第29話 意味がわかるとざまぁな動画
――カキョムの街が邪龍の危機から救われて、2日が経った。
街中で行なわれたヴェノム探しは結局実ることはなく、諦める者、まだまだしつこく探す者、配信で死亡説を唱える者まで様々だった。
「おい、コレ見ろよ!」
そんな中、ヴェノムの配信動画が一つ増えた。昼のスラム街、ゴロツキがたむろすることで有名な『賭けと豚の骨亭』は、無料のトンコツスープと賭け事にしか興味のない荒くれ者たちがいつものように腕相撲やサイコロ転がしに金を賭けている。
勝った者は比較的豪華な食事で、敗けた者は笑われながら具なしのトンコツスープをすする……そんなある意味では楽しげな空気の中、誰かの大声が響く。
「聞けよ! ヴェノムチャンネルの新作だ!」
「何だって!?」
「今回はどうした?」
しかし腐ってもスラム街の一角、闇ギルドのアジト。
別の闇ギルドを滅ぼした正義の味方気取りの情報が向こうから来るとなれば、注目するのは当たり前だった。ゴロツキたちは映像魔珠を取り出し、数人で食い入るように浮かぶ映像を見つめる。
「タイトルは……『特別企画・謎のゲストによる毒抜きお料理動画』だと?」
「なんだそりゃ、本当にヴェノムチャンネルか?」
「いやでも、どう見ても公式だぞ」
「ヴェノムチャンネルの、料理……?」
「捕まえた例の件の犯人を、毒殺する動画だとか? まさかな!」
ガハハハ、と独りで笑う声が響いたが、周りは青ざめた顔でその発言者を見ただけだった。
「じょ、冗談だって」
「……いや、まさかな?」
「とにかく見せろ」
再生された動画には、今までに無かったポップな音楽のオープニング。
そして動画には、顔に布を巻いて笑い顔の面をつけた誰かが現れ、
「ヴェノムチャンネルをご覧の皆さん、こ、こんにちはー。今回の進行を務める、リ、リオちゃんと、」
「そ、その上司の、ナンちゃんでーす」
「今日は駐屯所の牢屋に捕まったわるーい奴らに、私達が作ったお料理をお届けしまーす」
「わるーい奴らもお腹は減るもんねー。美味しいご飯を食べて、しっかり反省しないとね!」
「そうだね!」
と、寸劇を始めた。
「……なんだこれ、変な動画だなあ」
「内容も長いけど普通だぞ。倍速で確認したけど、こいつらがいちいち業者に食材を取りに行ったり、野菜を収穫して下ごしらえして……うーん、やっぱり自分たちで料理して食べてるだけだな? あ、牢屋の中の連中にも渡してるな……そりゃハンバーガーだもんな、奪い合うわ」
「おい、見ろよコレ」
指さした先には、コメント数があった。
そこには膨大な数のコメントがあり、今までのヴェノムの動画と比べても格段に多い。
「そう言えばコメント非表示にしてたわ」
「基本ジャマじゃね?」
「あれがあるから面白いだろ」
「なんか妙に多くないか?」
「まぁ見てみれば分かるさ……あ?」
そこに流れたコメントは、まさに異質。
――消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ
――うわあああああああああ
――すいませんすいませんすいませんすいませんすいません
――また来週(不確定)
――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
――は?え?
