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第27話 EXTRA BATTLE?

「さてと。これからどうするかなあ」


 円筒形の台に並んで腰掛けるヴェノムとコロラドは、足をぶらつかせながら薄暗い地下の部屋で、しばって転がした悪党たちを見張っていた。


「帰っちゃダメなんですか?」

「一応、騎士団は待たなきゃダメだろ……そこに縛って転がしといた連中もいつ目を覚ますか分からないし」

「なるほどです」


 ちなみに逆鱗げきりんはナイフでどうにか砕いて布に包み直してから木箱に戻したが、完全に破壊できたかはどこかに調査してもらわなければ分からない。


「……そう言えばお前、魔法使えたんだな、あの蒼い炎」

「あれは……」

「ん?」


 手柄のはずなのに表情が暗い相棒を見て、ヴェノムは訊ねた。


「あの……マスター」

「どしたの」

「私……実は、『悪魔憑き』、なんです」

「え?」

「ごめんなさい、黙ってて……エイルアースさんには伝えたんですけど、私、言えなくて……マスター?」


 頬杖ほおづえをついたヴェノムは、心底つまらなそうにコロラドから視線を逸らす。


「……ごめんなさい、今更こんなこと言うの、失礼ですよね」

「違う」

「?」

「つまらん話題だなってだけだ」

「つまらんとは無礼よの!」

「わぁ!」


 いきなりコロラドの人格が変わり、何故か毛も伸びて白くなった。


「えっ、変身した?」

「《《顕現》》じゃ! これでも妾、かつては崇められるほどの神通力を持った大悪魔ぞ! ちなみに名前はマサラと言う」

「……悪魔って、名前バラして良いんだっけ?」

「真名のわけがかなろう莫迦バカめ。通り名にきまっておる」

「ふーん」


 どうでも良いな、と言わんばかりに顔を逸らすヴェノム。


「腹立つやつめ!」

「いや反応に困るんだよ。とっとと追い出し……あ、いや、追い出して良いのか?」

「良い訳なかろうが、また依代よりしろを探すにしてもわらわがどれ程の労苦ろうくを……あ、わかったぞ。お主、自分が『混ざりもの』だからこの話題に触れたくないのであろ! やーい《《ハーフエルフ》》ー!」

「……キレる気にもならん」


 普段なら問答無用で麻酔針の一つも刺していたところだが、おそらくは身体がコロラドのこいつ、マサラに針を刺したところでコロラドを傷つけかねない。


「やい何とか言ってみろこの……む!? おい出てこようとするな、今(わらわ)はコイツを煽り散らかしてやらねば気が済ま……ぬあぁっ!」

「一人? でうるさい奴だな」

「ご主人様、ハーフエルフ……だったんですか?」

「……あぁ」


 またしても毛の長さと色が切り替わり、いつものコロラドに戻る。

 いつもは髪で耳を隠していたヴェノムだったが、確かに人間の耳ではなく、尖ったエルフ特有の耳。

 ……それが古い傷跡だらけだったことに、コロラドは触れなかった。


「ちなみに親はいねえよ。顔も知らないしな。死んだか俺を捨てたか……どっちが人間でどっちがエルフかも知らん。知りたいとも思わんがな。村でこき使われるのが嫌で、師匠に拾われて無かったら間違いなく、今ごろスラム街暮らしだった」

「……拾ってくれた方次第で、全然違いますよね。そういうの」

「え? うん、まぁな」

「私も村でこき使われ……てたのかなあ。奴隷として生きてて、死にそうなところをこれに助けられて、親切なご夫婦に拾われたんですけど、二人が病で亡くなったらそのお子さんに売られちゃいました」

