#3_general passage_α
対機械兵機関神工学園。
4つの校舎、2つの学生寮、3つの運動用グラウンドからなる、国が設立した学園。
以前はごく普通の高等学校であったが3年程前、ある男の手により改変され、超能力を持つ少年少女を育成、訓練を行う為となった。
いわば、軍学校。
そんな堅苦しい、年中四六時中訓練三昧のようなハードで過酷な物を思い浮かべるだろうが、実はそうでも無い。
この崩壊しかけた世界で、数少ない学校
それが意味するものは、子供達にとって他人と触れ合う場であり、娯楽の場であり、青春の場。
崩壊しかけた世界の片隅で、この学園の生徒は皆日々の生活、日常を楽しんでいた。
かつての日常と同じように、時に笑い時に泣き。また時に真面目に勉強し、時に仲間と悪戯して遊んだり。
それでも、決して好んであんな機械兵とあらそおうなんて者など居ないだろう。ましては子供。
だか彼らは───────
「ぜぇ……はぁ……」
神工学園の第二グラウンド。一周300mのライン引きで引かれた白線のトラックで彼女は走っていた。
体力作りの為の走り込み。
1日20周を目標にと担任に言われ、今日で三日目。
機械兵との戦闘で最も大切な事は単純。攻撃の回避である。
仮に超能力という最強の矛があろうとも体は生身の人間である。
対して敵は鋼鉄の身体で構成され、その鋼鉄の鈍器や刃物、更には一撃で人体を貫く光線兵器も備わっている。
そんな物喰らったら一溜りも無い、という事で特に足腰を鍛えようと言う寸法である。
そんな彼女こと、繭遠彩奈はその自身の驚くべき低い身体能力をどうにかして直そうとしていた。
だが運動音痴に分類されるのか、という事もなく。
周りの生徒や教師曰く、動きはかなり良く、瞬発力、反射神経はかなり良いものだと言う。
だが体力、筋力等の「力」が皆無であり例えるなら、最強無敵のスーパー魔法を覚えているのにそれを使うためのMPが無くて使えない、という宝の持ち腐れ状態。
そんな事があるのかと、どこか矛盾しているような気もするが、その事柄を言ったのは教師であり、学園においては戦闘のプロ。その手の道数十年の者だ。
そんな人の事を信じざるを得ない、というのが現在の現状である。
さて、こんな事を初めて3日目であるが、何となく体力がついてきてる感覚がしてきた。…ただひたすら走っているだけなのに。
1日目はまず20周も走れてなく、4~5周の所であえなくダウン。倒れて保健室送りであった。
2日目も走り切れた訳ではないが、1日目より成長。10周は走れた。その後はどうなったのかって?炎天下にダイレクトアタックされまたもやダウン。そして目が覚めると保健室の天井。
そして今日。現在19周目である。正直ここまで走れた真実に自身でも驚いてる…暇もなく、限界。
疲労で足元はおぼついており、今にでも転びそうな状態。そして転んだらもう立つ程の力も無い程。
既に走っているのかと疑問になる程の動きであるが決して歩く事はしなかった。
何故そこまで頑張れるかって?
「皆の…為にぁ、あぁぁぁ…」
ゴールと同時に倒れた。
空調が一日中ガンガンに効いていており、真夏だというのに長袖を着用する人も少なくないであろう学園唯一の場所、職員室。
書類だらけのデスクはいつになっても変わらない光景である。
生徒の成績、小テストの解答合わせ、その他学園の諸々、そして機械兵についてのレポート。
例え学生の無敵時間「夏休み」であろうとも教師の仕事は平日とほとんど変わらない。
まあ、この学園の夏休みは8月上旬で終わっているのだが。
そんなデスクの書類を見ながら、A組担任蒼井守は肘を立て考え込んでいた。
(うーむ…どちらの作戦で行くべきか…)
預かった任務をどのようにして遂行するべきか、作戦内容を考えるのも神工の教師兼指揮官の役割でもある。
(ダメだ、こちらのルートだと確実だが生徒が危険になる可能性が高い…)
ここの教師というのはそれ=戦闘のプロという事になる。
蒼井だってその立場を自覚しているが何よりも、生徒の安全を優先する男であるため、たった少しでも危険な行動を取らせない、というのが蒼井の考えだ。
そのため生徒からの信頼が厚いのであろう。
「どうしたンだい?」
「!?!?ッ」
突然、耳元5cm程の距離。囁かれるように声をかけられ、思わず驚いて椅子ごと倒れてしまった。
こんな姿を生徒に見られたら教師として……という恥ずかしい体勢で。