――何なんだこの動画
――今気づいた、正気じゃねぇ
――料理を最後まで見てゾッとした
「な、何だこれ……」
「最後……?」
恐る恐る男は魔珠に指を滑らせ、タイミングを調整して再生する。
「はい、お料理ができましたね? 美味しそうなハンバーガー! そ、それではヴェノムさんの手料理を食べたスペシャルなラッキーさんは、誰だったのかなー? 答えは来週、お知らせしまーす……」
――その言葉に、視聴者が凍りついて言葉を失う。
「……え? 最後なんつった?」
「ヴェノムさんの、手料理……?」
「じゃあ……」
普通に作られたはずの、ハンバーガー。
しかし来週わかる、『スペシャルなラッキーさん』。
『毒使い』であるヴェノムの手料理を食べると言うことはつまり……
「え、俺、当てちゃった……?」
「待ってくれ、俺気づいた……この玉子、普通のニワトリじゃねぇ……トサカの青い、毒ニワトリの玉子だ。解毒ミスったら血を吐いて死ぬ奴……半熟の目玉焼きなんかにして良いのか……!?」
「よく見れば野菜もおかしいぞ!? これレタスじゃねぇ、レタスモドキだ! 葉脈を切らずに生で食ったら耳がイカれるヤバい食材じゃねえか!」
「まさかパンや肉も……」
「げ、原材料がシビレライ麦だ! こんなもん扱う業者どこで見つけた!? そ、それにこれ、まさかポイズンベアーの挽肉で作ったハンバーグなんじゃ……」
「端に小さくしか映ってないけど間違いねぇよ、紫色の爪の熊なんてポイズンベアーしかいねえ! このハンバーガー、毒食材だけで作ってやがる!」
あちこちを再確認した面々が、口々に叫ぶ。
そしてその場にいた全員が、これは『毒抜きした食材のハンバーガーを食べさせる動画』だと理解した。
もちろん普通なら、毒抜きの技術を正しく提供する動画でしかない。
――しかし、そのことを囚われた囚人達は知っているのだろうか?
――ハンバーガーに我先にと群がった彼らに、ネタばらしをいつしたのだろうか?
知らなかったとして、その先には……
『手料理のネタばらし』が、待っている。
自分に危害を加えようとした毒使いの、手料理を食べた『スペシャルなラッキーさん』は、《《来週分かる》》のだ。
「やっぱ頭おかしいだろヴェノムって!」
「おいマスター、まさかポイズンベアーの肉なんか使ってないよな、このステーキ!」
「パンもだ、ちゃんと原材料気をつけたか!?」
「お前ら落ち着け! ここの仕入れはウチの仕切りだ、不安がるな!」
今食べている食材にすら不安を覚えたゴロツキ達が口々に叫ぶ。
「あ、ああ、すまない……くそ、なんつー動画を出すんだ……」
「ああっ!」
最後に、誰かが叫んだ。
全員がそちらを向けば、青ざめた男が椅子から立ち上がって、震えている。
「この声、思い出した……」
「え?」
「このゲスト……『毒華の茨』のリョウオと、そこの女頭領のオブーナンだ……俺、たまたま聞いたんだよ……ツィガ婆の宿から飛び出してきた、この女の叫び声……! 間違いねぇ、ヴェノムの奴、《《騎士団の牢屋の中の奴らにまで復讐しやがった》》!」
「ふざけるな、そんなの王宮が許すわけが……! こ、【この動画は《《専門家》》の指導・確認の元、調理しています。絶対にマネしないでください】……?」
「ポイズン、マスター……」
「専門家、って……」
――その言葉に、全員が黙った。
「みんなも、わるいことなんてしちゃだめだよー? 作ったお料理は、ちゃーんとみんなで美味しく食べたからねー。そ、それじゃあまた、ら、来週〜……」
プツンと、配信が終わる。
いつもは賑やかな『賭けと豚の骨亭』はかつて無いほどに静まり返り、立ち尽くした者たちの頭には『不可侵のヴェノム』の名前が刻み込まれた。
一見すれば、毒抜きした食材を牢屋の連中に振る舞うだけの、毒使いの料理動画。
しかしその中身は闇ギルドの女ボスとその部下を使って、自分に危害を加えようとした闇ギルドへ『アタリつき』の毒ハンバーガーを食わせる恐怖の行為。
闇ギルドの構成員や女ボスの声など、平和に暮らす街の民は知る由もないのだ。
けれど情報が命の裏社会なら、こうして『このアシスタントが誰なのか』を察することが出来るわけで……
「……お前ら、『あの方』に絶対に下手な手出しはするなよ……」
かくしてこの日、『不可侵のヴェノム』の名は、更なる恐怖の象徴としてスラム街に刻み込まれたのだった。