「へー、あいついいヤツじゃん、悪魔なのに」

「悪魔なのにいいヤツですよね……あ、ちょっと……ふざけるな! 妾にそれは不敬が過ぎるぞ!」


 コロコロと人格と外見を変える様子に、ヴェノムはため息しか出ない。


「で、ハーフエルフだからどうしたよ悪魔」

「別にどうもこうも無いわ。お主が気にしとるようじゃったからつついただけじゃよ混ざりもの」

「はは、だよな」


 そう。結局はそれだけの話だ。

 だというのにそれを嘲笑ちょうしょうする言葉として使うやからには腹が立つので、何となく攻撃してしまう。ヴェノムからしてみれば、それだけのことだった。


 そこへバタバタと足音がして、


「こ、これは!」

「よぉスカーレット!」


 スカーレットを筆頭に、駆けつけた騎士団員が現れる。

 ほぼ同時にマサラはコロラドに身体を返し、全身鎧の団員たちは縛られた構成員たちを見て驚くものの、即座に思考を切り替えて素早く回収していった。


「よぉじゃない! 全く心配したぞ、配信を見ながら馬車で来たが危機一髪だったではないか」

「まーな。それは良いけど、そこにしばってある連中は運んでおいてくれ」

「おっとそうだな。皆……なんだもう動いてるじゃないか。よしよし」

「優秀だな、誰かさんと違って」

「黙れ」


 ヴェノムの悪口を無視して満足げにうなづくスカーレットだったが、ふと何かに気づく。


「ところで、それが邪龍の逆鱗か?」


 床に置かれた縄でぐるぐる巻きにされた木箱を指差して、言った。


「ああ。回収は頼む。言うまでも無いが絶対に開けるなよ。絶対だぞ」

「当たり前だ。しかし……」

「しかし?」


 木箱を色が角度で眺めて、スカーレットが笑った。


「やはり何というかこう……ふはははは! この逆鱗さえあれば世界を我が手に! みたいな気分にはなるな」

「バカなことやってないで……ん?」


 部屋の中で何かが変わった、そんな予感。


「なんだ、どうした?」

「いや……なんか今、嫌な予感が……」


 部屋の魔珠は、未だ半分が光っている。

 半分に違いはないのだが、ヴェノムの目にはそのわずかな違いにしばらく気づかなかった。


 ――そしてそれが、失策だった。


「……まずい!」

「何か食ったのか?」

「違う! 早くそいつを投げ捨てろ!」

「えっ? あ……」

「バカ野郎!」


 バシン、とスカーレットの手が叩かれ、ヴェノム達から少し離れたところに落ちる。

 縄で強く縛ったはずの木箱はたやすく内部から割れ、周囲の魔珠が全て点灯して魔力を逆鱗へと注入する。


「まずい離れろ!」


 ぽふん、と白い煙を浮かせて、床に現れたのは禍々《まがまが》しい漆黒しっこくの卵だ。


「ち、小さいな?」

「よく見ろ上だ!」

「上?」


 スカーレットが言われた通り天井を見る。するとそこにはさっき湧いた、一見可愛らしい雲のような小さな煙がふわふわと上っていく。


「あれがどうし……」

「よく見てろ、これが邪龍だよ」


 そしてその小さな雲が天井に触れた瞬間、


 ――ジュワアアアアアアアアアア!!


 まるで油鍋あぶらなべに水を注ぎ込んだような音がして、雲の形に穴が開く。

 そこからしたたった液体は真下の卵に落ちて、心臓を鼓動させる音とともに赤いヒビが入った。


「な、何だあ!?」

「だから幼龍だよ、ただし邪龍のな!」

「もうどうしようもないのか!?」

「いや、まだ魔法ならどうにかなる! ただしあれがカラを出て、呼吸を始めたら空気より軽い無色透明非可燃性の即死毒を吐き出し続けるぞ!」

「ええっ!? あ、でもここ地下ですし……」

「魔珠がありすぎる! むしろ暴走しかねない!」

「どうすれば良い!? ヴェノムお前、一度はアレを討伐したポイズンマスターだろう!」

「あのときは包囲戦だ! たったこれだけでバフもデバフも無しに魔法を叩き込めるわけが……あ」

「あ?」


 魔法。この状況でたった一つだけ、答えは確かにあった。


「ああ、なるほど閃いたぞ!」

「え、ちょ……」

「フフフ、こういう時のための私、スカーレットと言うわけだな!」


 堂々たる腕組みをして、その鎧に魔力を巡らす。


「おい待てスカーレット!」

「わかっているさ、カラが割れて中がのぞいた瞬間、私の絶技を叩き込む! 龍とはいえ魔物なら問題ないからな! そら見ろ、割れたぞ!」


 パリッ、と確かに音がして、殻が内部に一欠片ひとかけら落ちる。


「行くぞ、私の【|不思議で無敵で不殺のソードオブワンダー!】ーッ!!」

「待てって言ってんだろ話を聞けこの大馬鹿剣士がああああああ!!」


 放たれた膨大な炎は、確かに卵の殻の穴を的確てきかくに突いて、中の幼龍を跡形もなく焼き尽くした。

 しかしその《《煙》》は勢いよく天井まで吹き上がって、ビシビシと誰が聞いても明確な崩壊の予兆を知らせる。


「あ、そうか……すまん」

「お前これで俺たちが死んだらたたり殺すからな!」

「と、とにかく早く逃げましょう!」

「スカーレット、お前コロラドを背負って先に行け! もし万が一なんかあったらマジで殺すからな!」

「わかってる! お熱いことだな」

「ご主人様……」


 かくして部屋を飛び出したヴェノム達は螺旋らせん階段を駆け上がり、どうにか脱出した。だが、『サソリ薔薇バラの星座亭』の地下はそのまま崩壊。

 闇ギルド『毒華どくはないばら』の活動の証拠ごと、深く地の底に沈んだのだった。


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