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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.93 2人の仲、そして、嵐襲来

久しぶりのいいお天気だったのに結局夕方には雲が出てきて、夜からまた雨が降ってきた。


しかもかなりの土砂降り、そして強風。

もはや嵐だ。


(前世の台風を思い出すわ)


ここ最近の天気では、間違いなく一番ひどいだろう。


雨戸はちゃんと下ろしたけど、家が吹き飛ばされないかとても心配だ。


(雨に降られる前にあの3人は戻ることができて良かったね)


一旦別々に話を聞いたことが効いたのか、レンジ君とジークはそれぞれ頭を冷やすことはでき、一応和解(?)はしていた。


ものすごくギクシャクしていたけど。


その後、レンジ君は自分の家に帰り、エルフ兄妹は村唯一の宿屋『憩いの木馬亭』に戻っていった。


レンジ君がこの村に来たばかりの時と同じように、2人も家ができるまでは宿屋に宿泊しているのだ。


「それにしても、あの2人はいつもケンカしているよね」


夕食が済み、私はドラコを膝に乗せてブラッシングし、セインは読書をしていた。


「そうなんですよね……」


セインは読んでいた本をパタンと閉じた。


「私が気になるのはレンジさんです。あの冷静な彼があそこまでジークさんに気が立っているのが不思議なんですよ」


「やっぱり、セインもそう思うんだ」


気持ちよさそうに目を閉じるドラコの頭を撫でながら、セインを見た。


「ユーリさんがジークさんを連れ出した後、レンジさんからもお話しを聞いてみたんです。やはりレンジさんもかなり困惑しているみたいですね。なぜ、ジークさんに対してあれほど過剰に苛立ってしまうのか。どうやら、ご自分でも分からないようです」


「なるほどねえ」


レンジ君のことだから、自分の感情に対して客観的に分析しているんじゃないかとは思ってたけど、それでも心当たりがないわけか。


「ジークは黒死病のことやリオディーネ皇女のことでレンジ君に感謝しているし、うまく付き合っていきたいと思っているのよ。まあ、今日は空回りしていたけど」


セインも腕組みしながら頭を捻らせた。


「性格や種族の違いがあるとはいえ、レンジさんがそのことを盾にジークさんを毛嫌いするとは思えないんですよね。実際、フィーさんへの態度は問題ないのですから」


「そうなんだよねえ……」


2人揃って頭を捻らせているのをドラコが不思議そうに見てきた。


「……2人の仲に関係があるかどうかはまだ分からないんだけどね」


と前置きをして、


「さっきジークから聞いたんだけど、ジークは子供の頃から文字が読めないらしいのよ」


「文字が……読めない?」


セインが驚いたように呟いた。


「元皇太子だから、当然教育はしっかり受けていただろうし。普段のジークの様子を見る限り、目が悪いというわけでもないじゃない?セインは、文字が読めなくなる原因になりそうな病気、心当たりある?」


と質問してみた。


実は、私には心当たりがある。


だけど、それはあくまで前世に存在した疾患概念であり、この世界にはひょっとしたら、『文字だけ読めない病』というものがあるのかもしれない。


だから、ヒーラーであるセインに聞いたのだ。


「いえ……聞いたことがないですね」


大分時間をかけて考えてくれたけど、セインも特に心当たりはなさそうだった。


(だとすると……)


と考えていたその時だった。


―――バンバンバンッ!


玄関のドアが勢いよく叩かれる音がした。


「ッなに?!」

「風の音、ですか?」


と顔を見合わせたが、


「先生!セイン先生ッ!」


焦った声も一緒に聞こえてきたので、慌ててドアを開けた。


「マリーさん、どうされましたかッ?!」


開けた瞬間、強風と大粒の雨が玄関にも吹き込んできて、顔や服にも雨粒がぶつかってくる。


だけど、この暴風雨の中を宿屋から診療所まで向かってきたマリーさんに比べればマシだ。


なんせ、着ているマントが全然役に立っていないくらい全身グッショリと濡れている。


「いいからッ!とにかく、来て下さいよ!」


しかも相当慌てていて、セインを無理やり引っ張っていかんばかりの勢いだ。


「セイン!マント持ってきたから、とにかく行こう!」


正直この天気の中じゃ意味がないかもしれないけど、着ないよりはマシだろう。


私はセインにマントを手渡し、マリーさんに連れられ、暗い豪雨の中を走った。


「いったい、何があったんですか?!」


雨と風の音に負けないよう声を張り上げると、


「土砂崩れだよ!しかも川の近くにあった水車のブルームさん家が巻き込まれちまったのさッ!」


「何ですって?!」


セインも負けじと驚きの声を上げた。


この村では小麦粉を作る際に、水車の力で小麦を粉にすり潰しているのだ。


ブルームさんの家は親子4人暮らしで、村で育てた小麦を小麦粉に製粉する仕事をしている。


水車の近くに家があった方が水車の手入れがしやすいと、家も川の(ほとり)に建てられているため、『水車の家』と呼ばれているのだが。


「ご家族は無事なんですか?!」


「分からない!レンジ先生に先生達を連れてくるよう私は言われたから!」


「レンジ君が?!」


「それだけじゃない。あのエルフの2人も救助を手伝ってくれてるはずさ!」


マリーさんは息を弾ませながら言った。


「まさに不幸中の幸いだよ!あの3人が今夜ウチで食事してた最中に起こったんだから!きっと、土砂も何とかしてくれるはずだ!だから先生、ブルームさん達を助けてあげて!」


と走りながらセインにお願いした。


「分かりました!全力を尽くします!」


セインと一緒に私も隣で力強く頷いた。

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