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第34話 罪は暴かれる

「王妃……様……」

「ベッドから出たのは久しぶりよ。ありがとう、シルヴァーナ」


 そう言って微笑んだ王妃に、シルヴァーナは跳ねるように立ち上がると、嬉しさのあまりつい抱きついてしまった。


「王妃様!!」

「うふふ、小さい頃みたいね」


 王妃はそう言って、シルヴァーナの背を優しく撫で下ろしてくれた。

 それから王妃とテーブルで食事をしていると、国王が慌てた様子で部屋に入ってきた。


「ブリジット!!」

「あなた」


 国王は王妃の様子を見ると、泣きそうな笑顔で走り寄りそのまま抱き締めた。


「元気になったんだな!?」

「ええ」

「熱は? 咳は出ていないのか?」

「もう大丈夫よ。シルヴァーナがすっかり治してくれたわ」

「そうか、良かった……。本当に良かった……」


 国王はそう言うと王妃から離れ、シルヴァーナを見た。


「シルヴァーナ、ありがとう。なんとお礼を言ったらいいか……」

「そんな……。私はスープを作っただけですから……」

「それが君の力なんだろう。もう少し王妃のそばにいてくれるか?」

「もちろんです。回復するまでおそばにいさせて下さい」


 それから国王は一時王妃のそばにいると、仕事に戻って行った。



◇◇◇



 そして8日後――。

 国王の呼び出しを受けて、シルヴァーナは城の奥の部屋に案内された。

 重厚なドアの前には二人の兵士が立っていて、物々しい雰囲気を感じシルヴァーナは緊張して部屋に入った。

 室内を見渡すと、広い部屋には正面に玉座が、そして長いテーブルが二つ置かれ、そこには黒い服を着た男性が数人座っている。そして部屋の中央に置かれた椅子には、ベルンハルトとコンスタンスが間を空けて座っていた。


「シルヴァーナ!!」

「ベルンハルト」


 ベルンハルトがこちらを向くと勢いよく立ち上がる。するとなぜかそばに座っている男性が、わざとらしく咳払いをした。


「フェルザー男爵、着席を。シルヴァーナ・オーエン嬢も、どうぞそちらの席に着席をお願いします」

「は、はい……」


 突然自分の名前を呼ばれて焦ったシルヴァーナは、そそくさとベルンハルトの隣に座った。

 少し離れた場所に座るコンスタンスをちらりと見ると、その横顔は青ざめているようにも感じたが、背筋をスッと伸ばし毅然としているように見える。


「ここ、何の部屋かしら」

「ここは裁判が行われる部屋だ」

「裁判?」

「それより、王妃様の治療は上手くいったのかい?」

「それは、」


 これまでの経緯を話そうとした瞬間、バタンとドアが開いた。ビクッとして視線を送ると、アシュトンが兵士に連れられて入ってくる。その手に枷が付けられていて、シルヴァーナは驚いた。


「これを外せ! 私は王太子だぞ!? 何の権限があって私に枷など付けるんだ!!」


 アシュトンの喚き声が部屋に響く。その視線がはたと合った。


「シルヴァーナ! どうだ!? 奇跡は起こせたのか!?」

「アシュトン様……」


 こちらに近付こうとするアシュトンを兵士が押し留める。


「どけ! 何なんだ、お前は!! 所属と名前を言え!!」

「アシュトン! その口を閉じよ!」


 突然、激しい声がしたと思ったら、国王が部屋に入ってきた。その後ろにドレス姿の王妃がいて全員が目を見開く。


「王妃様!」

「そんな!?」


 シルヴァーナとコンスタンスが同時に立ち上がり声を上げた。二人に視線を送った王妃はにこりと笑うと、玉座の隣に用意された椅子にゆっくり座る。


「もう一人呼んだはずだが、まだ到着していないようだな」


 国王も玉座に座り、共に入ってきた騎士に目配せすると、騎士はささっと部屋を出て行った。

 それから嫌な沈黙が部屋に流れた。これから何が始まるんだろうと、シルヴァーナが固唾を飲んで待っていると、しばらくしてまたドアが開いた。

 そうして室内に入ってきたのは、バルト教皇だった。


(教皇様……?)


