表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/147

Karte.72 第一皇女の攻撃、そして、驚愕の事実

「水の精霊よ、汝の加護を以て蒼き(やじり)で彼の者を射よ。”ウォーター・アロー”」


呪文が詠唱されると同時に、恐ろしい速度でいくつもの水の矢が私目掛けて放たれる。


「”ガード”!」


すぐさま光の障壁を展開させ、水の矢から防御した。


「ほぉ、見たことがない魔法ですね。光属性魔法でも随分珍しいものなのでしょうか」


興味深そうに第一皇女は結界魔法を眺める。


「ですが」


すぐに新しい水の球を、それもいくつも生み出していく。


「いつまで耐えられるのでしょうね?」


1つ1つの球が何本もの矢に変換されていき、


「”ウォーター・アロー”」


先程よりも圧倒的に多い、無数の矢が襲い掛かってくる!


「”ガード”!!」


更に障壁を増やし防御するけど、間髪入れずに当たってくる矢の衝撃が凄まじすぎて、めちゃくちゃ怖い!


「どうすんのコレ!絶対死ぬって!何とかしてよ、アイ!」


《落ち着いてください、ユーリ。あなたの結界魔法は、この程度の攻撃で破壊されることはありません》


「そんなこと言われたって、怖いものは怖いのよ!それにッ!」


何とか首だけで背後を見る。


全身から血を流し、死んでいるんじゃないかと思うくらいの重傷だ。


「ジークさんの怪我がひどすぎる!早く手当てしないと!」


《では、結界魔法は私が維持しておきますので、ユーリは止血しをてください》


「了解ッ!」


矢の衝撃音は鳴りやむことはないが、結界の維持をアイに任せ、ジークさんの傍に膝をついた。


「ジークさん、大丈夫ですか?!」


「ウ……ゥ゛ッ!」


こちらの問いかけに辛うじて返事はしてくれるけど、目は開けてくれない。


(意識障害がひどい!早く止血しないと!)


「光の精霊よ、我に御加護を。"ヴェール"!」


出血が特にひどい部分から次々と光の膜で覆っていくと、すぐに血は止まっていった。


(他は?体内で出血しているところは?!アイ、結界魔法そのままでジークさんをスキャンできる?!)


《可能です。スキャン開始ーーー終了……》


「……ちょっと待ってよ」


アイのスキャン結果を確認し、愕然とする。


幸いなことに体内で出血している部位はなかった。


だけど、それ以上に深刻な状態であることが判明してしまったのだ。


「何とか……何とかして、早く治療しないとッ!」


でもどうやって?!

あの坑道のときはセインがいてくれた。

でも、今は私とジークさんだけだ。


(となれば、結界魔法を展開しながらジークさんを運ぶ?)


「いや無理だって!こんな大きな成人男性、私だけの力じゃ運べないって!」

少なくとも、誰か応援に来てもらわなければ!


(レンジ君、お願い……早くッ!)

心の中で、あの麗しのドワーフに必死で呼びかける。


「その障壁……なかなか厄介ですわね」


だが近づいてきたのは、苛立ちを隠そうとしない、エルフの第一皇女だ。


「ここで無駄な時間を使うのは馬鹿らしいですし……方針を変えましょう」


(え、なに?!もしかして、見逃してくれるとか?!)


と一縷の希望に縋りそうになった。が、


「ここ一帯の木々を倒して、あなた達を下敷きにしておきましょう」


「はあッ?!」


そんなお優しいこと、この血も涙もないエルフに期待した私がバカだった!


「見た所、あなたの障壁は非常に防御力は高いようですが、こちらへの反撃はできないようですし。生き埋めにしてしまえば、身動きはとれないでしょう」


(こちらの弱点を完全に見破られている……!)


「その間に私はソフィアナを探して息の根を止め、その後ゆっくりとあなた達の始末を考えればよろしいですわね。最悪、その野蛮なケダモノが生き延びたとしても、私の皇帝継承には何の支障もないのですから」


(結局、そこか!)


この皇女は次期皇帝候補であるソフィアナ皇女が目障りな訳だ。

ジークさんはとっくの昔に王族の身分を剥奪されているから、継承権は持っていないし。

だから、確実に第二皇女様を殺しておきたいのだ。


「では後ほど、またお会いしましょうか」


彼女の周囲に、これまでで一番多くの水の球が次々と出現する。


「もっ、森の民であるエルフがっ!木をそんな風に粗末に扱っていいんですか?!」


と最後の悪足掻きとばかりに喚くと、彼女はニコッと微笑んだ。


ただし、目は全く笑っていなかったけど。


「我が国の、崇高なるヴィザールの巨木であれば、私も無碍には致しません。ですが、ここにあるのは、矮小な人間の国の貧相な木々だけです。それらがどうなろうと、心が痛むことなどありませんわ」


「あなたホントに性格終わってるわ!」


最初から敬意なんてものはほぼなかったけど、もう気遣おうとする気持ちはは毛頭少しもなくなっていた。


「……本当に、口の減らない人間ですね、あなたは」


忌々しそうに柳眉をひそめると、


「二度とそんな口が利けないよう……後できっちり仕置きをしますので」


「そんなことにつきあってる暇ないんですけどッ!」


「威勢だけは本当によろしいのですね……では、ごきげんよう」


彼女の右手がスッと頭上高く上げられ、


「”ウォーター・アロー”」


周囲の木々に向けて、一斉に水の矢が放たれ、


バキャッ―――!

ボキャッ―――!


矢が直撃した木の幹は破壊され、次々とこちらに向かって倒れていく。


ここにきて、まさかの生き埋め第2弾?!


「キャァーーー!ムリムリムリッ!」


絶叫を上げる私の頭上に木の幹が倒れてきた―――その時だった!


「土の精霊よ、汝の加護を以て彼の者を大地に縫い留めよ。”アース・ニードル”!」


凛とした少年のような高めの声が呪文とともに、


ジャキーーーンッ!


地面から出現した無数の棘が倒木を全て弾き飛ばした!


「なにごとッ?!」


第一皇女は棘に巻き込まれないよう、すぐさま後方に下がり距離を取った。


そして―――


土埃の中、私達を庇うように立つ小さな背中。


だけど、私にとってこれ以上安心する存在はなかった。


「遅れてすまない!無事だったか?!」


深紅の髪が汗で額に張り付き、琥珀色の大きな瞳がこちらを気遣うように向けられる。


「レッ……レッ……レンジくんっ!!」

ブクマして頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