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第34話 好き好き大好き寵愛したい

「ヒーロー様、はいあーん」

「あー……ん」

「美味しい?」

「はい、とても……」

「……むぅ」


 桃色をベースにした豪奢な部屋の、丸いテーブルを囲む椅子。

 そこで何名ものメイドに囲まれ、外には兵士を待機させ、ヴェノムは今、焼き菓子を王女・ハルモニアの手から食べさせられていた。


「あの、すいませんハルモニア様、そろそろ口が乾いて……」

「あらごめんなさいヒーロー様! 一緒に木の実ジュースを飲みましょう? もちろん冷やしてあるから!」

「はい……」


 メイドが置いたのは、一つの大きなグラスと、そこに挿された長い二本のストロー。

 しかしストローはくっついていて、飲もうとすれば顔が近づく。


「本当はもっとちゃんとしたストローが良かったのだけど、お父様が許してくださらなくて」

「でしょうね」


 十分『ちゃんとしていない』形状の気はしたが、ヴェノムは言葉にしなかった。


「さぁ飲みましょうヒーロー様!」

「……配信したいくらい素敵な光景ですね、ヴェノムさん」

「おいコロラド、冗談でもやめてくれ」


 王宮の一室で繰り広げられる、恋人ごっこ。それを白けた目で見るコロラドは一人木の実ジュースを飲んで、今日も一人乱暴に焼き菓子を口に入れたのだった。


「いやぁ、すまんなヴェノム」

「いえ、王女様のお誘いとあれば……うっぷ」

「ヴェノム、大丈夫か?」

「大丈夫だ、ちょっと腹が膨れただけで」

「全く、あいつは加減を知らん」


 そしてその後開放されて、同じくここ数日いつものように現王リョウゼン、ヴェノム、ガンビット、コロラドが小部屋に集まって話をしていた。


「それにしてもハルモニア様も凄まじいな、毎日毎日、良くも飽きないものだ」

「退屈は分かるが、アレは母親似だな……ガンビット、あと1週間もすれば我が父と妃がお前を呼びつけ、話を聞かれるぞ」

「はっ、その時はなんなりと」

「ガンビット、お前俺を見てよくそれを言えるな……」

「なに、有名税だ」

「民の義務と来たか、素晴らしい言葉だなワハハ」


 ここ数日、毎日のようにヴェノムは王宮に呼び出され、ハルモニアに話を聞かれていた。

 具体的にはギルドを追放されてから闇ギルドを壊滅させるまでの一連の流れを少し改変して語っているだけなのだが、王宮勤めの吟遊詩人ぎんゆうしじん監修かんしゅうされたその物語はすさまじく脚色されており、語る側が恥ずかしくなる代物しろものと化していた。

 しかもそれを小休止ごとに大量の焼き菓子を食べさせられながら続けるので、ヴェノムの腹は今もパンパンになっている。


「あと1日の辛抱だ、頑張れヴェノム。あとコレが吟遊詩人から受け取った、ウチでお前がクエストを受けていた時の物語になる」


 ばさりと紙束を渡され、ヴェノムとコロラドが目を通す。

 そこには誰しもがあこがれる完璧なヒーロー、ヴェノムが大活躍するストーリーが描かれていた。


「……すごい活躍ですね、ヒーロー様」

「だからもうそれは止めてくれって。もう焼き菓子は食べたくない……」

侍女メイドに言って明日は果物にさせよう。つくづく手間をかけるな、英雄方」

「いえ……」

「身に余る光栄ですので……」


 かくして、今日も快晴の空の下。

 変装したヴェノムとコロラドは、王宮を出て坂を下るのだった。


「それにしても、いよいよ明後日ですね、この街を出るのも」

「ああ……」

「王女様、お見合い……らしいですね」

「……だな」


 数日前に降って湧いた、第一王女ハルモニアへの縁談。

 相手は帝国の貴族で、当然、今回の件でヴェノムが『外側から』探るべき相手ということになる。


「ま、あくまで超☆会議のついでだからな。向こうが配信者に全然興味ないとかある話だし、そうしたら王宮のスパイの皆さんに頑張って貰うだけだろ」

「それなんですけど」

「?」

「こっちがその方を探るってことは、向こうもこっちを探りたいわけですよね」

「まぁ、そうなるな」


 王宮近くには攻め込んだ軍隊を迎え撃つため、ある程度の空き地を塀で囲んだ路地がある。


「じゃあ、今私達を囲んでるのって、どういう方だと思います?」

「……」


 足を止めて、通りのど真ん中。平日の昼下がり、普通なら用事もなければ人通りは皆無に等しい。

 そんな中、あちこちから現れた黒いマントにフード、そして犬のマスクをした連中は先日の闇ギルド・『毒華の茨』を思わせるが、明らかにそちらとはまとう雰囲気のレベルが違った。


「……やっぱり馬車を断って正解だったな。馬車ごと魔法で撃たれかねない」


 そうヴェノムが口にした瞬間、犬マスクの一人が杖を構え、魔法陣を展開し、そして倒れる。


「注文しといて良かったよ」


 纏ったマントを貫いて腕に刺さる投げ矢(ダーツ)。しかしそれは投げられた物ではなく、風魔法で撃ち出された針の弾丸。ヴェノムのこぶしを覆う鉄のガントレットが、3つの銃口を向けていた。


「配信者も襲われるご時世かよ」

「私も手伝います」


 ローブの前を開いてマント状にし、決意を込めた目でコロラドが構える。


「なぁコロラド、最近なんかお前、雰囲気ふんいき違わない?」

「違いませんよヴェノムさん。全っ然いつも通りです。全っ然いつも通り美味しいお菓子を食べながらイチャイチャイチャイチャするヴェノムさんを見せつけられても私はいつだって平常心です!」


 炎が巻き上がる音とともにコロラドの髪が逆立ち、尾は8本に増え、体毛には白色が混ざって、蒼い炎が周囲に逆巻く。


「ひゃははは、運がなかったのう下郎ども! 我が依代よりしろは立腹しておるぞ! さ晴らしにごとく散るが良い!」


 いきなりあからさまに強化されたコロラドを見て、慌てて襲いかかろうとする犬マスク達。

 しかし時すでに遅しで、炎の弾丸をまともに食らった犬マスク達は全員が吹っ飛ばされ、さっさと散り散りに逃げ去ってしまった。


「奇襲失敗と見てすぐ去るか。犬よりは賢いな」

「助かったよマサラ」

「ふふん、礼なら口づけの一つでも……ちょっ、待て、冗談じゃ依代、分かったから無理に……ああっ!」


 ぜぇぜぇと息を切らして、コロラドの肉体の支配権が入れ替わる。


「ったく、どいつもこいつも……」

「コロラドさん?」

「ふぅ。疲れましたねヴェノムさん。どこかで食事でもしませんか?」

「いや、騎士団のところにアイツ連れて行かないと……」

「……あっ」


 ひゅう、と風が吹いて、倒れた犬マスクが大通りに一人。麻痺まひ毒に痙攣けいれんしながらそこにいたのだった。

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