「よし。全員が揃ったようなので、始めようか」


 国王がそう言うと、黒い服を着た男性が大きな杖でドンと床を突いた。


「今回、シルヴァーナに関する一連の事件に関して、決着がついたと判断したため、この場を設けた。シルヴァーナ、コンスタンス。立ちなさい」


 シルヴァーナは指示された通りに立ち上がるが、コンスタンスはなぜか立ち上がらない。気になってそちらを向くと、コンスタンスは冷や汗をかいて震えているようだった。


「コンスタンス、立ちなさい」


 もう一度強い調子で国王が言うと、コンスタンスはやっと立ち上がる。


「二人には聖女の力を使い、王妃を治してほしいと願った。王妃を治したのはシルヴァーナだ。コンスタンス、君はそれを認めるか?」

「み、認めません……。シルヴァーナは聖女ではありません! 化け物です!! 化け物の力を使って王妃様を治したように見せかけているだけです!!」


 コンスタンスは必至に訴える。


「そうか。ではシルヴァーナの力の真偽は後にするとして、コンスタンス。君の奇跡の話をしようか」

「わたくしの!?」

「シルヴァーナは座りなさい」


 国王に言われ、シルヴァーナはまたイスに腰掛ける。するとベルンハルトが手を伸ばし、ギュッと手を握ってくれる。


「コンスタンス、君はシルヴァーナが病死した途端に聖女として力に目覚めたというが、それは本当か?」

「そ、そうです……」

「どうやって聖女だと知った?」

「それは……、神の啓示があったのです! 新たな聖女になり国を救うようにと、神の声を聞いたのです!!」

「なるほど……。確かに教会からはそういう報告を受けている。バルト教皇、間違いはないかね?」

「……は、はい……」


 バルト教皇は額の汗を拭いながら、ものすごく小さな声で頷く。


「アシュトン、お前はコンスタンスにどういう風に言われたか、覚えているか?」

「私はコンスタンスに、シルヴァーナは偽聖女だと言われたんだ!」

「う、嘘です! そんなこと言っていません!!」

「嘘を吐いているのはお前だ! コンスタンス!!」

「どちらが本当の事を言っているのだ?」

「わたくしです!!」

「私に決まっている!!」


 二人は醜い顔をして言い合っている。それを見る国王の目は少し悲しそうだった。


「二人の言い分は分かった。ではここからは事実を確認していこう。アシュトン、お前がシルヴァーナを刺したのは本当だな?」

「そ、それは……」

「これはその場に居合わせた修道女が証言してくれた。ずっと訴えたかったが、教皇に口止めされていたと言っていたが、本当か? 教皇」


 バルト教皇は顔を歪めて下を向いてしまう。国王は返事を待たずにまた口を開いた。


「呼吸の止まったシルヴァーナを棺に入れ、秘密裏にメルロー村へ運ばせた。これはお前のお抱えの騎士が証言した」


 国王はこの数日間ですべて調べ上げていたようで、淀みなくすべてのことを暴いていく。それにシルヴァーナは驚きながらも、事の成り行きを見守る。


「シルヴァーナがメルロー村で生活している時、もう一度襲われたとフェルザー男爵から聞いた。シルヴァーナ、それは本当か?」

「はい。男性二人に襲われました」

