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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.91 フラノ村のエルフ兄妹、そして、ケンカの日々

エルフの兄妹、ジークとフィーちゃんは晴れてフラノ村の一員となり、そして当然というべきか、村の人達ともすぐに打ち解けていた。


フィーちゃんは非常に可愛らしい上に気立てもよいから、老若男女問わず誰からも好かれている。


ジークは口調こそ荒々しいけど根は優しく、しかも体格にも恵まれているから、特にダンカンさんのような、さっぱりした気風の良い男性陣達とウマが合うようだった。


ちなみに、2人が村に移住した理由は、『レンジ君の封魔石の研究を手伝う』というのが建前だ。


リオディーネ皇女を見てウンザリするほどよく分かったが、エルフは『気位が高くて他の種族に優越感を持つ』種族……要するに『相手をするのが非常に面倒な』種族なのだ。


温厚なセインですらその印象を持っているのだから相当だろう。


かつてガルナン首長国の魔鉱石錬成研究所にエルフを招聘しようとしても、ティナ・ローゼン精霊国からはほとんど来てもらえず、例え招聘できたとしても技能者も全然やる気がなかったらしい。


そのため、水や風の属性魔法を込めた封魔石は非常に数が少なく、しかもエルフでも滅多に使うことができない氷魔法の封魔石なんて、存在すらしないのだ。


だからレンジ君としても、水・風・氷という研究がほとんど進んでいない封魔石を作成できることは研究者として非常に有り難いことであり、エルフ兄妹としても、怪しまれることなくこの村に移住できているため、お互いの利害が一致している。


そう、この村のドワーフとエルフ兄妹は、まさにウィンウィンの関係を築いている……はずだった。




「ただいまぁ……って」


最近薬草採取から帰ってくると、リビングの中で険悪な雰囲気が漂うことが増えていた。


「……今日はいったい何があったの?」

ため息を吐きながら、互いにそっぽを向き合うレンジ君とジークを見比べ、そして、困り顔のセインとフィーちゃんを見た。


「ユーリには悪いが、僕の口から話したくはない。そこの野蛮なエルフの愚行など、思い出すのも腹立たしいからな」


レンジ君が忌々しそうに口を開くと、


「あぁ゛ッ?!こっちが親切でしてやったというのに、なんつう言い草だッ!」


間髪入れずにジークがレンジ君に喰ってかかってきた。


「だからッ、誰がそんなことを君に頼んだ?!」


これまたレンジ君が声を荒げてジークを睨みつけた。


(ダメだ……全然話が進まない)


諦めてセインの方に助けを求める目を向けると、セインは困ったように苦笑した。


「実はですね……」


***


レンジは本日分の封魔石の作成を終え、久しぶりに釣りに出かけた。


ここ最近雨が続いていたが、今日は珍しく朝から天気が良く、午後も雲が出ていなかったので、近くの池に来てみたのだ。


「ここで会うのは久しぶりだな、ティム」


「レンジ兄ちゃん!」


釣り友達のティムが先に糸を垂らしていた。


「このまま雨が止んでてくれればいいのになあ」


「最近は天候が不安定だったから、釣りにも行けなかったからな」


「それもなんだけど、雨が続くと馬の機嫌が良くなくてさ」


「馬が?」


レンジは釣りの用意をしながらティムに尋ねた。


「オレん家の馬だけなのかもしれないけど。泥が付いたり濡れたりするのを嫌がるんだよなあ」


「ほお、馬もキレイ好きなんだな」


ティムから少し距離を置いてレンジは座った。


「どうだ、釣れそうか?」


「うーん、あんま掛かってくれないんだよね。やっぱ雨で水が濁ってるからかなあ」


ティムがぼやくように呟いた。


「川も増水していて、とても釣りができるような状態ではなかったしな」


いつもより茶色く濁った水の中を見ても、魚の姿は全く見えない。


「そう言えば、レンジ兄ちゃんってエルフとも知り合いなんだ!」


思い出したようにティムが言うと、レンジの体がピクッと反応した。


「オレ、エルフって初めて見たけど、耳が本当に長くて尖がってんだね!父ちゃんが言ったとおりだった!」


「トーマス氏もエルフに会ったことがあるのか?」


レンジが聞くと、


「王都に行ったときに見かけたんだって」


ティムが答えた。


「ねえねえ、エルフもレンジ兄ちゃんみたいに魔法を使えるの?」


「エルフは水と風の属性魔法を扱うことができる。フィーというあの女性のエルフは、その中でも特に珍しい氷魔法を使用することができるんだ」


「へえ!」


そんな話をしている時だった。


ズズッ―――……


「ええっ?!」


「なッ?!」


突然、釣り糸を垂らしていた水面が盛り上がったかと思ったら、大の大人がなんとか一抱えできるかどうかという大きな水の球体が出来上がった。


「えっ、な、何これっ?!」


「……まさ、か!」


驚きで動揺するティムとは違い、レンジはすぐに後ろを向いた。


そこにいたのはーーー


「よっ……と!」


件のエルフの兄の方が、人差し指を手繰り寄せるように動かした。


すると、水の球体は指の動きに合わせて2人の頭の上を越えて陸に引き寄せられた。


「ティム、避けろッ!」


「えっ?!」


レンジがティムを岸辺から急いで離すのと、


バッシャーーーン!


球体が地面に叩きつけられて、ちょうど2人が座っている所にまで水が寄せてきたのと同時だった。


「わわっ!」


水しぶきが余波のようにティムの顔に跳ね、


「……」


レンジは鬱陶しそうに、顔にかかりそうになった水に小さな火の玉を次々とぶつけた。


そして地面の上には、


ビチビチビチッ!


何匹もの魚が打ち上げられ、パニックに陥ったように勢いよく跳ねていた。


「す、すげえ!」


一気にたくさんの魚が目の前に現れ、ティムの目が興奮したようにキラキラ輝く。


「どうよ!んな、チマチマ釣るよりよっぽど大量に穫れるぜ!」


とジークは得意気に胸を張った。


「レンジ兄ちゃんも早くバケツに入れようよ!今日は大漁だ!」


早速自分のバケツに魚を移していくティムがレンジに呼びかけるが、


「ティム……すまないが、今日はこれで帰らせてもらう」


レンジは自分の釣り竿とバケツを手早く片付けた。


「えっ、帰っちゃうの?」


「何だよ、お前も遠慮しないで魚持ってけよ!」


ジークとティムに呼び止められたレンジは、何とか口角を笑みの形に上げた。


「急用を……思い出したんだ。魚は君が好きなだけ持って行ってくれて構わないから」


だが、怒りでピクつくこめかみを押さえることはできず、


「う……うん」


レンジの怒気を察したティムは、たじろぎながらも、素直に引き下がった。


最も、


「勿体ねえぞ、レンジ!せっかく今日の夕飯に使えるっつうのによ!」


と全く意に介さないエルフの発言により、


「だったら……君の好きにすればいいだろッ!」


油を注がれた怒りは、結局爆発してしまうのだった。


***

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