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第27話 私の顔を知る人

 シルヴァーナは久しぶりに見た兄を見て、どうしたらいいか分からずベルンハルトの服を握り締める。


「もう一人いる」


 アシュトンが歪んだ笑みを浮かべてそう言うと、騎士が車椅子を押して入ってきた。


「シルヴァーナ……、シルヴァーナ!!」


 車椅子に乗った女性がシルヴァーナを見た瞬間に声を上げた。兄もその声に視線を向けると、目を見開く。


「シルヴァーナ? 嘘だろ……!?」


 二人の驚いた声に、アシュトンの笑みが深くなる。シルヴァーナはどうしようもなくなって、下を向いた。


(お母様……、お兄様……!!)


「シェーナ、まさか……」


 ベルンハルトが戸惑った声を出し、こちらに視線を向ける。シルヴァーナは弱く首を振ると、駆け寄る兄に顔を向けた。


「シルヴァーナ! シルヴァーナだ!! なぜだ!? 病死したんじゃないのか!?」

「ああ! シルヴァーナ! やっぱり生きていたのね!! あんなに健康だったのに、病死だなんて信じられなかったのよ!!」


 母と兄が涙を流してシルヴァーナに話し掛ける。母に手を握られると、シルヴァーナは堪えきれず涙を零した。


「お母様、お兄様も……、ごめんなさい……」


 謝ることしかできなくて、声を震わせてそう言うと、兄が怪訝そうな顔で見つめてくる。


「シルヴァーナ? どういうことだ? なぜこんなことに」

「それは後でゆっくり聞かせてやろう。シルヴァーナを捕えろ!!」


 アシュトンの指示に騎士が近付いてくる。


「な、何事ですか!? 殿下!?」


 騎士の動きに驚いた兄が声を上げるが、十数人の騎士は歩みを止めることはない。物々しい雰囲気に他の貴族たちは壁に寄り、固唾を飲んで見つめている。


「ベルンハルト!!」


 突然人垣の中から男性の激しい声が響いた。名前を呼ばれたベルンハルトが振り返ると、騎士の服を着た金髪の男性が剣を投げかける。


「ノエル!!」


 ベルンハルトは剣を掴むと、すかさず鞘から引き抜き構えた。その動きで包囲しようとしていた騎士たちも剣を抜く。一触即発の空気にシルヴァーナは慌ててベルンハルトの背中に回った。


「ベルンハルト!」

「俺の後ろから出るんじゃないぞ!!」

「はい!!」


 ベルンハルトの隣に並んだノエルという騎士も、剣を引き抜いて構えている。それを見たアシュトンは顔を真っ赤にして叫んだ。


「どうしてここに近衛騎士が紛れているんだ! まぁいい!! シルヴァーナを捕らえろ!! 男二人は殺しても構わん!!」


 アシュトンがヒステリックな声で叫ぶと、戦闘が始まった。貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中で、ベルンハルトとノエルが剣を振るう。

 シルヴァーナは必至でベルンハルトの後ろに付いていたが、視界の隅で母と兄が連れて行かれるのを見て激しく動揺した。


「お母様! お兄様!!」


 二人が怖ろしい目に合うのではないかと思わず叫んでしまうと、アシュトンが声を上げて笑った。


「やっと尻尾を出したな、シルヴァーナ! お前はシルヴァーナだ!! 私の聖女!!」

「シェーナ! 離れるな!!」


 ベルンハルトの声にハッとしたシルヴァーナだったが遅かった。背後から近付いていた騎士がシルヴァーナの腕を掴み、強引に引き寄せる。


「いや! 離して!!」

「シェーナ!」


 必死にもがくが、騎士はシルヴァーナを抱き締めるように掴まえると、徐々にベルンハルトから引き離していく。


「ベルンハルト! ベルンハルト!」

「よくやった! シルヴァーナを連れて行け! 二人は片付けておけよ!」


 アシュトンはそう言うと、シルヴァーナに近付く。ベルンハルトはどうにかこちらに来ようと頑張ってはいるが、行く手を阻むように騎士たちが壁になって進めない。

 そうする内にシルヴァーナは会場から出されてしまった。


「田舎貴族に手を貸す者がいるのは驚いたが、私に勝てると思ったのは愚かだな」

「アシュトン様! もうやめて!! ベルンハルトを殺さないで!!」


 シルヴァーナは懇願するように叫ぶが、前を歩くアシュトンはまったく振り返る素振りも見せず階段を上がると、扉を開けて部屋に入った。

 シルヴァーナもその部屋に入らされると、騎士に付き飛ばされて床に倒れ込んでしまう。


「やっと邪魔が入らず話せるな、シルヴァーナ」

「アシュトン様……」


 アシュトンはシルヴァーナを見下ろし顔を歪ませて笑う。その顔をシルヴァーナは睨み付けた。

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