「それはこの二人ではないか?」


 そう言うと、ドアが開いて兵士が縄で縛られた男二人を連れてくる。その顔を見た瞬間、シルヴァーナは目を見開いた。


「あ……、そ、そうです……」


 震える声でそう言うと、繋いでいたベルンハルトの手を強く握り締める。

 あの時の恐怖が蘇ってきて、胃の奥がギュッと掴まれたような感覚に顔を顰めた。


「この二人はエドニー侯爵の使用人、いや、私兵なのだが、コンスタンスは見覚えはないか?」

「……し、知りません……」

「そうか。では、続けよう。アシュトンはその後、シルヴァーナに会いにメルロー村に行ったな?」

「い、いいえ……」


 アシュトンが弱い声で首を振る。


「余には西の国境の砦を視察に行くと言っていたが、砦を守る騎士隊長は、お前は来ていないと言っていたぞ」

「そ、それは……」


 おどおどと視線をうろつかせるアシュトンからは、もはやいつもの威圧的な態度は消え失せていた。

 青い顔を俯かせて、額にうっすらと汗が浮いている。


「メルロー村の村人の証言もある。真実だけを述べよ。さて、その後、お前は王太子の権限でフェルザー男爵とシルヴァーナを城に呼びつけた。お前はそこで何をしようとしていたんだ?」

「……私は、私の本当の婚約者を呼び寄せただけです! シルヴァーナは私の婚約者です! 何かいけないのですか!?」

「お前はその当時、コンスタンスと結婚すると言っていたではないか。あれも嘘だったのか?」

「そ、そうではありません。あれはコンスタンスが自分は聖女だと言っていたので、結婚するのが当然だと……」

「お前は聖女なら誰でも良いのか?」


 国王がそう言うと、なぜかアシュトンはキッと国王を睨み付けた。


「王太子が聖女と結婚するのは当たり前でしょう!? 聖女が誰だって関係ない! 私の妻が聖女であることが大切なんだ!!」

「アシュトン……。お前はどうしてそんな考え方を……」


 アシュトンの言い分にそれまで表情を変えなかった国王が、初めて顔を曇らせた。

 眉根を寄せて首を振る。


「……お前はその考えで舞踏会を開き、シルヴァーナを捕えることを画策した。具合の悪いシルヴァーナの実の母までも使ってな。アシュトン、なぜ舞踏会を開いた? すぐに捕らえることもできただろう?」

「シルヴァーナがフェルザーの妻だと言い張ったからです……。だから皆の前でシルヴァーナだと認めさせたかった……」

「それでお前の取り巻きの貴族たちを、あんな危険な場に揃えたのか」

「危険なことをするつもりはなかったんです! 途中で近衛騎士がなぜか紛れ込んで、あいつが剣なんて出さなければ……」

「だがお前は騎士たちにフェルザー男爵を殺させるつもりだっただろう。『殺してもいい』と命令していたと、貴族たちから証言が上がっているぞ?」


 国王の指摘にアシュトンは顔を歪ませてまた下を向いてしまう。


「お前はそうしてシルヴァーナを捕えると、個室に連れて行った。そして、またシルヴァーナを殺した」

「私ではない……。私が殺す訳ないじゃないか……。私は、シルヴァーナを妻にするつもりだった! 本物の、不死の聖女を妻にするつもりだったんです!! 殺したのはコンスタンスの連れて来た男たちです!!」