「おや、これは…来週の指令書かい。毎度毎度だがこんなモノ早く完成させられないのかねェ、君は。」
…いや自分から転んだようなものだが、流石に少しは謝ってくれよ。っとこの愚痴を声にして零したい所だが、この人の前ではやめておいた方がいい。
「そういう時雨先生は終わってるんですが?私は生徒の為に安全第一で必死に悩んで考えて作っているんです。時間を掛けても文句は言われる筋では無いでしょう。」
散らばった書類を片付けながら、そう彼女に尋ねた。
時雨 刹那。ここ神工学園の教師であり、B組担任。
白と黒の2色が複雑に絡み合った髪色と、目の下のクマが絶えず毎日あるのが特徴の人物でありその異様さから、生徒あるいは他の教員から「不気味なおばさん」的な何かのあだ名がついている。
前職は研究家と本人は自称しているが…誰も彼女の過去を知らないので何の研究をしていたかもさっぱり。
だが技術部の開発に多大な協力、功績を残しているためそれなりの事はしていた科学者だったのだろう。
きちんと整容でも整えれば綺麗な美人さんにでも見えるのだろう。
ちなみに年齢は不詳であるが。
─なんで隠せてんの、同僚として怖いんだけど。
「あンなモノは日比谷に任せたよ。アイツら自ら実行する事なんだ。アイツら自身に選ばせ、決めさせた方がいいだろう?適材適所ってヤツさ。」
そして、自分とこの人はあわない事は分かりきっている。正反対とまではいかないが、生徒達の事を考えてるのか考えてないのやら。
そんなのがどうしてここで教師なんてやってるのか、という疑問だが答えは至ってシンプル。
「シンケーの奴がなンでアタシをここに入れさせたかは知らんけど、まあアタシも子供の面倒見るのは嫌いじゃないからねェ。て事でアタシは今から酒飲んで来るよ。」
訳は知らないが時雨先生は神経のお師匠様だとか。昔からの知り合いらしい。
面倒くさがりな性格は師弟揃ってのものだ
では、そんなコネで入れたのかと思うが…実際半分そうだろう。
別に神経が彼女をひいきしている訳じゃないが、彼の師匠だけあって実力は本物だ。
自分が知っている限り、この世界で残っている人間同士を全員戦わせたら…彼女が最後まで立ち上がるだろう。
間違いなく時雨先生は最強の2文字を持つに相応しい人物である。
(てか、また12時だぞ…どこも居酒屋なんて空いてないだろうし、仕事はどうしたんだ…?)
性格は終わってるし、酒癖も酷い人物なのが難点だが。
「はあ。時雨先生、少しは生徒達と触れ合ったりしたらどうですか?…B組の子達は確かに優秀で真面目な子が多いですが、担任がそこまで遊び呆けてると影響するかもしれないですよ?」
職員室を出て行く所を引き止めるように話しかけた。こんな人とあまり関わりたく気持ちもあるが、何よりも生徒の為ならどんな事でもするお人好しマンの蒼井なのだ。
「またそんな事かい、アイツらの事はどうだっていいのさ。好きにやれせればね。」
大方返事の内容は予想どうりだった。恐らくこの先蒼井と時雨の利害が一致する事は限りなく0に近いだろう。
「そうだ蒼井、…名前はなんと言ったか、あの新入りの女。」
部屋の扉を開け、出て行くのと同時に今度は彼女から話題が振られた。
直前の解答で半ば呆れており、手元では書類整理をしていたのでろくに返事もせず黙っていた蒼井だが、その話には顔を向け耳を立てた。
「気をつけた方がいいよ、 死にたくなければね。ふっふっふ…」
そう言って不気味な笑みを浮かべながら去っていった。そしてこの時の蒼井には彼女の話しを、ただのからかい冗談だと受け取っていた。
何せこの人はいつもこんなテンションなのだから。
さて、本日もやって参りました。何度も何度も見慣れた天井でございます。
何せ以前の記憶が無い分、この雰囲気この感覚この臭いその全てが記憶全体にこんがりと焼き付いてしまっている。
天井の穴の数だって覚えてしまったぞ。1つの正方形パネルに42×42の無数の点。…計1764!それが室内中にびっしりと。視界を遮るカーテンのせいで全体の数までは数えられないのがもどかしい。
さあさあその邪魔なカーテンをスッと横にスライドすると…おっとそこには美少女の姿が!
机に座りペンを動かし勉強している黄白髪ツインテールの子。そんな可愛らしい彼女の名前は祓宮 霧。通称きりちゃん。私のマイ・ベスト・フレンド。
ん?お前なんだがキャラ違くないかって?
