第70話 裁きの光
「シルヴァーナ! どうやってここに!?」
壇上には王族が一堂に会している。もちろんシャロンもいて、シルヴァーナを怯えたような目で見つめていた。
「わたくしは逃げも隠れもしない。そしてわたくしを傷つけることも、支配することもできない」
シルヴァーナはできるだけ尊大にしゃべった。それはロロに冷酷な女王のように話せと言われたからだ。苦手なしゃべり方だったが、そうするのが一番効果的だと言われて、どうにか話し続ける。
「わたくしはティエール神の聖女。不死であり光の癒しを与える者。神のご加護を受けしわたくしに、危害を加える者に裁きを与えに来た」
「な、なにを言っている?」
ライアンは困惑しながらも、こちらにゆっくりと近付いてくる。シャロンは青ざめ、周囲はざわめいている。
シルヴァーナは近付いてくるライアンを睨み付け、持っている杖の先を突き付ける。
「わたくしの力を試すためだけに、矢を放ち、この胸に槍を突き刺したライアン・ヴィルシュ! そして、醜い女の嫉妬心で、わたくしに毒を盛ったシャロン・ヴィルシュ!」
杖の先をシャロンに向けると、シャロンはビクリと身体を竦め、国王の背後へと逃げる。
ライアンも他の王族も驚いてシャロンを見た。その視線を受けて、ますますシャロンは小さくなった。
「本当か!? シャロン!」
「嘘です! わたくしはそんなことしていませんわ!!」
ライアンの問い掛けに、シャロンは首を大きく振ると必死に訴える。
「わたくしに嘘は無意味です。祖父だと名乗ったあの男性も赤の他人でしょう。祖母も、あの屋敷も。あなた方はすべてを嘘で塗り固めている。国民にまで嘘を吐いて、何を成そうというのです」
「私は聖女の力を試しただけだ。すべては国のため。私のしたことは国の総意であって、私に非がある訳ではない」
ライアンはまったく怯んだ様子もなく答える。その言葉にシルヴァーナは眉を顰めた。
「よかろう。二人とも反省も懺悔もしないということだな」
シルヴァーナはそう言うと、杖を掲げる。
「ならば神の裁きを受けよ!!」
高らかにシルヴァーナの声が響き渡ると、目映い光が杖の先から放たれライアンとシャロンを打ち抜いた。
「キャー!!」
「な、なんだ!?」
二人の悲鳴を聞きながら、シルヴァーナは動揺を隠してまっすぐに二人を見据える。
(え……、なに!? どうなったの!?)
ロロは二人を殺す訳ではないと言っていたが、どうなるのかと思って見つめていると、ゆっくりと光が落ち着いてくる。
そうして倒れ込んでいた二人の姿を見て、全員が目を見開いた。
そこにいたのは、真っ白な髪に深い皺が刻まれた顔の老人二人だった。
「ラ、ライアン!?」
「シャロン! あなたなの!?」
国王と王妃が驚き、二人に駆け寄る。国王よりもよほど年上になった二人は、自分がどうなったのか分かっていないのか、ゆっくりと起き上がるとお互いを見て悲鳴を上げた。
「ライアン様……、どうして……、いや……、私も年を取って……いや、……いやああああ!!」
シャロンはライアンを見た後、自分の手を見つめて真っ青になると、引き裂くような悲鳴を上げて床に突っ伏した。
ライアンもまた自分の手を見つめて呆然としている。
「パトリック様、どうぞ、こちらに」
縛られたままだったパトリックに杖を向けると、縄が溶けるように消え失せる。
「シルヴァーナ……」
「ご無事で何よりです。パトリック様」
にこりと笑ったシルヴァーナは、もう一度厳しい眼差しになると、国王に目を向けた。
「ヴィルシュ国王よ、わたくしに今後一切手を出さないと誓約しなさい」
「そ、そのようなこと……」
「この国のしたことは許し難い。だが誓約するのなら、二人のことを許してやっても良い。どうだ?」
国王は顔を歪め口を閉ざす。
「他国の聖女を拉致監禁したことが他国に知られれば、この国の評判はがた落ちだろう。今、誓約するのなら、この件を公にはせぬぞ」
「父上……、受け入れて下さい。私はこのままなんて嫌です……」
「陛下! お願いです! わたくしを元の姿に戻して下さい!!」
二人の訴えに、国王はついにがっくりと肩を落とすと頷いた。
「……分かった。誓約する」
国王の言葉にシルヴァーナはホッとすると、杖でドンと床を突いた。
「賢明な判断だ」
「聖女よ! ライアンを元に戻してくれ! 頼む!!」
膝を突いて懇願する国王に、シルヴァーナは冷えた目を向ける。
「醜き心を悔い改め、奢りを捨て、国民のために善行せよ。さすればいずれ神の許しを得られるであろう」
穏やかな声でシルヴァーナがそう言うと、杖の先がもう一度光り輝き、周囲を目映い光で照らしたのだった。