「コンスタンス、本当か?」


 国王がコンスタンスに視線を送ると、コンスタンスはスカートを握り締めて首を強く振った。


「わたくしは知りません」

「そうか。ではシルヴァーナ本人に聞いてみるとしよう。シルヴァーナ、どうだ?」


 シルヴァーナはそう問われて、ゆっくりと立ち上がる。そしてコンスタンスを見つめた。目が合ったコンスタンスは燃えるような目で睨み付けてくる。

 その視線を一度真っ直ぐ受け止めると、前を向いた。


「私を殺したのは、コンスタンスです」

「嘘よ!!」

「一度は、王太子殿下に。二度目と三度目はコンスタンスに、私は殺されたんです」


 はっきりと言うと、それまで完全に沈黙していた黒い服を着た男性たちが、息を飲んだのが分かった。それから隣に座る人と何事かを話している。


「嘘を言うんじゃないわよ!! 化け物!! お前の言うことなど誰も信じないわ!!」

「黙りなさい、コンスタンス。なぜシルヴァーナをそんな風に言うんだ」

「陛下! 惑わされてはいけません! あの女は化け物です!! わたくしは王家に災いが降りかからぬように、先に手を打ったのです!!」


 コンスタンスの必死の訴えに、国王は表情を変えず話し続ける。


「では、そのシルヴァーナと君の、聖女としての資質の話をしようか」


 その言葉に、コンスタンスの表情が強張った。


「王妃の様子を見てもらえれば分かるが、王妃の体調はかなり回復した。今日はこの場にいたいと申し出たゆえ連れて来たが、王妃、具合はどうだ?」

「もうすっかり良くなりました。これも聖女のお陰ですね」

「そうか、それは良かった。さて、コンスタンス。君はこの結果をどう思うかね?」

「……わたくしの奇跡が王妃様を治したのだと思います」


 慎重に言ったコンスタンスの言葉に、シルヴァーナは驚いた。まさかそんな風に言うとは思わなかった。

 国王はコンスタンスをじっと見つめ、怪訝な表情で首を傾げる


「それは不思議だ。君が祈りを捧げた7日間、王妃の体調はまったく変わらなかったと私は感じたのだが」

「今回はそれ以降に治癒の力が満ちたのです。ですからシルヴァーナが癒したのではありません」

「なるほど……。だが、君が王妃に飲ませた薬は即効薬で、遅効性はない薬だと思っていたが」

「なっ……!?」


 コンスタンスは激しく動揺したのか、身体を揺らした拍子にガタッとイスが鳴る。

 そうしてみるみる内に真っ青になると、唇を噛みしめ顔を歪める。


「君が以前起こした奇跡も、病人に高価な薬を使って治したとバルド教皇が証言している」

「……そ、そんな……こと……」

「聖女はそんな小細工を使って奇跡を演出することはない。歴代の聖女は、皆神の力を使う本物だった。そしてシルヴァーナもまたその一人だ」

「嘘……嘘……、嘘よ!! シルヴァーナが神の奇跡を起こせる訳ない!! じゃあなぜ今まで奇跡を起こしてこなかったのよ!? 今更なんで!!」


 激昂したコンスタンスがシルヴァーナに詰め寄る。それを慌てて兵士が押し留めた。

 兵士に身体を抑えられながらもコンスタンスは止まらない。


「聖女なんてまやかしよ! シルヴァーナも何か薬を使ったんだわ!! なにが聖女よ!! 単なる政治の道具じゃない!!」

「コンスタンス……」


 叫び散らすコンスタンスに、シルヴァーナは怖ろしさを感じた。よろけるように一歩下がると、ベルンハルトが立ち上がり両肩を支えてくれる。


「大丈夫か?」

「え、ええ……」


 ベルンハルトとシルヴァーナがイスに座るのを待ってから、国王がまたコンスタンスに話し掛ける。


「コンスタンス、君は聖女を否定するのか」

「違います! 否定しているんじゃありません! 聖女は王家に必要でしょう!? 馬鹿な国民を従わせるためには絶対に必要な存在です!!」

「だから自分が聖女だと言い出したのか? 王太子妃になるために」

「ええ、そうよ! こんななんの取り柄もない女が王太子妃なんて、分不相応すぎるでしょ!? わたくしなら王太子妃に相応しい! 侯爵令嬢でそして聖女なら申し分ないじゃない!!」

「聖女という立場になるためにシルヴァーナを偽聖女に仕立て、アシュトンを唆した。そしてバルト教皇に賄賂を渡し、聖女としての奇跡を演出した。国民を騙し、王家までも騙し、それでも君は王太子妃になりたいという訳か」

「騙してなんて……」


 国王は大きな溜め息を吐くと、アシュトンを見た。


「このような者に騙されおって……」

「父上……」

「シルヴァーナは自ら料理を作り、それを食べた王妃は元気を取り戻した。それは事実だ。それが奇跡かどうかは、本人も我等も分からない。だが今見ているものが事実なのは確かだ」

