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第31話 英雄が2人、次なる舞台へ

 巨狼と化したクーラの背に全員が乗ろうとする中、ヴェノムを引っ張り上げながらガンビットは言った。


「ところで貴女がヴェノムの奥方か! ご挨拶が遅れたな! 私はガンビット、こいつの友人だ。以後よろしく」

「お、奥方だなんて……まだ早いですよぉ」

「む、違ったか?」


 その言葉に、何とも言えない困った顔でヴェノムは考える。


「……配信のパートナーだよ。お前もさっさと……あれ? そう言えばメーアスブルクさんは?」

「まだ《《上》》だろう。そろそろ降りてくるころだと思うが」

「あーそうか、日傘か」

「お前様!」


 その声は、空からだった。

 巨大な傘を使ってゆっくりと降りてくる黒いドレスの女性が、ふわりと巨狼の背に着地してヴェノム達にうやうやしく頭を下げる。


「ご友人がた、はじめましてと……ヴェノム様とサクラ様はお久しぶりですわね。メーアスブルク、お会いできて光栄ですわ」


 金髪赤目に長いツインテール、傍目も声も幼いドレス姿の彼女は、カキョムの街ではガンビットと並んで知らぬ者のない、ガンビットのパートナーだ。


「……ちゃんと紹介しなきゃだな。ウチのコロラド。俺のパートナーだ。で、コロラド。このムキムキマッチョの独身中年売約済み野郎がガンビット。俺の友人で、前にいたギルドの長だな。その隣が……」

「メーアスブルク、ですわ。お嬢さん」

「こ、コロラドです!」

「あら、ウチの犬っころとは違いますのね」

「……メー、バカにするな、わたしかしこい、あいさつできる」


 人間状態の時と同じ声の音程で、巨大な狼が不満げに言った。


「ぷぷーっ、大きなだけの犬っころなど純血にして高貴な私からしたらワンちゃんですわ!」

「……マスター、メーがいじめる」

「そ、それはヒキョウですわよ!」

「2人ともそのへんにな。コロラド……書類で見たぞ。確か前はウチのメンバーの奴隷じゃなかったか?」

「え? あ……」

「おいガンビット」

「そう怒るなヴェノム、素行の悪そうな素人冒険者の持ち物だった気がするだけだ。今は違うんだろう?」

「……はい!」

「ならいい。つまらん話をして悪かったな、行こうクーラ。ただしゆっくりだ」

「はーい」


 のしのしと歩くクーラが、細い道を歩き始めた。街までは大した距離ではないが、気持ちよさそうに風を浴びるメーアスブルクを見つめて、エイルアースが確認するように言った。


「さて、次は儂じゃな。儂はエイルアース……見ての通りエルフじゃよ。ウチの弟子が世話になっておるな、ガンビット殿」

「お会いできて光栄です、ヴェノムのお師匠様。お噂はかねがね」

「……謙遜などするな。純血の吸血鬼に神話種の狼を連れた人間など、儂も初めて見る」

「いえいえ、連れてるというか……」


 と、そこへ少し強引にメーアスブルクが割り込む。


「あなたもはじめましてですわね、エイルアース様。私もお名前だけは存じておりました。ガンビットの《《未来の伴侶》》としてお会いできて光栄ですわ」


 そして未来の伴侶、の部分をかなり強調して言った。


「そりゃ耳の良いことじゃな。光栄と言うなら儂こそじゃよ」

「何でも長老を殴って森を出て、それ以来帰ってないとか……」

「おいヴェノム!」

「いや酒飲んだ時に自分で言ってましたよ。兄貴も知ってますし……」

「僕も知ってるよ、100回連続で酒の席の度に尻を触られたんだろう? それでぶん殴った相手が婚約者の村の……」

「あーあーあー黙れ黙れ! ったく、今日は厄日じゃ!」

「ハハハ、酒は飲んでも飲まれるな、という奴だな! ……でだ。街につく前にこれだけは言っておきたいんだが」


 空気が変わり、ガンビットがヴェノム達に向き直る。メーアスブルクも居住まいを正して言葉を待つように手を組み、目を閉じた。


「……どうしたよ、改まって」

「この度のウチの不始末、申し訳無かった。ウチが弱かったから狙われた。俺の責任だ」

「……俺は気にしてないよ」

「そうか、助かる」

「騎士団からも別に言うことは無いよ。メガクィーくんは入院中だけど、それ以上の混乱は聞いてないからね。それこそキミのところ以外の素行不良なギルドなんて腐る程あるさ」

