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第30話 国王からの提案は

「ち、父上……。なぜここに……」


 驚くアシュトンを尻目に、国王はシルヴァーナを見ると膝を突いた。


「本当に聖女シルヴァーナか……。この血は? 大丈夫なのか?」

「陛下……、私は……大丈夫です……」

「貴公がフェルザー男爵か」

「はい」


 国王は深く頷くと、立ち上がりアシュトンを睨み据えた。


「どういうことなのか、話を聞こう」


 兵士たちが倒れた男たちを連れていく間に、シルヴァーナはだいぶ回復して呼吸も楽になった。

 ベルンハルトが背中を支えてくれて口元を拭うと、ハンカチにべっとりと付いた血に眉を寄せる。


(また私……死んだのね……)


 痛みと共に一瞬で意識が飛んだのは覚えている。次に目を開けるとベルンハルトが泣いていた。だからそれで自分が死んだのだと理解した。


「フェルザー男爵が書いた手紙を読んだが、シルヴァーナを偽物だと断じて殺したそうだな。アシュトン」

「そ、それは……、コンスタンスがいけないのです! シルヴァーナが偽物だと言うから! わ、私は……。で、でも! シルヴァーナは本物でした!! 不死の聖女なのです!! だから」

「だから殺してもいいと言うのか?」

「そ、それは……」


 厳しい国王の声にアシュトンは言葉を途切れさせる。


「コンスタンス嬢。現聖女である君が、なぜシルヴァーナを偽物だと言う? そういう神の啓示があったのか?」

「そうです! シルヴァーナは聖女ではなく、化け物だと神のお告げがあったのです! だからわたくしは殿下にご忠告したのです!」


 コンスタンスは気持ちを持ち直したのか、強い口調で国王に訴える。

 国王は少し考えると、シルヴァーナに目を向けた。


「シルヴァーナ、君は神の声を聞いたか?」

「……いいえ」

「村人の病気を治したと聞く。それは神の奇跡ではないのか?」

「違うと思います……」

「シルヴァーナ!」


 シルヴァーナが弱く首を振ると、ベルンハルトが眉根を寄せてこちらを見た。

 国王はシルヴァーナの答えにまた少し考えた後、兵士に指示を出した。


「アシュトンを牢へ入れておけ」

「父上!!」

「自分のしたことがどういうことなのか、牢でよく考えよ」

「そんな!!」


 国王の言葉にアシュトンが悲痛な声を上げる。それを黙殺すると国王は「早く連れて行け」と冷たく命令した。

 アシュトンの懇願する声が遠ざかると、部屋には気まずい空気が流れた。これからどうなるのかとシルヴァーナが不安に思っていると、国王は静かに話し出した。


「王妃のことに気を取られて、アシュトンが何をしているかまったく気付いていなかった。こうなったのは余の責任だ」

「陛下……」

「アシュトンの処遇は後で考えるとして、まずはシルヴァーナだ。君の存在は確かに不可解だ。今まで不死の聖女はいなかった。そこで二人の力を試させてもらいたい」

「陛下!? わたくしもでございますか!?」


 コンスタンスは驚き声を上げる。


「コンスタンス。君は先日、病気の老人を治した。あの力をもう一度見せてもらいたい」

「ですが……」

「同じ時代に聖女が二人存在したことはない。もし二人とも聖女なら喜ばしいことだ。だがもしそうでないなら……」

「わたくしが本物の聖女です! 疑う余地はありませんわ!!」

「それは神が示してくれるはずだ」


 国王の言葉にコンスタンスはぐっとのどを詰まらせて黙り込んだ。

 シルヴァーナもまた困惑して国王を見つめる。


「陛下、私に特別な力はありません。試すようなことなどせずとも……」

「君はそう言うが、フェルザー男爵も村の者たちも君が聖女だと信じている。それを確かめる必要がある」


 優しくそう言う国王に、シルヴァーナはそれ以上何も言うことができなかった。


「二人には王妃を治してもらいたい」

「王妃様を!?」

「ああ。王妃はもう1年も臥せっていて、どんな薬を飲んでも回復しない。この頃は特に具合が悪く、起きることもままならなくなっている。できれば聖女に癒して貰いたいのだ」

「で、ですが、王妃様のような尊いお身体を、こんな試すようなことに……」

「これは王妃からの提案なのだ。自分の身体を使ってほしいと」

「わ、わたくしはいいとして、シルヴァーナが王妃様に何かしたら……」


 コンスタンスが不審な目でシルヴァーナを睨んでくる。それに声を上げたのはベルンハルトだった。


「シルヴァーナがそんなことをする訳がない! 必ず王妃様を癒せるはずだ!」

「ベルンハルト……」

「コンスタンスの言いたいことは最もだが、そこは危険がないように警戒するから大丈夫だ。それにシルヴァーナは子供の頃から知っている。王妃に何かをするとは思えない」

「陛下……」


 国王の言葉にシルヴァーナは少しだけ嬉しさを感じた。確かに幼い頃からアシュトンよりも国王や王妃と接する事の方が多かった。教会の儀式や季節の行事でも、常に声を掛けてもらっていた。特に王妃には優しくして貰った思い出がたくさんある。


「私も……、できることなら王妃様の病を治して差し上げたい……です」


 力があるない関係なく、病であるなら元気になってもらいたい。少しでも可能性があるなら、お世話をして差し上げたい。


「で、ですが、二人でどうやるのです!?」

「順番に治療をしてもらう。もし先に癒した者が王妃を治せたなら、次の者は他の病人を癒してもらう。どちらも癒せたならそれでよし。二人を聖女として認定するように、余から教会に申し出よう」


 国王がそう言うと、コンスタンスはうろうろと視線を彷徨わせた後、ハッとして声を上げた。


「では! わたくしが先に癒します!」

「コンスタンスが?」

「はい! わたくしが先に王妃様を癒せば、シルヴァーナが王妃様に近付くこともなく危険もありませんわ!」

「……シルヴァーナは、それでいいか?」


 シルヴァーナが頷くと、国王は確認するように全員を見た。


「では教会に許可を取って、明後日、コンスタンスから始めよう。シルヴァーナとフェルザー男爵は、城に部屋を用意する。この試しが終わるまでは、部屋を出ないように。分かったね」

「はい……」


 話はそれで終わりだった。国王が部屋から出ていき、コンスタンスもその後を追うが、部屋を出る間際立ち止まると、一度シルヴァーナに激しい目を向けて睨み付けた。

 シルヴァーナが何も言わずその目を見つめ返すと、コンスタンスはふんと顎を反らして早足で部屋を出て行った。

 やっと緊張が解けて、シルヴァーナは肩から力を抜くと大きく息を吐いた。


「大丈夫か? シルヴァーナ」

「ええ……。ちょっと疲れてしまっただけ……」


 ベルンハルトに視線を向けてそう言うと、ふとその後ろに立つ男性に気付いた。

 目が合った男性はにこりと笑うと、膝を突く。


「初めまして、シルヴァーナさん。私はノエル・スタイナー。ベルンハルトの友人です」

「あなたが……。助けてくれてありがとうございます」

「いや、近衛騎士でありながら、こんなことになってしまって、不甲斐ないばかりです」

「気にしないで下さい。私は大丈夫ですので」

「……本当に不死なのですね」


 その言葉にシルヴァーナは頷くことができなかった。

 そうこうしている内に兵士が入ってくると、退出を促された。ベルンハルトはシルヴァーナを抱き上げると歩きだす。


「とにかく少し休もう。後のことはそれから考えよう」


 労わるようなベルンハルトの言葉に、シルヴァーナは頷くとゆっくり目を閉じた。

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