…あーはいそうですその通りですごめんなさい。
でも陰キャな私でも心の中くらいでは楽しくさせて下さいよ。別に言葉に出して言ってるわけじゃないですしおすし。
人間、裏表なんて誰にでもあるのさ!なんて
(…あぁ恥ずかしくなってきた。何言ってんだ私。気持ちわるい。もう1回寝よう。)
そうして開けたカーテンを戻して再び眼を閉じたとさ。
「…なにやってんの彩奈ちゃん?」
彼女は変人を見るような目でこちらを凝視してきた
…うげ。
「なんか彩奈ちゃんってさ、たまに変な所あるよね。」
体調が治まり保健室を出た後、廊下で歩いている時のことだった。
「なんかいつも1人でブツブツ言ってるし、人と目合わせないし。恥ずかしがり屋さんなんだよね。」
…心の声漏れてたのか!と今更ながら気付く我
「でもそういう所、私は可愛いとは思うよ?しかも彩奈ちゃん容姿も素敵だしね。私と大して体型変わらないのに。…でも特に違うのが、ここ!」
隣を歩いてた足が急に止まったと思ったらそのまま背後を取られ、その2つの手で頭の上にある"耳"を鷲掴みにしてきたのだ。
「ひゃうっ!?」
「あ~これ触ってると落ち着く~…もふもふですべすべしてて…ところでなんでこんな猫耳生えてるの?」
そういえば、あまりに気にしてなかったなこれ。
自分の頭上にある第三、第四の耳。コスプレ用のカチューシャでもつけてるようにしか見えない猫耳。
展望台の上で目が覚めてからずっとあるが…なんなのだろうか、これ。
あくまで根拠の無い。ただの仮説にはなるのだが、例え記憶喪失だったとしても、"ある物"を見た時それが"普通"だと直感で感じ取れればそれで以前の時分がその"ある物"を"知っていた"のだと考える事ができる。
例えば自分に学校に通っていたと言う記憶は無いが、学校という存在、言葉の意味、授業、教科等のシステムそれは理解している。なので自分は記憶を失う前、学校に通っていた。それだから知っていた、と考えるのが自然な考え。
たったそれだけの考察だ。
だがこの猫耳に関しては何も情報が引き出せない。
出てくるとしたらカチューシャの事くらいだろう。
しかもこれらの耳はしっかりと器官として動作しているのだ。
試しに普通の横の両耳を塞いでみたが上の耳で音を感じ取れた。
だからと言って耳がよく聞こえる、…という訳でもなく。考えれば考えるほど不思議になってくる。
「うう…やめて…霧ちゃん……うぐっ!」
そんな一方的なじゃれ合いをしていると廊下の角、ちょうど人とぶつかってしまったのだ。
「…」
いてて…と彩奈は足元崩して倒れてしまったが目の前の人物はピクリとも動いていなかった。
「げ、時雨先生…(彩奈ちゃん起きて!この先生おっかないからすぐに謝った方がいいの!)」
本人に聞かれたくない為か、霧ちゃんに顔を近づけ耳元で囁かれた。
「聞こえているぞ、小娘。」
その時、全身の鳥肌が立った。
耳元に近づかれた霧ちゃんの話に集中していたが突然目と鼻の先でも声がしたのだ。
彼女の顔を見るに怒っている訳では無い、と言ったところだろうが…なんとも言えない不気味な存在感。
前方手のひら一つ分の距離まで近づかれたのに、声を聞くまで存在に気づかなかった。
おかげで彩奈の顔は真っ青。
座り込んでいて動く事が出来なかった自分だが、そもそも転んでなどいなかった霧はいつの間にか10歩程度後方まで距離を取っていた。
ついでにこっちも顔は真っ青。
「…」
その後立ち上がり数秒間沈黙が続いた。
その間彼女、時雨は彩奈の事をじっと見つめていた。
ちなみにこの時、人と目を合わせる事が出来ない彩奈は廊下の壁のシミをずっと見ていたとさ。
「ふむ。私も馬鹿どもに構っている暇など無いものでね。私も疲れているから一時でも早く酒が飲みたいのさ。」
そう見下しながら時雨はその場を去っていった。
「ああ、あと」
またしても、去ろうとしていたその足が止まった。
「お前はどこまで覚えてるのかね?」
「…?」
質問の意味は間違いなく、記憶喪失の事であろう。
自分から明かしてないとは言えど、まあ教員なら知っていて当然なのだろう。
だがこの時の彩奈は目の前の人物から出る謎の緊張感、プレッシャー、そして気まずい雰囲気により、脳を普段の倍のスピードで血液が駆け巡ったため頭の中身はショート。
今の彼女は簡単な質問を処理するのに通常の何十倍もかかっていたのだ。
(あわわ…なんて答えたら…)
「…シカトかい」
結果答える事の出来ず、その人はそのまま去っていった。
「…」
その後もしばらくの間は立つこともせず、床に座ったままだった
はっと放心状態が解かれたと同時にやっと全てを理解したのだが、その時にはすでに遅し
周りには自分以外人1人もいなかったのだ。
「あれ、霧ちゃん…どこいった?」
…こうして彩奈の奇妙な日常が始まった。
こんばんは、川風です
そろそーろ書くのにも慣れてきたので今回?今章からちゃんとやっていくつもりでございます
改めて見返してみたら二章の作りが本当に良くなかったと後悔しております…
て事でなるべく読みやすいよう今回は4part構成で終わらせるつもりです。起承転結…みたいなのでちょうどいいかな?
そして前回からの準備期間でしっかり固めてからきてるので2ヶ月…?以内には終わらせたいつもりでございます
そしてこの「リメイク・パンドラワールド」は4章からが本番となり、そこから物語が動き出すのでもうしばらくお待ちくださいませ。
て事で、ではでは