「だからこそ申し訳ない。目をかけて頂いていたのにも関わらず、期待を裏切ってしまった。早急にギルドの立て直しを行う」

「それは良いことだけど、それは僕の管轄外だよ。キミのところへの信頼は揺るがないさ、結果的に闇ギルドが一つ消えたわけだしね」

「……かたじけない」

「マスター、ゆるされた?」

「これから次第、ですわよ」

「ふーん、むずかしいね」


 クーラがそう言うと、しばらく無言の時間が流れる。しかしヴェノムが、


「……つーかさ、流してるけどこの子、どこで拾った? どう見ても神話種だろ」


 神話種とは、『神話にしかいないであろう種』を指す。

 精霊と交わって生まれる説や、突然変異で稀に色々な種から生まれるなど様々な説があるが、そう簡単に見つかる存在ではない。


「帝都の奴隷市場で買った」

「胸糞悪い場所でしたわね」

「お前またやったのかよ……責めないし止めないけどさ」

「あれだけはガマンならん。まともな扱いならまだそう言う文化は昔からあるとわかるが、枯れ木のような者たちを嬉々として売るようなのはな……」

「違法奴隷か。帝都にもあるんだねえ」


 違法奴隷というのは、正規の健康状態や値段、契約内容で売らない奴隷を指す。

 カキョムのような比較的治安のマシな王都ならともかく、治安の悪い場所ではまだまだそう言った奴隷売買は帝都から王都が賜る法、通称『帝国法』が機能していないところもあるのだが、帝国でも法の網から逃れようとした商人がいたらしい。


「あった、が正解だろ? よそのギルドとの会議のついでだろうが、こいつが悪徳奴隷業者を滅ぼさないわけないでしょ」

「帝都でもやってくれたのか……まぁ聞かなかったことにしよう」

「で、そんな帝都で次は超☆配信者会議なるものがあるわけだが……」

「まるでワクワクしねぇな!」

「そこに行って貰いたい。ちなみに帝都での会議中にもお前の名は何度も出ていたからな。ヴェノムお前、他の王都でもかなり有名だぞ」

「まるで嬉しくねえよ」


 2連続でツッコミを入れたヴェノムに対し、ガンビットの顔が呆ける。


「ん? そうなのか? 有名になれば金が入る、お前の望みはそれだろう?」

「……否定はしないけどさ」

「でもヴェノムさ……ん、今はカキョムも面倒だって言ってませんでした?」

「おや何故だ」

「有名になりすぎたんだよ、ただでさえ大した娯楽無いからなあの街……」

「それは王様も歓楽街より食料自給率を上げたがっている以上、しかたあるまい」

「そのへんはしゃーないが、とにかく俺はもう変装しないと街に入れないんだよ」


 そう言ってヴェノムは髪にクリームを塗り、顔布を巻いて声を変える薬を飲む。

 もはや手慣れた様子に、ヴェノムは内心泣きたくなっていた。


「そうか、それは難儀だな……だがしかし、だったら超☆大配信者会議はかえって都合が良いじゃないか。いっそ街から離れてコロラド嬢と暮らせるだけの金を、パーッと稼いでしまえば良いだろう?」

「……金稼ぎかあ」

「ヴェノム様が高貴かはともかく、世を捨てて暮らすにはそれなりに蓄えが必要ですわ。我々も山奥にひっそりと暮らす同胞はいくらかおりますが、それなりに成功を収めてからでないと」


 ふふん、と得意げに言うメーアスブルクは、吸血鬼の証である背中のコウモリの羽をパタパタとさせて言った。


「あ、そうか……吸血鬼はそう言うの馴染み深いですもんね」

「まず優れた頭脳で成功し、世俗を離れてからゆっくりとふさわしい伴侶を探す、それこそ高貴なる我々が生きる醍醐味だいごみというものですわ!」

「うーん、そう言われると憧れが出てきたな……」


 ヴェノムもかなりの金は稼いだが、伝え聞く吸血鬼のような人里離れた場所に館を建てて……と言うような暮らしにはまだまだ足りない。


「目標ができましたね、ヴェノム様! あっ……」

「もうとりあえず様で良いよ。分かった、お前の口車に乗ってやるよ、ガンビット」

「ハハハ、すまんな! 後始末はなるべく協力する!」

「後始末?」


 意味が分からず、コロラドは首をかしげる。


「帝都の悪徳奴隷業者を消したあとどうなったかが気になるのさ。余計にタチの悪い奴隷商人が横行してたら、コイツの行いが逆効果だったってことになるからな」

「あ……なるほどです。でも、言ってないのによく分かりましたね……」

「腐れ縁だからな。ったく、その代わり依頼料は弾んでもらうぞ」

「おお、行ってくれるか!」

「行くしかない状況にしといてよく言うよ」

「ガハハハ、どうせいちいち変装して暮らすのも限界だろう? ウィンウィンとかいう奴だな!」

「はーあ。お前のその呑気さが羨ましいね……」

「お主に足りぬところではないか。いい友人とはこういう者を指すのじゃぞ、ヴェノム」

「そうだよヴェノムくん、僕らエルフには何より必要な存在さ」

「……どーも」

「ハハハハ、光栄ですな! まだまだ私など至らぬ点が……」

「ついたよー」


 歳上に優しい目で言われ、ヴェノムは恥ずかしそうに顔を逸らし、ガンビットは頭を掻いた。

 が、それを見る長命種たちの顔は本当に穏やかで、ともあれ巨狼は街にたどり着き、門番を大いに慌てさせたのだった。

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