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第25話 女頭領は毒使いと対峙する

「くそ、思ったより長い……!」


 螺旋らせん状の石の階段を駆け下りながら、ヴェノムはあせっていた。

 鍵で開けた隠し扉の下はさらなる石の階段で、最初は先の見えない空間をいつくばるようにして進んでいたが、罠は無さそうだと判断した瞬間に立ち上がって先へ走った。

 もちろん危険極まりない行為だったが、ヴェノムの思考はコロラドの無事を願うだけ。大して時間はっていないと理性がうったえても、不安がそれを押し潰した。


「いつまで続くんだよこの……っ、そこかぁっ!」


 足音の反射の違いでこの先が終点なことを理解して、息も整えずに正面の扉を蹴り飛ばす。

 強化魔術バフの効いた蹴りはたやすく木の扉を破壊して、その先には犬マスクにマントの集団が、魔珠を床に散りばめた祭壇さいだんのある部屋の入口を囲うように立っていた。


「今だ、かきゅっ」

「遅ぇよ」

「ゴボ、ァ……」


 犬マスクの胸に刺さった投げ矢が毒を放って、泡を吹いて倒れる指示を出そうとした男。

 それを見た周りの犬マスクたちは直ちに攻撃に思考を切り替えたが、その時点で既に彼らの視界は歪んでいた。


「れ、ぁ……くぃ()、が……」

「閉じてろ」


 舌の回らないまま犬マスクたちは仰向けに倒れ、ぐねぐねと腕で空をかく。

 8名いた犬マスクたちは、既に全員が毒で頭と舌を機能停止させられていた。


「ふん、やるなヴェノム・ヴィネー。流石は『不可侵ふかしんのヴェノム』と言ったところか」

「テメェがボスか? 来てやっただろ、そいつを離せ」

「良いだろう。ただし……これを動かしてからだ」

「それは……」


 祭壇の上で顔を布で隠した女が取り出したのは、見覚えのある魔珠……コロラドに持たせていた撮影用の魔珠だった。

 いつからかライブ配信されているであろう現状を知って、一瞬ヴェノムは助けを外に求めることを考える。


「……他者ヒトのチャンネル乗っ取って、何がしたい?」

「なあに、大したことじゃないさ。ヴェノム、私は貴様の『顔の中身』が見てみたいだけだ。まずこのむちほおを割いて、この指でそれを広げ、片目をえぐり取って劇薬を流し込み、歯を叩き折って舌に差してやるだけで許してやろう」

「……新しいな、自首動画か?」

「なに、騎士団などもはや役に立たんさ。すでに部下は散らした。同時に街で多発する火事に騒ぐ間に、私はここで計画を完遂かんすいする!」

「くっ!」


 鞭がしなり、一瞬前までヴェノムの顔があった位置を通過して、背後の石畳を叩き割る。

 するとそこから広がった魔力の波動がどす黒く近くの魔珠を起動させ、その反応が連鎖していった。


「これは……」

「見るがいい、そして感じろ! 私の怒りを、屈辱を、絶望をぉ!!」


 起動した魔珠から魔力が目に見えてコロラドの寝かされた祭壇の上に流れる。


「コロラド!」

「ふん、必死だな。よく見ろ、魔力を吸っているのはこの逆鱗げきりんだ……かつて5つの王国を滅ぼした邪龍のな!」

「5つの国……? まさか邪龍王ボツリヌスか!? 自殺志願なら余所よそでやれ! あんなものは龍ですらない、龍の形をしただけの生きた毒だぞ!」

「ん? ああそうか、貴様は幼龍ようりゅうの討伐隊にいたな」

「逆鱗を盗んだのはその時か……!」


 黒の森は、数年前に邪龍王ボツリヌスの幼龍がダンジョンの奥に現れた場所だった。

 探索に向かったソロ冒険者が『毒で死んだ猛毒コウモリ』を見つけた瞬間に撤退を選んだ大ファインプレーのおかげで、この街は今も無事だと言って良い。

 その帰還と同時に即座に討伐隊が組まれ、ノンストップでダンジョンを攻略した先にいたのは、まだ卵の粘液に塗れた幼竜だった。

 そしてその卵の液体ですらダンジョンそのものを溶かし続ける猛毒であり、射手アーチャーの放った矢も幼龍のあくびで液体と化した。

 なんとか遠距離からの弱体化魔法デバフや煙幕による呼吸困難、最終的に親の逆鱗を遺して死ぬ(ドロップする)まで焼き続けると言う手段を取って討伐したが、それでもその煙はダンジョン内ほぼ全てのモンスターを殺して霧散している。これでもし、幼龍が逆鱗に魔力を注いでいればヴェノムたちは生きて帰れなかっただろう。


