第12話 生き返ったけれど
意識が浮上して、目蓋の裏に明るさを感じた。
(あ……、雨上がったんだ……)
あんなに激しかった昨日の雨は、どうやら夜の内に止んだらしい。目を閉じていてもこんなに眩しく感じるなら、今日はとても晴れているだろう。
皆の無事を確認したら、また畑に行こうとぼんやりと思いながら、シルヴァーナは薄く目を開けた。
「シルヴァーナ! シルヴァーナ!!」
突然、大きな声で名前を呼ばれ目を開けると、ベルンハルトが覆い被さるように抱き締めてきた。
「わ! え!? ど、どうしたの!?」
「生き、生き返った! 良かった……、本当に良かった……!」
ベルンハルトは身体を震わせて泣いている。意味が分からず困惑して周囲に目を向けると、なぜか自分のベッドを囲むようにドナートとエルナもいて、同じように泣いていた。
「皆、どうしたの?」
「シルヴァーナ様……、良かったですぅ……うう……」
エルナはぼろぼろとこぼれる涙を、ハンカチで拭いながら言ってくる。ドナートも指先で涙を拭っている。
シルヴァーナは、なぜ皆こんなに泣いているんだろうと不思議に思っている内に、徐々に記憶が蘇ってきた。
「……私、また……、死んだ……?」
ポツリと呟くと、ベルンハルトが身体を離し、悲しい目を向ける。
シルヴァーナはゆっくりと起き上がると、その目を見つめたまま、そっと胸に手を当てた。
「大丈夫、傷はもう塞がっているよ」
ベルンハルトの優しい声が、なんだかすごく悲しくて涙が溢れてくる。
「なんで……どうして………、私……っ……」
誰かに剣で襲われた記憶がまざまざと思い出されて、あの時の恐怖がまた沸き上がってくる。
身体が震えて、涙が止まらない。
「大丈夫だ、シルヴァーナ。大丈夫だから」
ベルンハルトはそう言うと、ギュッとシルヴァーナを抱き締めた。
慰めるように優しく背中を撫でてくれる。
(あったかい……、私、生きてるよね……?)
もう何がなんだか分からない。それでも今こうして抱き締めてくれているベルンハルトの温もりが、これが夢などではなく現実なのだと教えてくれているようだった。
しばらくして徐々に気持ちが落ち着いてくると、涙を拭って顔を上げる。
「ごめんなさい、たくさん泣いてしまって……」
「いや……」
身体を離して謝ると、ベルンハルトは少し照れた顔をして首を振る。
「一昨日の夜、畑に倒れているのを俺とドナートが見つけたんだ」
「一昨日?」
「ああ。君は丸一日眠っていたんだ」
「眠ってた? 死んでなかったってことですか?」
死んだという事実を受け入れたくなくてそう言ったが、ベルンハルトは顔を曇らせた。
「……君は、死んでいた。畑で見つけた時には、もう息はしていなかった」
「そんな……」
「急いで家に連れて帰って、数時間すると傷は跡形もなく消えた」
ベルンハルトはできるだけ動揺を与えないようにしているのか、坦々と説明してくれている。それでもシルヴァーナは、それが自分に起こったことだと思うと、動揺せずにはいられなかった。
「心臓はずっと止まっていた。だが、今朝になって突然鼓動が聞こえだしたんだ」
「それで、私は目を覚ましたのね……」
「ああ」
(私は何なの……、なんでこんな身体なの……)
自分のことなのに、何一つ分からない。自分自身がまるで化け物のように感じる。
「やはり君は聖女なんだ。君の命は神に守られている。何度でも奇跡を起こし、生き返るんだ」
「奇跡……」
ベルンハルトの言葉になぜか嬉しさは感じなかった。あれほど望んだ聖女の奇跡なのに、素直に喜ぶことができない。
(これが奇跡……?)
自分の手のひらを見下ろし、顔を歪める。
二度も殺されなくてはならないほどに自分が恨まれているという事実が、シルヴァーナの心に重く圧し掛かり、生き返った奇跡を喜ぶことなどできそうになかった。