げはどうだ?」
「見ての通り順調ですよ。まだまだヴェノムさん公認の道具は売れてます」
「はは、公認か」
「……どうやらお疲れのご様子、私で良ければお話は聞きますよ? お互い、もう酒場で愚痴を言える身分ではないでしょう」
「……それなんだよな」
ジュースを口にして、ヴェノムは呟く。
それを不安げに見るコロラドに対して、ブリージは葉巻に火を点けて、
「気楽なあの頃が恋しい、と顔に書いてありますよ、ヴェノムさん」
と、見透かしたように言った。
「やっぱり分かるよなあ」
「同じような方を何度も見てきましたからね。重いですか? 配信者の肩書きが」
「重いのかなあ……」
「あ、あの、ごめんなさい!」
急にコロラドが立ち上がって、頭を下げる。
「どうした?」
「い、いえあの、お邪魔かなって……」
「逆だ。むしろお前には聞いてもらわなきゃダメなんだ、コロラド」
「……何をですか?」
そう尋ねたコロラドに対してため息をついてヴェノムはうなだれ、
「正直に言うんだけどさ、俺、このままで良いのかな〜……って」
まるで重荷を下ろすように、そう言った。
「あ、こんな時になんですが、超☆配信者会議参加、改めておめでとうございます」
「何で今言った!? それで俺は悩んでんだよ!」
「いえ、心中はお察ししますが、専属契約を結んだ身としましては一応」
「ほんっとアンタそういうところ図太いな」
「ハハハ、よく言われます。ところでコロラドさん。そんなお立ちにならずともどうぞお座りください」
「は、はい……」
「それで……このまま、というのは?」
まだ不安げにキョロキョロしているコロラドに気を遣ってか、ブリージが言った。
「いやアンタ絶対わかってるだろ、俺が気にしてるのは、今後の俺たちの配信なんだよ」
「……まぁ、難しい時期ではありますね」
葉巻を吸いながら、ブリージは言った。
「難しい時期、って……」
「簡単に言うとさ、やれることがなくなっちまったのよ、俺たち」
「やれること?」
「思い返してみろよ、俺たちもともと、どうやって人気配信者になった?」
「えっと……泥棒さんの死体を晒して、盗賊さんを追い払って、ポイズンベアーを倒して、私を攫った闇ギルドの女ボスさんを倒して、闇ギルドの皆さんに毒抜きハンバーガーを食べさせましたよね。それが何かダメなんですか?」
「お前やっぱたまに怖いな! 全部ダメだろ全部!」
「……?」
きょとん、と心底不思議そうにコロラドが首を傾げた。
「首傾げたよこのネコミミ……!」
「ワハハハ、コロラドさん。ヴェノムさんはね、『過激過ぎる』と言いたいんですよ」
頭を抱えるヴェノムに、ブリージが助け舟を出した。
「そうそれ!」
「過激じゃないのをやりたいんですか?」
「やりたいんですかって言うかさ、もともとは痺れ薬を紹介する程度の予定だったろ。それが今ではこんなんなっちゃってさ、これから先、やれる事が無いんだよ。コロラド、例えば次の配信やるとしたらどんなのにする?」
「えっと、ポイズンベアーは倒しましたし……あっほら、ヴェノムさんってミノタウロス倒せるじゃないですか! 次もそんな感じで……」
「殺す気かぁ!!」
「ええ!?」
ダァン! と思い切り机を叩いて、ヴェノムは叫んだ。
「ワハハハハ、コロラドさんは正直な方だ! しかしヴェノムさん、これが普通の感覚ですよ」
「だよなぁ〜」
「えっあのっ、えっ?」
「だから、もうそのレベルで過激なやつしか出来ないんだって! 簡単に作れる殺虫剤の作り方配信〜とか考えてたけどさ、もうそういう次元じゃないじゃん」
「それはそれで考察が捗りそうですけどね。何故このタイミングで殺虫剤を!? とか」
「茶化さないでくれ。で、まぁさっきお前も言ったけど、ポイズンベアーの次だしミノタウロス倒してくれるかな〜みたいな感覚なんだろみんなは。それ冒険者がやらかす一番ヤバい誤解だからな! 冒険者ってのは調子に乗るか油断するかして死ぬんだよ。お前まさか俺が毎回余裕でバトルしてるとか思ってないよな?」
「えっ、私を助けてくれたり、ハル……じゃなかった、襲われかけてた女の子を颯爽と助ける正義のヒーローですけど。余裕じゃなかったんですか?」
「あんなもん内心ドキドキだよ、毒なんて効かなきゃ終わりだし、一回外したら終わりの初見殺しにしかならないんだから!」
「へぇー」
「へぇーじゃないだろ命かかってんだぞ……!」
「いひゃいいひゃい、いひゃいですヴェノムひゃん」
ぐにー、とコロラドの頬を伸ばすヴェノムだったが、飽きたところで離して席に戻る。
「まぁそんなわけで超☆配信者会議に呼ばれたとしてもな、もうやれる事が無いのかな、とか考えてたんだよ。冒険だってモンスター討伐だって遊びじゃないんだ、配信しながら戦うなんて集中も途切れて危ないし真似するアホが出ないとも限らん」
「……まぁ、それはそうですね」
「今この店に来てるやつだって大半は俺なんかのブランドじゃなくて、大事な時に壊れなかった道具を使いたいだけだろ」
「ですね……まぁでも、丁度良かったのでは?」
ニコニコと笑いながら、ブリージが言う。
「何が?」
「そういう時こそ超☆配信者会議で他の方々のライフプランを見てくれば良いではありませんか。何事も勉強ですよ」
「んー、言われてみればまぁな……」
「ウチのことなら気にしないでください。ヴェノムさんだけに頼るような経営はしておりませんよ」
「逆にアンタはブレないよな」
「私は『仲良く金儲け』が一番好きですから。今後とも宜しくお願いしますよ、お二方?」
「……ありがとう、いつも助かるよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、私達の仲じゃありませんか」
そうして、また変装したヴェノムとコロラドは、人だかりを避けて店を出た。
「さて、明日は駐屯所に集合だしな。買い物終わったらどこかで久しぶりにうまいもん食おうぜ」
「はい、《《ヴェノムさん》》! あっ」
晴れた日の空の下、やらかした配信者に注目が集まる。
「ヴェノムさん?」
「今ヴェノムさんって……」
「もしかしてあれ!」
「ヴェノムさんじゃないか!?」
変装は即座に見破られ、ヴェノムがため息をついた。
「……コロラド」
「すいません、本当にすいません……」
かくしてその後、店先で囲まれたヴェノム達が開放されるころには、すっかり日が暮れていたのだった。