「黒の森は近場だからな。構成員を向かわせたのさ。盗み出した者はここで腕から溶けたがな!」

「素手でさわったのか!? 邪龍王の逆鱗を!?」

「触らせたのさ! いい見物だった!」

「バカもここまで来ると清々《すがすが》しいな……!!」


 怒りもあらわにヴェノムが叫ぶ。


「ところでヴェノム、激高したフリで誰かを待っているようだが……メガクィーも病院に野放しではあるまい? 騎士団が万が一にでも来られたら面倒だ。恨みを晴らさせて貰うぞ。貴様のチャンネルでな」

「……恨み?」

「ああ、恨みだ。思い返す度に臓腑ぞうふが焼かれ、目覚めとともに貴様の名がよぎる! おかげでずいぶんと他者に優しくなれたよ、この恨みの前では部下の失敗など児戯じぎも児戯だ!」

「恨み、だよな……?」

「……?」

「恨み……」

「おい」


 その『おい』は、場の気温を氷点下まで下げる。

 しかしヴェノムがだらだらと流す大量の脂汗あぶらあせが全てをバラしていた。


「まさか忘れてはおるまい? 忘れたとは言わぬよなぁ、忘れたとは言わさんぞ、ヴェノム・ヴィネー……ああそうか、私としたことが名乗っていなかったな。貴様に顔を焼かれた女、オブーナン・カーンだ!」


 顔布をはがし、女頭領は素顔を晒した。

 しかしヴェノムには、未だ心当たりがなく……


「……ああ!」


 思い出した! と言わなかったことは、まさに命拾いだった。


「逃げたと思ったか? 死んだと思ったか!? 残念だったな『混ざりもの』め、私はこうして生きて舞い戻っ……」

「ツィガ婆のトラップに引っかかったの、お前だったのか!」


 しかしヴェノムは、拾った命を投げ捨てた。


「スラム街で『女強盗団の頭目の顔を焼く、『不可侵ふかしんのヴェノム』様じゃないですか……』とか言われて心当たりがなかったんだよ、でもツィガ婆のところで言われたなぁ確かに!

 いやあれ、有名店の香水のビンを拾ったから部屋を離れる前に劇毒入れといたんだ、ちょうど良くキレイな青色だったから! お前……アレをいきなり顔に噴いたのお前だったのか……? 香水の使い方としてダメだろ、それは……」


 ――言葉は、無かった。

 二人は知る由もないが、突如なんの前触れもなく始まったヴェノムの配信はそのただならぬ雰囲気や生声のヴェノムが出演していることから、内容に関係なく爆発的に再生されていた。

 最初こそ戸惑いの声ばかりだったものの、


『え、これどこ? スラム街?』

『一箇所にこれだけの魔珠はヤバくね』

『スラム街消滅?』

『ボツリヌスって、黒の森のダンジョンに出たやつ?』

『逆鱗+魔力とかいうお手軽自殺コール、龍が来てみんな死ぬ件』

『この女の胸デカくね?』

『尻が至高』

『スタイル良くても性格終わってそう』


 と、ふざけたものに変わり、最終的には


『あ、身バレ確定』

『ヤバくね』

『オブーナンって死んだんじゃないのぉ?』

『香水盗もうとして劇毒被げきどくかぶった?』

『笑ったら殺されるけど笑うだろこんなん』

『混ざりものって何?』

『どうせこれがガチなら俺ら死ぬしかないし、笑うほうがマシだろ』

『よし、死因はわかるな!(邪龍王ボツリヌス)』

『恵まれた肉体に残念な頭、コレが闇ギルドの長とかマジ?』

『騎士団無能やん』

『逆に考えるんだ、無能過ぎて捕まらないんだ』

『おいヴェノムなにをしているんだはやくつかまえろ! あときしだんのわるぐちはやめろ!』

『騎士団員いるじゃん』

『なりすまし止めろ』


 などと、完全に盛り上がっていた。


「――殺す」


 場に満ちた魔力を自分に集め、祭壇の上で闇ギルドの女ボスが爆発的な魔力を鞭に注ぐ。

 そしてその背後で浮かぶ魔珠は、あらゆる地区からの魔力を注がれて輝きを増す。


「貴様はこの手で殺す! 絶対に殺してやるぞヴェノムヴィネェエエェェエェェエエエエェエエェエエェェ!!」


 およそ床の魔珠は半分が光っている。

 それが全て光った時、逆鱗に注がれた魔力がび出すのは間違いなく、この街を一息で滅ぼす邪龍だった。


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