第19話 聖女の奇跡
コンスタンスは真っ白な聖女のローブを着て壇上に立つ。教会に集まった貴族や市民は、期待を込めた目をコンスタンスに向けている。
その中にはもちろんアシュトンがいて、コンスタンスはそちらをちらりと見ると、優雅に挨拶をした。
「皆様、今日はお集り下さりありがとうございます。わたくしはこの度、ティエール神のお導きを受け、新しく聖女となったコンスタンス・エドニーでございます。聖女認定の儀式はまだ行われておりませんが、急遽この場を設けたのには訳がございます」
そう言うと、担架に乗せられた息も絶え絶えの老人が運ばれてくる。
「彼は長年身体の痛みに苦しんできた者です。もはや痛みは耐え難く、今では起き上がることもままならなくなりました。わたくしはこの方の苦しみを取り除きたく、神に祈りを捧げたいと思います」
コンスタンスの言葉に、歓声が上がる。コンスタンスは前に進み出て、大きな水盆の前に立つと、持っていた杖を掲げた。
「光の神ティエールよ、あなたの子が苦しみもがいております。その聖なる力をわたくしに宿し、どうかこの弱き子をお助け下さい!」
高らかな声と共に、コンスタンスは杖の先を水へ沈める。すると、天井まであるステンドグラスから差し込む太陽の光が、キラキラと輝いた。
その場にいた全員がその光を見上げ、驚きに目を見開いている。
コンスタンは水盆の中の水を銀のカップに掬うと、横たわる老人に持って行った。
「さぁ、この聖なる水をお飲みなさい。ティエール神のお慈悲です」
老人を抱き起こし、水を飲ませる。シンと静まり返る中、老人は飲み終わるとまた横になった。
それから数分、どうなるかと皆が固唾を飲んで見守っていると、老人がゆっくりと起き上がった。
「おお! 身体の痛みが引いた! なんだ、これは……。胸の苦しさが消えていく……」
「さぁ、もう立ち上がれるはずです」
コンスタンスが手を差し伸べると、老人はその手を掴みゆっくりと立ち上がる。
その姿を見て、大歓声が上がった。
「聖女様! 聖女様が奇跡を起こした!!」
誰もが口々にコンスタンスを称える言葉を叫んでいる。それを笑顔で受け止めたコンスタンスは、もう一度杖を掲げた。
「ティエール神よ、感謝致します。わたくしはこれからも癒しの力を使い、ルカートの民を救って参ります!」
祈りを捧げるように膝を突くと、教会は歓声と拍手で満ちた。
コンスタンスはそれを聞きながら、ほくそ笑んだのだった。
◇◇◇
すべてが終わり控えの部屋に戻ると、アシュトンが駆け込んできた。
「コンスタンス!」
アシュトンは勢いのままに近付き、コンスタンスを抱き締める。
「コンスタンス! 本物の奇跡だ! 本当にお前は本物の聖女なのだな!!」
「アシュトン様ったら、苦しいですわ」
コンスタンスが笑顔でそう言うと、アシュトンは腕を緩めて顔を覗き込んできた。
「私は分かっていた! お前が本物だと! これですべて上手くいく! 早く結婚の話を進めよう!!」
「まぁ、それは嬉しいですわ、アシュトン様。ぜひ、そうして下さいませ」
アシュトンの言葉に、コンスタンスは喜びを隠すことなく頷いた。
(本当に上手くいったわ。アシュトン様が単純な御方で良かった……)
これでアシュトンの方は大丈夫だろう。後は、訳の分からないシルヴァーナの対応をするだけだ。
だがそれもあまり難しくはないだろう。シルヴァーナのそっくりな女が、本人だろうが別人だろうが、殺してしまえば済むことだ。
そうすればすべてが上手くいく。後はアシュトンと結婚し、王太子妃になるだけだ。
コンスタンスは輝かしい未来を頭に描き、晴れやかに笑った。