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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.48 トーマスの失われた足、そして、レンジの義手

マリーさんにレンジ君のことを説明し、私達はマリーさんの家にお邪魔することにした。


「……先生!」


こじんまりしたキッチン兼ダイニングの椅子に1人の男性が腰かけていた。


私は初対面だから、この人がトーマスさんなんだろう。


見るからに実直そうで、ただ座っているだけなのに背中がピンと伸びていて、姿勢が非常に良い。


『乗馬をすると姿勢が良くなる』という話を整形外科の先生からチラリと聞いたが、本当なのかもしれない。


だが、椅子の足元を見ると―――左膝の下、脹脛(ふくらはぎ)から下が完全に失われていた。


「トーマスさん。不在だったとはいえお力になれず、申し訳ありませんでした」


セインが頭を下げると、


「いやそんな、やめて下さい!先生は何も悪くありませんよ!」


トーマスさんは恐縮しながら言った。


「自分の不注意で崖から落ちてしまって、村のみんなにも本当に迷惑をかけてしまったと思っています……マリーにもティムにも余計な心配をさせてしまって……ッ」


目が自然と自分の膝に落ちていき、かつては当たり前のように存在していた膝から下を目の当たりにして息を詰めた。


「だけど……やっぱり、先生でも無理なんですよね?俺の足は、もう……!」


縋るように見つめてくるトーマスさんに、セインは悲しそうに俯いた。


それを見て、トーマスさんが慌てて手を振った。


「いやすいません、おかしなこと聞いてしまって!頭では分かっているんですが、まだ現実味がないというか……踏ん切りがつかないっていうか……」


残った左膝に手を置きながら、


「俺は……もう二度と馬に乗れないん、ですよね……」


振り絞るように出された声は、悲しくなるほど震えていた。


「失礼」


すると、レンジ君がセインの横に進み、


「そろそろ足を見せてもらってもよろしいだろうか?」


とトーマスさんにずけずけと尋ねてきた。


「な、なんだ、この子供は……?!」


初対面の、しかも自分の息子より少し大きいくらいの少年に見えたのだろう。トーマスさんが訝しみながら声を上げた。


「トーマスさん。今日からこの村に住むことになったドワーフの技能者、レンジさんです」


セインが慌てて取り成すようにレンジ君を紹介し、


「そして、君の義足を作ろうと思っている者だ」


と澄ました顔でレンジ君も答えた。


「義足……?それは、ありがたいが」


戸惑うトーマスさんに、レンジ君は更に言い募った。


「それもただの義足ではない―――本物と遜色ない動きをする義足だ」


レンジ君は左手の義手を掲げた。


レンジ君の義手は外側は手から肩まで鉄の鎧で覆われている。


その鎧の部分をスポッと外すと、内側の骨格が露になる。


「えっ?!」

「そ、それはッ……?!」

トーマスさんとマリーさんの顔が驚きの表情に変わる。


ポールさんとティム君も驚きのあまり息をのんだ。



人間の手や腕から皮膚や筋肉、血管などの軟部組織を全て削ぎ落し、骨だけ残したような作りだ。


その骨格は全て、いぶし銀のような金属でできている。


レンジ君は金属の骨格でできた手を、握ったり開いたり、1本1本指を折り曲げたり、デモンストレーションをする。


まるで本物の人体の手のような滑らかな動きだ。


(魔法のファンタジー世界にいるというのに、まるでSF映画のロボットを見ているようだわ)


最も、この手をここまで自由自在に動かすことができるのは、魔法のおかげだが。


「僕は生まれつき左肘から下が欠損していた。それを補うために、この義手を開発した」


レンジ君はそのまま胸の前で両腕を組んで見せた。


「あらかじめ言っておくが、僕は人間の義足は作ったことはない。だが、ドワーフなら100人以上の義足を作った経験がある」


何てこともないように伝えているが、そんなに多くのドワーフの義足を作ったことに素直に感心してしまう。


「彼らの職業は様々だが、みな僕の義足をつけて無事復職を果たしている。魔物と戦った結果、足を失った兵士も、再び任務に支障なく参加できていると聞く」


左腕に義手つけているレンジ君も、ドラゴンとタイマンで戦ってたしね。


「もちろん出来上がりを確認してから使用するかどうかは君が判断してくれて構わない。どうだ?」


「本当に……本当に、できる、んですか?」


トーマスさんの期待のこもった眼差しがレンジ君の左手に注がれる。


「最終的に決断するのは君だ。だが―――」


フッと自信に満ちた笑みを浮かべた。


「外野である僕が何とかしようとしているのだから、当事者である君も諦めずに全力を尽くしてもらおうか」


(マジでそれ言っちゃうのか!)


前世の病院だったら総スカン食らいそうなことを、サラッと言ってのけるなんて!


それでも全く厭味ったらしく感じないのは、元王族だった気品と威厳によるものなのか、長年積み重ねた経験と技術からくる重みによるのか。


(どっちもだろうな。レンジ君だから)


「……何だってする!もう一度……もう一度、馬に乗ることができるのなら、何だってッ!」


当然というかなんというか、トーマスさんも怒り出すこともなく、レンジ君に縋りつくように前のめりになった。


「いいだろう」


頷くとセインに向かって、


「もしバレット氏の荷ほどきがまだなら、この家の近くに封魔石の材料を持ってきてもらえないか、頼んでくれないか?僕は今から彼の膝の状態をみたい」


「あっ、それなら私が行ってくるよ!セインは念のため全身状態見てあげて」


「ありがとうございます、ユーリさん」


セインのお礼を背に家を出た。

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