「コンスタンス。わたくしはシルヴァーナの優しさに癒されたと思っています」

「王妃様……」


 シルヴァーナが呟くと、王妃はこちらを見てにこりと笑う。


「シルヴァーナは7日間、寝ずの番までしてわたくしのそばにいてくれました。温かくて美味しい料理はとても心がこもっていて、シルヴァーナの優しい思いが伝わったわ」

「料理!? そ、そんなもの……」

「聖女の資質は、奇跡を起こせるかどうかではありません。ましてや王家のために存在する訳でもない。神の使いとして、国民の心の支えになるのが最も大切な仕事なのです」


 王妃の諭すような言葉に、コンスタンスは唇を噛み締める。


「さて、事の真相はこれで大部分が明かされたと思う。後は本人たちの話を個別に聞くだけだ」

「ま、まさかまた牢に入れるつもりですか!? 父上!!」

「お前はシルヴァーナを殺害した罪がある」

「シルヴァーナは生きています! 罪などありません!! シルヴァーナが聖女だと分かったのなら、私と結婚させて下さい! お願いします! 父上!!」


 アシュトンが声を上げると、国王はゆっくりと立ち上がりそばに歩み寄る。それを見て許してもらえるかとアシュトンが顔を緩めた瞬間、パンッと頬を打つ音が部屋に響いた。


「どこまで自分勝手なのだ、お前は! 人に剣を向けた以上、その責任は必ず問われる。地位や立場など関係ない。お前はシルヴァーナを傷付けた。その罪は償わなければならないんだ!!」


 国王の厳しい声にアシュトンはただ呆けたような表情になると、へなへなと床に座り込んだ。

「連れていけ」と国王が言うと、アシュトンは兵士に引っ張られるように部屋を出て行く。それを見送ると、今度はコンスタンスに目を向けた。


「コンスタンス、このすべてを君が計画したとは思えない。これから取り調べがあるが、嘘偽りなく話した方が身のためだ。いいね?」

「取り調べなんて……そんな……、わたくしは悪くない……、絶対悪くないんだから……っ……」


 悔しそうにそう呟くと、アシュトンと同じように床に座り込んで泣き崩れた。そんなコンスタンスを兵士が腕を引っ張り立たせると、部屋から連れ出した。

 そして視線を向けられたバルト教皇は、ハッとして自分から口を開いた。


「わ、私は、賄賂は受け取りましたが、侯爵に脅されていたのです! コンスタンス嬢の言うことに従うしかなかったのです!!」

「自分は悪くないと?」

「賄賂を受け取った罪は償います! ですが、どうか教皇の地位だけは……、お願い致します!!」

「それは余が決めることではない。調べが終わった後、ここにいる裁判官たちが決定を下す。それまでは大人しく取り調べを受けよ」

「陛下! 陛下!! お慈悲を!!」


 泣きながら手を合わせる教皇もついに退出し、後はシルヴァーナとベルンハルトだけになった。


「シルヴァーナ、王妃のことが心配でアシュトンを野放しにしていたのは余の罪だ。すまなかった」

「わたくしからも謝罪するわ。王太子だからと甘やかして育ててしまったのがいけなかったのね。あなたに大変な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」


 二人が揃って頭を下げる。それを見てシルヴァーナは微笑むと弱く首を振った。


「頭をお上げ下さい、陛下、王妃様。私こそ感謝致します。誰も傷付かずに済んだのは陛下のお陰です。ありがとうございました」

「いや……。さて、今日はここまでだ。閉会にしよう」


 国王はそう言うと、黒い服の男性たちはぞろぞろと退出していく。


「シルヴァーナもフェルザー男爵も、城に留まってもらってすまなかったね。家に戻って構わない。また城に来てもらうだろうが、それまでゆっくりしていてくれ」

「はい、分かりました」


 こうして部屋を出たシルヴァーナとベルンハルトは、やっとタウンハウスに戻れたのだった。

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